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入院中


挿絵(By みてみん)




 6月29日、火曜日だ。

 S医科大学病院に行った。心電図検査と採血を済ませ、母と診察を待つ。2日前くらいから、30を切りそうな不整脈。大丈夫なのだろうかと思っていたが……不安が的中した。

 O山先生は、説明の折、ペースメーカーをつけなくてはいけない所まできていると、告げた。

 O山先生は優しかった。ひと通り検査で起きていた事を説明し終えると、沈黙し、母と外に出て考える時間をくれた。私はもう、ショックでしかなかった。自分で自分に言い聞かせる、ペースメーカーをつけるんだよ、つけなきゃいけないんだよ、と。つけたら……?

 仕事はどうなるの? 辞めるの? 辞めなくちゃいけないの?

 辞めたらどうなるの? もう外で働く所なんて、再就職は無理じゃないの?

 我慢しようとしても、涙を止められなかった。母がティッシュをくれた。どうしたらいいんだろう?

 時間が経って、また診察室に呼ばれた。このままで家に帰ると、いつ心不全で倒れてもおかしくないという。心不全――心臓の機能が低下して、体に十分な血液を送り出せなくなった状態をそう呼ぶ。それで帰らず、入院する事になった。

 ちなみに入院する前に新型コロナのPCR検査を受けてからでないといけず、先生が長い綿棒みたいなのを鼻に突っ込んだのが痛かった。先生が「痛いよ~」って言うのが遅い、もう突っ込んでいるし。先生、痛いです! と、泣きそうだった。その結果に時間がかかるので、待つ。

 驚いたが、車いすに乗せられた。そして運ばれる。階を下りて、入院手続きを受付まで行ってしてこないといけないという。あれよあれよという間に何枚かの紙を記入し、説明され、母よ~~! と、運ばれて、別れた。結果ははっきりとは知らないが、無事に入院できたという事は、陰性だったのだろうと思われる。

 急に入院する事になって、少しずつだが、受け入れていった。

 これから12日間の、入院生活が始まる。


 6月30日、水曜日。

 入院2日目。朝、昼、夜と、担当の看護師さんがしょっちゅう代わるので結構、覚えるのが大変だ。寝ぼけながら起きるが、採血から始まる。朝は6時起床。昨日も採って、今朝もか~~! 血が……。

 実は昨夜、ヤフオク! に出品中だった商品300件ほどを全て取り消す作業をしていた。3時間弱はかかったと思う。夜21時消灯だったが、寝るのが遅くなった。疲れた。

 なかなか寝つけずに朝を採血で迎え、分からない事は1つずつクリアしていこうとご飯はきっちりと食べた。母が荷物を届けてくれ、今後の事もO山先生が来てくれて説明してくれて、片づけた後にコンビニへ行ったり、シャワーができるので予約を入れた。洗濯はどうしようかなあと考えていると、突然、同室のおばあちゃんがわざわざやって来て挨拶した。胸がバックリと割れているのか白いテープが何枚も縦に貼っつけてあって、ギャーと悲鳴を上げそうになった。耳が片方聞こえないみたいで、うまく会話ができずに撃沈した。担当の看護師さんは研修生みたいだったが、私なんかよりはよっぽど会話が上手かった。

 仕事の方へも連絡を入れ、深くは突っ込まれず、とりあえず入院するので7月5日は休みをお願いした。観察入院でいるが、一体いつまでだろう。


 7月1日、木曜日。

 入院3日目。4人部屋だが、昨日に隣でおばあさん、向かいにおじちゃんが入ってきた。きっと私だけが長そうだなと思う。しかし今朝の目覚めが最悪だった。6時前なのに採血だ。右手だったが、縛るのが痛くて少々扱いが雑な気がしたのだ。看護師さんが去った後、段々息苦しくなってきて、起き上がって様子をみていた。苦しくて、座っているのにチカチカ、クラクラする。やばい、心臓が止まりそうだと焦った。

 ベッドから立ち上がろうとしたら右腰に激痛が走った。ピキーン。後で湿布もらって貼ってもらったが痛い。しばらく動けなかった。雨に関係があるだろうか、降っている。

 検温などが終わって昼ご飯だ。なんとひじきのふりかけ。ひじきは大嫌いだ。でも生ひじきではないのでしぶしぶワカメと思って食べた。生だったら残す。そういえば毎朝ヨーグルトを食べてヤクルトを飲んでいたが、買ってこようか迷う。牛乳が毎日出るのならいいかなと思う。食事制限は無いらしい、お菓子はいいと聞いた、食べる気は無いが。



挿絵(By みてみん)



 デイコーナーという所があって、そこは自由にテレビみたりお茶や水を飲む事ができる。折り紙を昨日にコンビニで買ってきたのでそれで箱を作った。 

 スマホやケータイが使えるのでいじっていたら、担当医のO澤先生が来てくれて、今日の心電図の結果と2冊ペースメーカーの冊子を頂いた。冊子を読むと、または先生に聞くと、仕事や普段の生活で、さほど支障は思うほど無いらしい。気をつける事はあるが、つけたらもう仕事は辞めようとかを思っていた私は、明るくなった。

