おまけ① 子守唄を歌う
友人からは「詠唱は上手なのに、歌うと壊滅的に下手になるのはどうして?」とよく聞かれる。壊滅的に下手だと評されるのはあながち嘘ではない。
前世の歌の音痴が引きずっているらしい。
歌だと思うと、どのように音程をとればいいのかわからなくなってしまうのだ。
公園のベンチに腰掛けると、レオランドは目を細めた。
「こんなに日差しが暖かいと昼寝をしたくなるな。……そうだ、ルナセーラ。歌でも歌ってくれないか」
「え、ええ? 歌ですか!? ダメです! 私、歌って苦手で……」
音痴がバレて、下手すると前世がセドリフだったことが知られてしまうかもしれない。
「下手でも構わない」
断固拒否したいところだったが、レオランドに押し切られてしまった。
「ええと、それじゃあ。コホンッ」
咳払いをして、町娘がよく歌う「花摘みの歌」を口ずさむ。
第一声からレオランドが顔をしかめた。
(ほら、言わんこっちゃない!)
近くを通りかかる貴婦人が「あらあら」と言って、扇で口許を隠している。
レオランドは聞くに耐えかねて、腕を組んで視線を落とす。
歌が歌い終わるのと羞恥の限界が来たのは同時だった。
レオランドは下を向いていると思いきや、スヤスヤと寝始めていた。
(ね、寝てる!?)
レオランドの上半身が傾いて、ルナセーラの肩に軽く触れる。
起こしてしまうのも忍びなくて、しばらくそのままでいた。
下手な歌には聞き慣れていたから、逆に安心したのかもしれない。
セドリフだった時は、幸か不幸か、下手を知らずにレオランドの前でよく歌っていたから。