3話
「和葉ぁ…。いい加減、機嫌を直してよぉー…」
ようやく訪れた昼休みの教室にて、半泣きになりながら情けない声を出すのは、どうも笹倉 彩音、16歳です。前述の通り親友のご機嫌が直りません。お弁当を食べても、お菓子を貢いでも、購買で人気のプリン(数量限定)を差し出しても、なかなか直らない。
「もぐもぐ…。別に今は機嫌なんて悪くないわよ。ただちょっとイラついてるだけだもの」
「やっぱり機嫌悪いんじゃん!申し訳ございませんでしたぁー!!」
差し出したプリンを食べながらご機嫌斜めを否定して、ご機嫌斜めな態度を隠そうともしない(言っていて訳分からなくなってきた)親友は未だに私の謝罪に対して何も触れない。食べるものは食べているのに…。ぐすん。
「るいちゃぁん…」
困り果てた私は目に涙を溜めながら累の腕の袖をちょこんとつまむ様にして助けを求めた。「うっ…!」と絞り出す様な声を上げて固まる累。固まってないで助けてください。
「人様にこれ以上迷惑を掛けるのはやめなさい。…見てておもしろいけど」
呆れた様に前半部分を言い、ぼそりと言った後半部分はよく聞き取れなかった。でもいつのまにか機嫌が少し直っている様なのでよしとする。あれ、今のやりとりのどこに機嫌を直す要素あったの…。
「そういえば、原田君の幼馴染み兼親友とやらも今回同じクラスになったのよね?どこにいるのかしら?以前ちらっと見たことはあるけれど、きちんと正面から挨拶されたことも顔を見せに来たことも無かったと思うのだけど…ぱくっ」
プリン(2個目)を食べながら、ちらりと教室中に視線を流して思い出した様に若干上から目線でそう言い放つ和葉さん。何様かと問われれば女王様としか言えない。
なんとか持ち直した累が「あぁ、そういえば」と口を開いた。
「毎回昼休みはどこかに行っちゃうんだよね。お陰で高校入ってから昼休みにあまり一緒に過ごしたことないな…。大体は屋上付近に居ると思うんだけど」
「ふーん」
「…うん」
「ぱくっ…もぐもぐ」
「……」
聞いておいてさして興味があったわけでもなかったらしい和葉様。返事が素っ気ない。
「そ、そういえば、1限目に自己紹介してたじゃない?どの人っ?」
累がちょっと不び…かわいそ…なんというかいたたまれなくなったので噛みながらも聞いてみる。正直、1限目の自己紹介の時間は和葉のことで思考が旅立ってしまっていたため、誰が誰でどんな見た目だったかなんて憶えていない。流石に去年一緒のクラスだった人は憶えているが。
「あ、あぁ、うん。長内 了っていたでしょ?そいつが幼馴染みなんだ」
…うん?『りょう』…?…まぁ、別に珍しい名前ではないもんね。—ふと今朝見た夢を思い出す。
「へぇー、そうなんだ。1年生の時に違うクラスに幼馴染みの友達いるって言ってたもんね。どんな人なの?」
「うーん、あまり他人に興味を持たないタイプかな。あとは頭が良くて運動神経が良い…って感じかな?」
「へぇー」
他人に興味を持たない…じゃあきっとあの時の男の子じゃないな。あの子は最初遠巻きながらもこちらを気にしていたワケだし…。同じ名前の別人だろうな。
ふむ、なるほどぼっち系というわけね、なんて失礼な事を考えていると予鈴が鳴った。
「ご馳走様。」と手を合わせた和葉の前には空の弁当箱と献上したお菓子のカラ、食べ終えたプリンの容器が3つ並んでいた——。