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その手が。  作者: 柚子餡
9/20

8話

了視点前半です。よろしくお願いします。





 5歳の時に出会ったあの少女の泣き顔を、笑顔を、今でも鮮明に覚えている。





 ****************





 家から近いから。それだけの理由で受験した、一応は進学校でもある『私立青ヶ原高等学校』。母親同士の付き合いで赤ん坊の頃からの幼馴染みの累も気が付いたら同じ高校を受験しており、2人そろってあっという間に入学式を迎えていた。


 恙無く進行する式に参加する中で、欠伸をかみ殺しながらふと視線を向けた先、同じく新入生の並ぶ列の中に、幼い頃の面影をした彼女に良く似ている女生徒が居た。


 周囲の音が遠ざかるように聴こえなくなり、式が終わるまで彼女から目が逸らせなかった。





 ****************





「了、実はおれのクラスに面白い子がいてさ」


「ふーん」


「ふーんって…。もう少し興味持ってよ…。まぁいいや、それがさ……」


 ーー入学式から2週間後、彼女のクラスが累と同じという事が分かった。それと同時にあの時の少女、『ささくら あやね』と同姓同名の『笹倉 彩音(ささくら あやね)』という事が判明した。


 こんな事もあるのかとも思いはしたが、自分からは接触しない事を決めた。


 幼い頃に出会った彼女(あやね)ではない別人だった時はまぁ、同姓同名なだけか、と納得できるかもしれない。しかし、入学式の時に自身が陥った状態の事を思い返すと、本人ではあるが全く記憶になかった場合、「何故覚えていないのか」とか、「俺はずっと覚えていたのに」とか、いつもはあまり動かないと自覚している感情やら理性やらを抑えておける自信が、情けなくも無かった。


 だから彼女の居る、累の居る教室には必要最低限近寄らなかった。たまに累から彼女の話を聞く事があったが、あまり心穏やかに聞く事も出来なかった。彼氏彼女の関係はおろか、彼女自身が俺のことを覚えているかも危うい、知り合いの関係になるかも怪しいのに。寧ろ累の方が同じクラスで打ち解け、知り合い以上には親しくなっていて…。


 嫉妬した。自分から接触しないと決めた癖に。そして、そんな嫉妬をしている事が虚しくなった。


 気付けば彼女を目で追いはするが、すれ違ったりする事も避ける様になっていた。俺は思っていた以上にヘタレだったんだなと自嘲した。



 そんなこんなで1年の過程を終え、2年へと進級した。新たなクラス分けを確認して思わず目を見開いた。


 ——彼女(笹倉 彩音)の名前が、俺と同じ一覧表(クラス)の中に、ある。



 彼女に近づく事が出来るかもしれないとも思ったが、ここ一年の癖でつい『笹倉 彩音』を避けていた事もあり、自分からアクションを起こすのは難しく感じた。

 だが今回は彼女とも親しくなっている累も同じクラスである。もし関わる事があればそれはその時考えよう。


 …なんでこんな矛盾した、累頼みの他力本願な事考えてんだ…。そう思いながらいつもはあまり通らない道(静かで近道できる通りではあるが、たまに変な輩が路上にいる事もあるのでお世辞にもあまり治安がよくない通り)を使っての帰宅途中、何やら前方にその変な輩が出没ている様であった。


 自宅がある方角にその輩はいるので必然的に近くに寄ることになる。


 そしてどうやら男3人でナンパして女1人に拒否られているらしい。それぞれの服装を見る限り、ナンパを拒否られてる男供は他校生、引っ掛けられている女はどうやら同じ青高生みたいだった。

 囲まれていて顔も見えない事だし、こんな所に来る方がどうかしていると思いスルーしようかとも思っていたのだが、どうやら路地裏に無理矢理連れ込まれようとしている様であった。流石に無視するのも気が引けてきたその時。



「ふ、ふざけないでください!そもそも、あなた達が広がって歩いていて通れないから脇に寄っていたのであって、待ちぶせしていたワケじゃありません!!大体、あんたに熱い視線なんか送ってもいないし、顔を覗き込んでなんかもないわ!!」


 聞こえてきた声に血の気が引くのが分かった。


 彼女の、『笹倉 彩音』の、声…?


「ねぇ、なにやってんの?どう見てもナンパ、失敗してない?」



 気が付いたら、そう声を上げていた。




書いていてなかなか面倒臭い性格になっちゃった了君。次回の後半もよろしくお願いします。

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