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無口な『魔王』の魔王討伐  作者: ねゆと
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プロローグ

自慢ではないが俺は多才だ。勉強もできる。運動もできる。身長もそこそこあるし、顔もカワイイ系で悪くないと思う。小中高とそれぞれで生徒会長。部活では部長。数え上げればきりがない。しかし。

しかし俺はコミュニケーションが死ぬほど苦手だったのだ。

『喋れない変な奴』。そう言われ続けて早18年。最早そう言われることに慣れてしまった。

俺はこれからも喋ることはないし、それにより不便することも無い。

そう思っていた。今までは。


ただただ眼前に広がる白い空間。その中に一つだけ、異質なものがあった。ただの小汚いビルだ。どこにでもありそうだからこそ、逆に異質だった。

ビルには【異世界転生分配所】と、そう表記されている。

何が何だか分からなくなる。ただいつも通り学校を下校した、その記憶はある。しかしそれ以降の記憶がない。

しかしいつまでも突っ立っていてもどうしようもない。意を決して中に入ってみることにした。

中は市役所然としていた。いくつかのカウンターが並んでいて、その中の手前から二番目のカウンターから『どうぞー』と声がかかる。

自分の他に待合スペースにいる人はいないのでおそらく自分に向けてだろう。おとなしく向かうことにした。

「はい、本日はどのようなご用件でしょうか」

正直、それを問われても困る。むしろ色々聞きたいのはこっちだ。そもそもここはどこだ。

「あの~。どうなされました?」

こっちが無言なのに対して疑念を持っているようだ。

「ああ、ここがそもそも何なのかに対してですか?」

核心的な問いに対し、頷く。

「皆さん最初にそれが気になるんですよね~。まあ当然と言えば当然ですが。……ここはその名の通り、異世界への門です。いろいろな理由……死んでしまったり神隠しにあったりですね。細かくは私にもわかりませんが、流れ着いた人たちが来る施設です。私たちの存在が何なのか、それすらも分かりません。ただ、ここに来た人たちをそれぞれ適切な世界に送り込み、それの管理を行います」

……要するに俺はこれから異世界に行くことになるのか。

「で、なんでけど。あなたの場合次の二つから選ぶことが出来ます」

そう言って俺の目の前に二枚の紙を差し出してきた。

それを手に取ると、そこにはこう記されていた。



【アンフ・A】

文明レベル:江戸時代初期程度(魔法有)

目標:魔王の討伐

概要:魔王が誕生し現地の人々が苦しんでいます。救済をお願い致します。


【サカダヤ】

文明レベル:平安時代程度(魔法無)

目標:大怨霊の除霊

概要:大怨霊が発生しこのままでは世界が滅びます。除霊をお願い致します。



このどちらかから選べというのか……?

正直どっちも嫌なんだが。おとなしく暮らしたいんだが。

「ちなみにこの二つを蹴って元の世界に帰る、ということは出来ません。このビル以外は延々と虚無の空間が広がっています。勿論、これ以上従業員もいりません」

発想を読まれてしまったのか退路を断たれてしまった。

どうせならばコミュニケーションをとらなくていいほどの未来に転生したかった。すべてコンピュータで済ませて……。待てよ。

片方の紙を注視する。

【アンフ・A】には魔法がある。魔法があるということはテレパシーが使える可能性があるのではないだろうか。この世界ならばイケる……?

どうせやる内容はどちらも同じようなものだ。

俺は黙って受付の前に【アンフ・A】の紙を差し出す。

受付はにこやかにそれを受け取ると、

「はい、了解しました。それではギフトの選択を行います」

また別の紙束を差し出してきた。

それには、



確定ギフト:言語共通化、転送時点のアンフ・Aの知識付与


選択式ギフト

A:以下から好きな武器を一つ

B:最終魔法の授与

C:ステータスの超向上

D:その他(出来る範囲)



そう記載されていた。

ということはDを選択すれば俺の目標は果たされる。ここはD一択。そう結論が出かかった。

しかしだ。改めて考えてみるとここまで仰々しいものが並んでいる上に目標が魔王討伐ときたものだ。Dを選んだ場合、よっぽど仲間に恵まれない限り死んでしまう。それに俺にそんな仲間が出来るほどのコミュニケーションが取れると思えない。

泣く泣くその案は没になった。

そしてB案。これは没だ。生まれてこの方ロクに喋ってない俺の喉が魔法の詠唱に叶うわけはない。

となると残りはAかC、他のDだが。

先ほど渡された紙束の二枚目以降に武器のスペックがつらつらと書き記されていた。

しかしどいつもこいつも10kgとか刀身そのものが燃えているとか、扱いに困るものばかりだった。よってAも没。

するとCかD……。

悩みに悩んだ結果、一つの疑問が浮かび上がった。なぜ他者とコミュニケーションをとろうとしていたのだろう。苦手で苦手で仕方ないのに。


「了解しました。ではこちらの魔法陣の上へどうぞ、転送を行います。先ほどのギフトはその際に送らせていただきます」


その言葉を最後に、俺は違う世界へと旅立った。



……薄暗い世界。夜なのだろうか。見渡す限りの丘陵。ふと空を眺めるとたくさんの星空。しかしそこに月はなく、ここが地球ではないどこか別の世界であることがありありと感じられた。

ふと自分の身体を見るとそれが生前のものと一切の違いがないように感じられた。

おかしい。ギフトの内容を考えると……?ふと、口の辺りに違和感があった。

それを手で触り、そして確信する。

俺の望んだギフトは【D:魔王と同じ力が欲しい】。

そして俺は……吸血鬼になっていた。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

次回更新は一週間以内を予定しております。

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