私がそばに
拙い文章ではありますが、雰囲気だけでも感じて頂けましたら、嬉しく思います。
…歌が聞こえた。
慣れ親しんだ声だった。
どうしてだろう…その声は悲しみに満ちていた。
ほら、泣かないで。
私がそばにいるのだから…
…いつもの事だった。
それが私の通る秘密の道だったから。
大人は誰も知らない、知っているのは、私の親友のみっちゃんぐらいなものだ。
お母さんや先生は危ないから近付くなって言ってるけど、へっちゃらだった。
だって、猫がそこを通っているのを見たことがあるから。今日だってそこを通るつもり。そうだ、今日は久し振りにみっちゃんと通ろう。
うん、それがいい。
「え…うん。でもね、この前一緒にあの道を通って…私ママに怒られちゃったの。スカートを汚しちゃって、理由を聞かれて…ごめんね。」
みっちゃんは泣きそうな顔をしながら、そう答えた。
そうか…最近なんだかつれないなと思ったら、そんなことだったのか。残念…。
仕方ないから今日も一人で行こうっと。
…あ、雨だ。
もう…朝の天気予報では降らないって言ってたのに。
急いで行かなきゃ。
…そう、いつもの事だった。
雨が急に振り始めて、しかもそれが土砂降りになるような雨だった以外は…。
気が付くと私は布団で横になっていた。
「あれ…?なんで私こんなところで寝てるんだろ…。」
上体を起こした私はそっとつぶやいた。
ふと見上げた天井は、見慣れた我が家のそれだった。
今が何時か気になった私は、壁に掛かった時計を見た。
「うーん……三時?」
どっちの三時かは分からなかったが、とにかく今が三時ということは分かった。
「お父さんとお母さんはどこだろ…」
そう誰ともなく言った私は、布団から起き上がり、両親の寝室を覗きに行くことにした。
だが、そこには誰もいなかった。
仕方ないので、外へ出ることにした。
「あれ…夜…?」
外は月の明かりに照らされて明るかったものの、暗闇に覆われた世界だった。
「なんでお父さんとお母さんいないんだろ…」
その時だった。
…歌が聞こえた。
慣れ親しんだ声だった。
どうしてだろう…その声は悲しみに満ちていた。
その声に導かれるように、私の足は一歩一歩歩みを進めた。
そして、その歌は、私の学校の体育館から、ピアノの音とともに聞こえていることが分かった。
…そこで歌っていたのは、みっちゃんだった。
私はガラス越しにみっちゃんに手を振った。けれどみっちゃんは歌うことに夢中なのか、私に気付くことはなかった。
私は開いていた体育館の入口から中に入ると、大声でみっちゃんに向かって叫んだ。
「みっちゃ――ん!」
手を振りながらみっちゃんの方へ駆け寄ったが、やはりみっちゃんには聞こえていないようで、何の反応もなかった。
そこで私ははじめて気が付いた。
みっちゃんは泣いていた。
私はみっちゃんのそばまで来ると、いつもみっちゃんが泣いてしまった時のようにささやいた。
「ほら、泣かないで。私がそばにいるから…」
そして、その言葉が聞こえたのか、みっちゃんは、私の方へと振り返った…。
「うん…」
みっちゃんが泣きながら返事をすると、私は眩い光に包まれた。
送る歌を歌い終えた私は、彼女が最後に伝えたあの言葉を信じ、あの日から泣くことをやめたの。
今でもきっと彼女は私のそばにいてくれている。
だからこそ私はここまで強くなれたんだもの。
悲しい思いはあるけれど、寂しくはないよ。
彼女の墓参りに娘と来ていた私は、娘にそう言って聞かせた。
…娘はただただ微笑んでいるばかりだった。
そして一言…
「私がそばにいるから…」
お目汚しな文章で申し訳ありませんでした…
読んで頂きありがとうございました。
それではまたお会いできますように…