6話
本日2話目です。今回暴力シーンがあります。苦手な方は飛ばしてください。
「はぁ?んだよ、てめぇ?」
その1が声のした方へ首を少し回して睨みながら声をあげた。
「だから、どう見たって拒否られてんだからナンパ失敗してんだろって言ってんだよ。」
かなり喧嘩腰なその声の主の姿を涙でぼやけた視界がとらえた。
170cmはありそうな身長で、柔らかそうな黒髪をふわりと風になびかせ、少しつり目気味な猫目を鋭くさせ、私と同じ学校の、青高(青ヶ原高校)生の制服を着た男子が剣呑な圧を撒き散らしながらこちらを見据えていた。
—あれ、なんかデジャブ?
そう思って思わず青高男子をガン見していると、今朝の夢を思い出した。まるであの時の『りょうくん』が成長して目の前に現れたみたいだ…。…目つきがだいぶ悪いけれど。
ぼーっとそんな事を考えながらガン見し続けていると、ふと視線が交わった。そして僅かに目を見開き、すぐにまた鋭いものへと変わり、その1に視線を戻した。
そして次の瞬間には間合いを詰めて私の手首を掴んでいたその1の手首を捻り上げた!
「ぐわぁっ?!いってぇ?!っ離せ!!」
腕を捻り上げた流れでそのまま腕を背中に回して地面に抑えつけてしまった。あっという間の出来事に思わず瞬きをするのを忘れてしまう。
しかし、相手は3人。その2と3も黙ってはいない。
「てめぇ、いきなり何しやがる!!」
その3が地面にその1を抑えつけている青高男子の顔面めがけて蹴りを繰り出した!
「っ!危ないっ!!」
私は思わず顔を逸らして目をつぶってしまう。
「がふぅぁ!!?」
聞こえてきた呻きと叫びの間のようなものの方へと恐る恐る視線を向ける。そこで鼻血を流しながら伸びていたのは勘違い野郎その1であった。どうやら青高男子は咄嗟に後ろへ飛んで避け、丁度足がクリンヒットする位置に抑えつけられていたその1が上体を起こしてしまったという事みたいだった。
「お、おい!お前、何してんだよ!!」
私の背後に回っていたその2が同士討ちをしたその3に叫ぶ。…って、いつの間に背後に回り込んでたの?!
「わ、ワザとじゃねぇよ!!アイツが避けてコイツが起き上がって来ちまったんだよ!!」
「クソッ!このやrっぶべらっ?!!」
そんなやりとりをしていた私の背後にいた勘違い野郎その2が後方へ吹っ飛んで倒れた!
今度は何?!そう思って正面に向き直ると、私の頭の上で拳を突き出した状態の青高男子が視界に入った。今度はどうやら仲間内で言い争っている間に私の背後のその2を殴り飛ばしたようである。
私は腰が抜けてその場にしゃがみ込んだ。
「あとはお前だけだな」
凍えそうな程に低い声でそう静かに述べた。決して大きな声ではなかったがよく通る声だった。
「く、クソったれがぁ!!覚えてろよぉ!!!」
そんなよくある捨て台詞を吐いて、勘違い野郎その3は仲間2人をなんとか引きづりながらこの場から逃げて行った。
「…終わったの……?」
誰にと言うわけでもなく呆然とそう呟いた私の前に青高男子が片膝をついて視線を合わせてきた。
「…怪我は、無い?」
そう言った彼の猫目は、先程までの剣呑さも、鋭さも無くなっていた。代わりにいつかに見たような心配しているような、安心してと言っているような色が浮かんでいるように見えた。
「…うん、大丈夫…」
私がぽつりとそう呟くと、彼は立ち上がってその手を差し出してきた。
彼のその手を掴む。
彼の手に引かれて立とうとして—
「……」
「……」
——腰が抜けていて立てなかった。