 ペースメーカーは2種類あり、2017年に登場した、カプセル程度の大きさのリードレスタイプがあるという。

 従来のものはリードという線があって、それが心臓に繋がっている。鎖骨の下あたりに着けるので、感染のリスクがあって、目立つし、腕を上げる動作ができなくなるという欠点がある。

 新しくできたリードレスはその通りリードが無くて、直接心臓に植え込む。電池で動くので12年ほどしか持たないし使い捨てで出てくる事は無いが、従来のものの欠点は無いし、傷がつかない。

 日本の医療技術ってすごいなあと感服だった。おみそれした。もうつけるしかないのだから、覚悟を決めて挑まなければ。悩んでいる時間が勿体ない。でもつけて仕事ってしてもいいものか、それを会社に相談しないとと思った。私、サイボーグになる! 俄然、強気になれた。


 7月2日、金曜日。

 朝の採血が無かった。検温などはあったが、しかし、体温が37℃と高めである。昨夜は初対面のO澤先生が来てくれて冊子を頂き、疑問とかがあれば聞いたりメモとってみてと言って下さった。仕事の今後ばかりが気になっていて、自分が関わっている範囲の機械はどうなんだろうかと考えた。冊子で、大体は大丈夫なのではないかと思えてきたが、確実ではない。でももし仕事を続けられたら、メーカーさんに頼んで直接、工場へ行って調査する事ができると教えてもらった。京セラだったかな、大手でも機械OKだったのもあり、そうなんだじゃあ働けるかもと希望が出てきた。会社に電話して聞いてみなきゃと思った。

 昼は主に読書で過ごし、17時頃にシャワーに行き、不整脈かにゃあ? の手術を受けた男性がお向かいに戻ってきて、ずっと安静にしていた。数日後、自分もあのような姿になるのだと思うと……複雑だ。隣で寝ている人も、よく点滴が鳴ったりして、バタバタと騒がしい。大きい方のおトイレが出てなくてやっと出たらしいよ。

 夜に再びO澤先生が様子を見に来てくれ、1回だけ脈が速かったと心電図を見せてくれた。16時頃だったらしいが、昨日ならちょうどシャワーの時かなと言ったら、自覚は無いよと言った。心電図ホルターを入浴以外にずっと体につけっぱなしで、3本の線の先がテープで心臓まわりにくっつけてあるが、シャワー行く前か後って何かあったかなあと悩む、いたずらな心臓だよ。

 消灯が21時だが、寝る前にO山先生が来て、今後の事を相談した。私の中では冊子を読み終えた時から、体にペースメーカーをつける事に決意を固めていて、リードレスがいいと伝えた。先生はどう感じられたかは知らないけれど、話は進んだ。本来、私の症状には従来の方が合ってはいるが、リードレスでも問題ないとの事だ。少し考えたが、感染症のリスクを考えたら、やはりリードレスがいいかもと私は決め、その後に先生と別室で、書類で説明と手続きを受け、サインし、手術する日が7日に決まった。

 迷っている場合ではない気がした。それは怖いだけだ。先生達を信用しているし、きっとすごく怖いけれども。

 お母さんに電話しておくねとO山先生が言ってくれて、部屋に戻ってからしばらく、入院後まだ何も知らない母に電話した。先生から電話あったよと言い、リードレスタイプのペースメーカーをつける事になったんだと、話をして、緊張していた気持ちが和らいでいった。手元にあるペースメーカーの冊子を読んだら分かりやすく理解できるだろうなと思った。他にはない味の、店でも出してた事がある母の唐揚げ、食べたいなあ、と思った。

 静かな部屋で、考えた事が沢山あった。そういや、働いている工場で作っているお菓子の事を知っている看護師さんがいたな、嬉しいな。植えつけるペースメーカーが寄生虫みたいだと言ったら看護師さんにウケたっけ、まるでペットを心臓に飼うようだ。

 おいら、サイボーグになる! 性懲りもなく、また言った。


 7月3日、土曜日。

 本を1冊読めた。冲方丁さんのこち留。冤罪の話だ、警察や検察を悪く書いている。持ってきてもらった本を読み終えたので、デイコーナーにある本を借りてきて読み始める。今年に本屋大賞をとった本らしい。デイコーナーで読んでいたらO山先生がやって来て、今後の予定を伝えた。5日と6日に検査して、7日に手術である。いよいよだ……。

 あんまり考えないようにして臨もう。さておき、会社に連絡しないとと電話した。出たのは、サポート部の人だった。前に自分のチームのグループ長さんだったのがあって、そのまま、入院中で、ペースメーカーをつける事になりましたと告げた。相談したが、先に(報告するのは)グループ長でしょうと言われた。そりゃそうだよなと思うが、内心、グループ長って○○さんだったっけ? という、自信が無かった。

