9話
暴力的描写があります。苦手な方は飛ばしてください。また、前回に引き続き了視点で6、7話を反芻する様な内容になっています。そしていつもより長めです。よろしくお願いします。
彼女を、路地裏に連れ込もうとしていた?
そう考えただけで今まで抱いてきたごちゃごちゃとした考えが飛んだ。
しかも。
「はぁ?んだよ、てめぇ?」
彼女の腕を掴んでいやがる。俺なんか(ほぼ一方的に)再会した(かもしれない)のに触れるどころか、まだ声を掛ける事すら出来ていないのに…!!(八つ当たり)
「だから、どう見たって拒否られてんだからナンパ失敗してんだろって言ってんだよ」
元々悪いと身内に評判の目付きが更に鋭くなるのが自分でも分かる。
彼女からの視線を感じて、こちらも彼女の方へと視線を移した。
目を丸くしてこちらを真っ直ぐ見つめる彼女の瞳には、今にも溢れ落ちてしまいそうな程に涙が浮かんでいた。
——彼女が、泣いている…?
更に色々ふっ飛んで一瞬思考が停止する。彼女を掴んでいる男に視線を移し、気が付けば身体が動いていた。
そのまま彼女の腕を掴んでいた男の腕を捻り上げ、その腕を背中に回し組み伏せる。
時間を置かずに男の仲間がそれぞれ動いているのが視界の端に映る。
その内の1人が俺に蹴りを入れようとしているのに瞬時に反応し、後ろへ飛び退ける。それとほぼ同時に彼女が「危ないっ!!」と声を張り上げた。
直後に俺の顔があったあたりに組み伏せていた男が起き上がり、見事その顔面に蹴りが入り伸び倒れた。
同士討ちを見届け、もう1人が彼女の背後に回っているのが見えて、またもや身体が勝手に動いた。
「お、おい!お前、何してんだよ!!」
「わ、ワザとじゃねぇよ!!アイツが避けてコイツが起き上がって来ちまったんだよ!!」
仲間内で口論をし始めており、こちらに気付いていない。
助走をつけて踏み込み、体重が乗った渾身の右ストレートを彼女の背後の男の顔面に打ち込んだ。
いきなり背後の男が吹き飛んだ事に驚いたのか、彼女は勢いよくこちらを振り返り、一拍おいてしゃがみ込んでしまった。
…もしかして、怖がらせた…?
…こいつらのせいで、『笹倉 彩音』に怖がられたのか…?そう考えると怒りがふつふつと湧いてきた。
「あとはお前だけだな」
地の底を這う様な低い声が響き、残りの男は『ザ・小悪党』と言わんばかりの捨て台詞を残し、仲間を引きずりながら逃げ帰った。
ぽつりと呟かれた「…終わったの……?」という彼女の言葉に我に返り、片膝をついて視線を合わせて、恐る恐る怪我の有無を確認した。
呆然としては居るが、怪我も無く、俺を怖がってもいない様子なので内心安堵する。
立ち上がり手を差し出すと、彼女は軽く目を見張り、俺の手を掴み返してくれた。
…小さくて、細くて、綺麗な手だった。
その手を引いて立ち上がってもらおうとしたが、上手く力が入れられないのか、立ち上がる事が出来ないようであった。
—無言で俯き、僅かに震えている。
…もしかして、先程の騒ぎの中で足を痛めていたかもしれない彼女を無理矢理立たせようとしてしまった…?
