第8話
食堂は時間帯のせいか、とても賑わっていた。
かなり広く、混んでいる時間帯に来ても座れないという事は無いだろう。
今もかなりの人数が利用しているが、ちらほらと席が空いている。
料理はどうやら調理スペースの一番手前で注文するらしい。
「メニューは…どこだろ…?」
「あら、新入生かい?メニューはA、B、Cの中から選んでくれよ。粗方の好みと栄養バランスは考えたメニューだよ。内容はそこにあるボードに毎日書いてあるから、それ見て頼んでね。」
食堂の注文スペースにいた女性が教えてくれた。
なるほど、メニューが3つなら悩む必要も無いな。何より栄養バランスまで考えてくれているのは助かる。
「ありがとうございます。B定食お願い出来ますか?」
「はいよ。ちょっと待っててね。」
メニューを確認して、魚メインの定食にする。
今日は鰤の照り焼きだったので、迷わずこれに決めた。
「はい。しっかり食べるんだよ。」
「ありがとうございます。いただきます。」
料理を受け取ると、空いてる席を見つけて座る。
特別誰かと一緒に食事を取るといったこだわりは持っていない為、1人で食べる事に何の思いもない。
何より鰤を早く食べたかった。
三門家には、食事に手を合わせる習慣が無い。
何より父さんがそれを嫌がっていた。
父さん曰く「拝む位なら食うな」と。
父さんなりのポリシーだったのだろう。
その代わりに、食材に対して頭は下げる。
未だに違いがわからないが、染み付いてしまっている為つい、いつも通りやってしまう。
「いただきます。」
…美味しい。
食材の新鮮さが良くわかる美味しさだ。
鰤の照り焼きに関して言えば、味付けが濃すぎずに、しっかりと鰤の旨味を感じる。
米の水分量も申し分ない。
「美味しいなぁ…。」
三門家の食事は、基本会話が無かった。
曰く「食材と調理をしてくれた人への感謝を持って、一生懸命食べなさい。」
というのがら父さんの持論だった。
そんな習慣が身に付いているので、黙々と食べ進める。
「失礼。ご一緒しても、良いかしら?」
丁寧な口調に目を向けると、栗毛色のウェーブがかったロングヘアーの生徒が、注文した品を持って立っていた。
「俺は構いませんよ。そちらが良ければ、どうぞ。」
食事の邪魔さえしてくれなければ、別に誰であろうと気にしないので、向かいの席を勧める。
「助かりましたわ!いつもと違う時間に来たら、すごく混雑してて。座るところが無くて困ってましたの。私は2年A組の豊田美雪と申します。突然の同席にも関わらず、感謝致しますわ。」
そう言って向かいの席に座る豊田先輩。
そもそも、先輩だったとは。
失礼が無かっただろうか。
今時こんなお嬢様口調の人もいるんだな。
「すみません。食事に夢中で、先輩と気付かずに失礼しました。1年E組の三門誠です。よろしくお願い致します。」
とりあえず、謝っておこう。
食事に夢中だったのは事実なので言い訳のしようもないしな。
「まぁ。謝らないで下さい。お食事の最中にお声がけしたのはこちらですのよ。1年生でしたのね。驚かせてしまい、申し訳ございませんわ。」
「ちょっとびっくりしましたけど、大丈夫ですよ。どうぞ。ゆっくり食べていって下さい。」
そう言って、残り僅かとなった食事を楽しむ。
同席を依頼されたが、食べ終わってしまったので、戻るとするか。
「ごちそうさまでした。」
「あら、もう食べてしまいましたの?」
「ええ、先輩が来たときには、ほとんど食べていたので…」
「そうでしたのね。そういえば、ひとつお聞きしてもよろしくて?」
「はい、なんでしょう?」
「三門さんは、もしかして三門和彦様のお身内の方ではなくて?」
席を立とうとすると、嫌な質問をされてしまった。
やっぱり聞かれるか…。
気付く人は気付くよな…。
父さんと比べられるから、自分からは出さない話題に、思わず顔をしかめてしまった。
「はい。三門和彦は俺の父さんです。」
「まぁ!やっぱりそうでしたの!…ごめんなさい、嫌な話題でした?」
「あぁ、いえ、大丈夫です。慣れてますから。先輩は父さんの事を…まぁ知っていますよね。」
「えぇ!もちろん知っていますわ!以前、和彦様に危ない所を助けていただきましたのよ!」
今も父さんは熊子と一緒に、日本中の邪鬼を始末している。
父さん達がそんな事しなくてもいい様に、俺も早く力を付けないと。
しかし、先輩にそんな事があったのか。
「この学園に入る直前でしたわ。外出中に邪鬼に襲われそうになりまして。そんな時でしたわ!和彦様と熊子ちゃんが目の前に突然姿を見せましたの!和彦様に逃げろと言われたのですが、お恥ずかしながら私、恐怖で動けなくて…。そんな動けなくなった私を、熊子ちゃんが背中に乗せて逃がしてくれましたの!あぁ、熊子ちゃん…もふもふで可愛かったですわ…!」
熊子、乗れたんだ…。
いや、熊子も頑張ってるもんな。
必死に逃がしてくれたんだろう。
「その後の事は、和彦様が邪鬼を倒してくれたとニュースで知りましたの。お礼も言えず、ずっと申し訳なく思っておりましたわ。」
「そうでしたか。先輩が助かって良かったです。父さんは、お礼とか絶対気にしてないでしょうから、大丈夫ですよ。」
「いいえ!私が気にしますの!いつかお会い出来たらと思っていましたら…きっと、これも何かの御縁ですわね!」
御縁…俺は何もしてないけれど。
先輩がそう言ってくれるなら、そういう事にしておこう。
「誠さんは、E組でしたわね?色々と大変かも知れませんが、所詮は適正テスト時の測定値ですわ!何かお困りの時は、是非私を頼って下さいまし!」
「えっと…、すみません。E組だと何か大変なんですか?それと測定値って…?」
「あら、ご存知なかったの?1年生は、適正テスト時に測定した能力適正値を基準にクラス分けをしていますのよ。測定値が高い生徒がA組に決まり、そこからB組、C組と順に振り分けられますの。」
「じゃあ、E組は…」
「測定値が低い生徒がE組ですの。ただし!所詮は適正テスト時のものですわ!測定値が低くても、他のクラスに劣る訳ではありませんのよ!」
マジかよ…。
ド底辺じゃん…。
そんなクラス分けだったのかよ…。
父さんと比べられる所の問題じゃないな…。
「あの、ちなみに豊田先輩は去年…」
「まぁ!命の恩人のご子息ですのに、私の事は気軽に美雪と呼んで下さいまし!私は去年からA組ですわ!」
エリート中のエリートじゃないですかー。
やだーもー。
「誠さんなら大丈夫ですわ!私はいつでも力になりますからね!」
エリートな先輩は、その後も終始ドヤ顔だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。