 不整脈が現れてからは、事の大きさが分からず一体誰に相談したらいいのだろうと悩んでいた。はじめは現場リーダーやシフトを作成する人に言い、重くなってからはやはりトップの方に報告するのが筋だろう。

 だが情けない事に連絡したくても、今でも泣きそうで、辛い。説明も、細かく複雑に長くなるかもしれない。上手く伝えられないもどかしさを感じつつ、また連絡しますと言われて電話を切った。ひとまず連絡できたと脱力感で泣けてきた。

 部屋に戻ってから、折り紙で七夕飾りを作ろうと始めた。スタッフステーション前に笹が飾ってあったのを見て、あるもので何とかなるかなと考えていた。2回くらい、トイレのドアを人がいるのに開けてしまった。昨日は広い方の外のトイレを借りたが外側のドアを開けられてしまったっけ。おばあちゃん、びっくりしたよね、ごめんなさい。

 夜ご飯はハンバーグ。週末はメニューを3パターンから選択できるらしく、紙があった。9日の誕生日はハンバーグを選んだ、そうだ、何か立ててハンバーグケーキにしようと思いついたからだった。


 7月4日、日曜日。

 朝、体重を測りに行った。食べる量は家に比べて減ったはずなのに体重が変わらない、何故だ。今日は検査も無く検温だけだった。日中、向かいの2人の(おじいちゃんとおばあちゃん)対応で看護師さんは忙しそうだ。コンビニに行きたかったのでお願いしたが、15時のシャワーの後にもなってしまい、何度も謝られてしまう。いや、誰のせいでもなく……と恐縮しながら、車いすで、重いだろう、運んでくれて、溜まっていた買い物を済ませた。朝に目覚めたとともに思いついたのだが、レターパックを買い、工場と母にペースメーカーの説明書を送ろうと思った。言葉でなくても手紙なら書けるかも。冊子があれば大概がまとめて書いてあるので分かるかもと考えた。

 それで没頭して手紙を書いていたらもう夜ご飯だ。1日が早かった。本も読み進めている。今夜は19時から楽しみに観てきたテレビ、お料理界のM-1とも言われるドラゴンシェフの決勝戦だった。母にテレビ録画をお願いしてはある。時々泣いてしまい、ずっと情緒の浮き沈みがあって安定しない。そのせいもあって、体は熱っぽい感じがした。


 7月5日、月曜日。

 深夜、1時くらいに目が覚めてしばらくして、息苦しいような感じがして上半身を起こしてみると、少しは楽になったような気がして、ちょっと待ってから寝た。似たような事ばっかり……。苦しいの、嫌だな。まだ、痛みとかで寝れないよりかは、いいかな。

 1日ずっと、どんよりとしている空。中にいると分からないけれど、外は暑いのかな。テレビをつけると災害のニュースばかりだ。静岡の土石流、行方不明者が多数。雨がすごい。

 窓のブラインドの開け方も閉め方も分からない。どうやったらスムーズに開け閉めできるのだろう。

 私の隣にはオオモリさんという、おばあちゃんで、手術してきたのかな。術後の痛みがきついのかな、怖いなあ……。私の向かいの人も高齢のおばちゃんっぽいが、同じ不整脈みたいで、話しかけられた(「奥さん」と呼ばれた)。ちょっと話した。その前にいたのは男性で、午前中に退院し、次におばちゃんが入院してきたみたいだが、息切れ、辛いよねえ、階段とか、しんどいよねえ、と話が弾んだ。

 昨夜に梱包し終えたレターパック2件、送ってもらった。明日にでも届くかな。職場では、年間改善発表会なるものがあって、私のいる部署チーム、廊下挟んで向こうのチームが上位に入ったと知った。これはすごい、なかなか上位ってとれるものでもないぞと、すごく喜んだ。

 O山先生や、執刀医らしいY先生という若い先生が会いに来てくれた。ありがとう、頑張る。痛みもそうだけれど、怖さに耐えるに頑張る事にしよう、寝てれば終わるはずだから、と言い聞かせた。



挿絵(By みてみん)



 今日は今日中に作ってしまおうと、七夕飾りを作っていた。はさみが持ち込めないので手で千切ったりでボロッボロだが(そしてセンスを我ながら全く感じないのだが)、どうにか形にはなった。まあいいや自己満足、ひとりで楽しむ。9日にもハンバーグにさすようにとプレートもついでに作った。これら作ったはいいが後でどうしよう、持って帰るのか捨てるのか。さあね?

 本を1冊読み終えた。『52ヘルツのクジラたち』町田そのこさんの本だ。次は何を読もうかとデイコーナーから浅見光彦さんのマンガとホリエモンさんの本を借りてきた。読みきれるかな、退院までに。

 明日は、あゆラストの日だ。ばいばい、あゆ。明後日からは、あゆサイボーグな日々だ。

 自由、さよなら……。



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