血の気が引く思いでその考えに至ると、彼女の斜め前に腰を降ろし、他にも何処か怪我をしていないかと全身を確認する。そして視界に入る、右手首に付いた、相当強く掴まれていたであろう痕。
考えるより先に手が動き、その痛々しい痕をなぞる様に触れていた。
…俺は、彼女を守り切れていなかったのか…。思い出してみれば、先ほど彼女が差し出したのは左手だっだ。それほどまでにこの右手首を痛めたのか、そう思いながら彼女の手首の痕を触れなぞる。
「…あの、くすぐったいです」と少し戸惑いを含んだ様な声を掛けられた。よく考えずに衝動的に触れてしまっていたと思い至り手を止めた。
今度こそ、気を使わずに本当のことを言って欲しい。そう願いを込めて彼女の涙で潤んだダークブラウンの瞳をみつめ再度聞いてみたが、またしてもどこも痛くないと気を使わせてしまった。
…かなり頑固だな…。そう思い質問攻めにもしてみる。
すると彼女は変な声をあげて少し様子が変わった。焦りながら大丈夫だと言い募り、無理に立とうとして失敗した。俺の言葉でムキになって立とうとし出したのかと思い、内心もの凄く焦った。
そして俺よりも更に焦っていたらしい彼女が取り乱しながら…
「ち、違うの!ただちょっと腰を抜かしてしまって、立てなくなっただけで!!本当に怪我はしてないの!!涙は恥ずかしくて何故か出ちゃっただけなのぉお!!!」
と叫び、はっとしてから顔を赤くして俯きながら顔を手で覆った。
今の叫びが彼女の本音なのだとやっと理解した。そしてそれを吐露したのがよっぽど恥ずかしかったのか、もごもごと言葉になりきれていない声で何やら叫んでいる。
その光景に思わず口角が上がった。
そして、さっきまで必死に本音を伝えて欲しいと空回っていた俺に、最初から本音を伝えてくれていた彼女を見て笑いがこみ上げて来た。笑い声を堪えようとしたが堪え切れず、漏れてしまっていた。一通り落ち着いたところで視線を感じ、笑い過ぎたかと咳払いをして必死に無表情を取り繕った。
にやけてしまいそうになるのを必死に堪えていると、ジトーっとした視線を向けられた。
こんなにころころと表情が変わるのか。そして、今までずっとこんな表情を見逃していたのか…。
そう思うと少し悔しくもあったし、俺らしくないウジウジとした一年を過ごしたなと、そう思った。
なんだか色々吹っ切れた。
—もう一度、始めればいいじゃないか。
徐に立ち上がり、そう思いながら手を差し出した。
きょとんとした顔で俺の手を見つめる『彩音』。
その表情もまだ見ていたいけれど、また別の表情も見てみたい。そう思って手を掴むように促した。が、そろりと手は出すがそれ以上に進まない。
ジレた俺はならばと思い、彩音の腕をグッと引き寄せ、腰が浮いた隙に背中へと腕を掴んでいない反対の腕を回し、抱きしめるような体勢で引き寄せた。シャンプーだろうか、ふわりと花の様な甘いいい匂いがする。
俺の顔の直ぐ下に、彩音のつむじが見える。…今はどんな表情をしているのだろうか?そう思っていると、バッと俺の顔を見上げてきた。
彩音の瞳を覗き込む。
目があった瞬間、彩音はびくりと肩を跳ねさせ、目を見張りながら顔を赤く染め、はくはくと口を動かしていた。
—本当に、表情がころころ変わって面白いな。
そう思っているとまた表情が変わった。
今度はなんというか、警戒されている様な、というよりも…少し不機嫌そうな…?どういう心境でその表情なんだ?
あ、また表情が変わった。ホント忙しないなぁ…見ていて飽きないし、もっと見ていたいから寧ろ大歓迎だけど。
そんな事を考えていていると、ふと彩音の腰が抜けていたことを思い出した。
抱きしめる様な態勢にはなっているが、立つ事は出来ているし、このまま駅まで送り届けるか…。
そう思って軽くお小言を伝え、腕を離したが…。
彩音が頬を赤く染めたまま、ジト目をこちらに向けながら一言放った。
「……立ててないし」
「……」
彩音は再度地面にしゃがみ込んでいた。
…あれ…?
****************
抜けた腰が無事治った彩音を駅まで送り届けた。
少し頬を赤く染めながらムスッとした顔をして、「今日はありがとう」と言うと踵を返して足早に歩いて行ってしまった。
『あやね』と同一人物かはまだ分からないが、確かに『彩音』に惹かれている自分がいる。
——それならば。
改札へと向かうその後ろ姿を見送りながら、明日からは遠慮なくアクションを起こさせてもらおうかと心の中で呟いた。
もっと上手く話をまとめられる&作れる様になりたいです。表現力と文才が欲しい…




