3.結成、『みんなのお悩み相談室』
春風の突然の入部希望に心は驚いたが、深呼吸をしてすぐに冷静になった。
心「なに?その人生相談部っていうのは?」
春風「えっ!違うの?」
心「違うっていうか、そもそも俺がやっていることは部活でも何でもなくて、ボランティアみたいな感じかな。」
春風「えー!そうなんだー。」
心「そう。だから入部とかはないよ。」
春風「そっかぁ。じゃあ作ろうよ。」
心「えっ!」
春風の提案に心は驚いた。
心「作るって、部活を?」
春風「うん。まぁ4人以下だと同好会になっちゃうけど…」
心「いや、部活でも同好会でもあんまり変わらないっていうか、どうして作りたいと思ったの?」
春風「それは…この前、蒼井くんに相談に乗ってもらったでしょ。あの日から教えてもらったことをやってみて、私少し変わった気がするの。気のせいかもしれないけど…」
心「いや、変わってると思うよ。」
春風「ありがとう。それでね、蒼井くんが言ってたことを思い出したの。悩みは誰でも持っているってこと。そしたら、なんだか困っている人たちを助けたいなぁと思って。でも今の私じゃ全然知識も能力も足りないから、蒼井くんと一緒ならできるかなぁと思ったの……。ごめんね、なんか勝手に自分の考えばっかり言って。」
心「いや、全然。春風さんは優しいんだなって思ってたところ。」
春風「えっ!私が!全然優しくないよ。ていうか、蒼井くんの方がすごく優しいよ。」
なんだか二人でイチャついている感じになり、変な空気になってしまったが、心がすぐに切り替えた。
心「まぁ、俺ももともと困っている人が助けを求めてきたら力になりたいと思って始めたことだから、動機は一緒だな。でも同好会にする必要ってあるの?」
春風「それは…うーん、なんとなくというか…、同好会とか部活の方がいいかなっていうか…」
春風が言葉に詰まりながらも考え抜いているときに、心はなにかを閃いた。
心「いや、まてよ。このままただ何もせずに待っているだけじゃ、人は来ないか。いや、一人来たけど、おそらく例外だろうな。人に来てもらうには、まず認知度を上げなければならないから、そのために、同好会を作るのはいいかもしれないな。それに認知度を上げる練習にもなるな。他にもマーケティングや影響力の……」
心はなにやらぶつぶつと独り言のようにどんどん喋り始めた。止まる様子もなかったので春風が遮るように言葉を挟んだ。
春風「蒼井くん… 蒼井くん!」
心「えっ!あっ、ごめん。ついいろんなことを考えてしまって一人の世界に入ってた。」
春風「なんかすごい喋ってたね。でもごめん、聞いてたけど話についていけなかった。」
心「えっ、あぁ大丈夫。個人的なことだったから。それと、同好会作るのいいかもな。」
春風「えっ!ほんと!」
心「うん。いろいろ学んだことを実践できるチャンスかなと思って。俺も本を読んで知識はあるつもりだけど、実際にやってみると上手くいかないことってたくさんあるだろうから、いい練習になるかなと。」
春風「そうなんだ!私も蒼井くんと一緒ならいろんなことを学べるかなと思ってたの。」
心「それで困っているも助けることができたら、win-winだな。」
春風「そうだね。」
心と春風は意気投合したようにどんどん話を進めていった。
心「じゃあまずは同好会をどうやって作るか調べないと。」
春風「それは、この用紙に必要事項を記入して先生に提出すればできるよ。」
心「えっ!」
春風は、部活・同好会申請書と書かれた用紙を心に渡した。
心「春風さん…もしかして最初からこのつもりだった?」
春風はなんのことかなっていう表情をして誤魔化そうとしているが、心はすべてを悟り、してやられたと思った。
心「春風さん、なかなか誘導が上手いね!勉強になったよ。」
春風「なんかその言い方だと、私が罠にはめた感じがするんだけど、気のせいかな?」
心「気のせいでしょ。」
そんな会話をしながら、心は用紙に目を通していた。申請書の内容は、部活・同好会名、活動内容、部員数、顧問だった。
心「同好会名か…」
春風「人生相談同好会じゃダメなの?」
心「うーん、ダメってわけじゃないけど、なんか堅苦しい感じがするなと思って。それに学生相手に人生相談する人ってあんまりいない気がするんだよなぁ。」
春風「そっか。確かに人生相談って年上の人にするイメージがあるかも。」
心「うん。そのイメージだよな。もっと学生に馴染み深い名前にしたいな。」
春風「馴染み深い名前かぁ……悩み解決同好会とか?」
心「うーん、それもちょっとなぁ。解決できるかはその人次第だからな。俺たちがすることは、悩みを解決するための知識を与えることだから……知識提供同好会…いや論外だな。」
春風「なんか名前決めるのって結構難しいんだね。」
心「そうだなぁ。なんかだんだん変な方向に行きそうな気がするから、一旦保留にしよう。」
春風「うん。そうだね。」
心「活動内容は、『生徒の日常の悩み相談を受けたり、解決するための知識を提供したりする。』とかでいいか。」
春風「うん。」
心「部員数は2人で。顧問は……どうする?」
春風「どうしよっか。」
ここで二人はまた考え始めた。
春風「担任の白石先生は?優しいし受けてくれるかも。」
心「そうだな。俺も白石先生しか思いつかなかった。優しいのもあるけど、あの人頼み事断れない感じがするしちょうどいいかもなって。他にどんな先生がいるかも知らないし。」
春風「私もよく話す先生、白石先生と部活の先生しかいないから、ほとんど知らないや。」
心「じゃあまずは白石先生を当ってみよう。説得術使ういい機会になるし。」
春風「説得術とかも知ってるの!?」
心「うん。まぁ初めてだから上手くいくかわからないけど…。」
春風「なんか面白そう。」
4項目のうち、3つの項目がすぐに決まり、残り一つの同好会名に話が戻る。
心「同好会名かぁ。」
春風「また戻ったね。」
心「うーん、あんまり変なのにして何をするかわからない名前にはしたくないしなー。やっぱ最初はシンプルにしてみようか。」
春風「何か思いついたの?」
心「いや、思いついたというより、元に戻った感じかな。『みんなのお悩み相談室』はどうかな?」
春風「うん。シンプルでいいと思うよ。何をするかもわかるし。」
心「本当にこれでいい?」
春風「うん。いいよ。」
心「じゃあ決定。『みんなのお悩み相談室』ということで。」
二人の意見が一致したことで結成された『みんなのお悩み相談室』(まだ顧問の許可が下りていないが)。これがきっかけで蒼井心はたくさんの人と出会い、いろんな経験をして成長することになる。
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