第6話
「ここで、先程お話したイメージです。あなた達は今、丸腰の状態で邪鬼に囲まれ、絶対絶命です。一緒にいるのは、何があっても守りたい存在。そういう方がいなければ、1人で邪鬼に囲まれている状況です。数秒後には360度から迫り来る邪鬼の触手によって絶命するでしょう。ただし、あなた達はやられるわけにはいかない。夢もある。守りたいものもある。ここで終わるわけにはいかない。あんな奴らに好き勝手されてなるものか。さぁイメージして下さい。あなた達が想像する絶対絶命のピンチを切り抜ける最強の一手を!」
俺は医者じゃない。
知識もない。
技術もない。
けれども、平和を得るためとはいえ、父さんの様にあそこまで犠牲にしなければ駄目なのか?
あれはきっと、等価交換なのかも知れない。
でも俺からすれば、突然現れた理不尽な存在に等価を払う義理はない。
理不尽な存在は、理不尽に駆逐されるべきだ。
願う。
憧れる。
理不尽な力に。
祈る。
焦がれる。
代償の無い力に。
世界が平和になりますように。
「血圧急上昇!210の150!荒井先生!!三門君が!!!」
「接続を強制切断!降圧薬を緊急投与!!若いから大丈夫!全開で落として!!!」
「しかし、規定では…」
「このままだと血管が破裂する!!責任なんか私がいくらでも取るから!!早く!!!」
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目を覚ました俺は、病室の様な部屋のベッドに寝ていた。
「寝てた…のか?」
いつの間にか点滴を打たれ、脳波と心拍を図る機械も付けられている。
「おはよう。調子はどう?」
この声は、荒井先生か。
色々付けられていて頭がうまく動かせないので、目だけをそちらに向ける。
若さとスタイルの良さが抜群だが、俺は近藤先生の怯える姿は忘れまい。
地雷を踏み込む勇気はないからな。
「先生、おはようございます。気分は、最悪ですね。」
「そう…私達の処置が遅れてしまったせいで…ごめんなさい!!」
「いや、すみません…。いまいち状況がわからなくて…。俺、どうなったんですか?」
「能力解析の途中で、血圧が急上昇したの。脳波もエラーが出て、緊急処置をしたのだけれど…ごめんなさい。こんな事態は初めてで…。」
「あぁ、そうだったんですか…何か…すみません、助かりました。ありがとうございます。」
「謝るのもお礼を言うのも、こっちよ。大変な事になって、ごめんなさい。助かってくれて、ありがとね。」
荒井先生に頭を下げられる。
ふわりと華やかな香りが鼻をくすぐる。
やべぇ、超良い匂いがする。
ドキドキするな、こりゃ。
「三門君、おかしい所とかはない?大丈夫?」
「多分…大丈夫かと。目は見えてるし、耳もはっきり聞こえます。体は…動いてみないとわからないですけど…」
「口の中とかおかしくない?嗅覚とかも大丈夫?」
「口の中は特に変な感じはないです。鼻は…大丈夫です。」
「んー、脈がちょっと早いけど、それなら大丈夫かな。もう少し様子見たいから、このまま休んでいてね。」
脈が早い、あぁ…恥ずかしい…。
超恥ずかしい…。
「わかりました。あの、先生。俺どれだけ寝てたんですか?」
「2時間くらいかな?目覚めるのが早くて安心したわ。」
2時間か。
今日はこれで終わりになりそうだな。
寮の事とかも気になるけど、何より…
「あ、あの…荒井先生。」
「ん?」
「俺の、能力って…」
「あ、ごめんなさい。その話もしないとね。結論から言うと、解析しきれなかったわ。」
「あー…そうですよね…」
そりゃそうだよな。
解析途中でこんなトラブルになったら無理もないか。
「そう落ち込まないで。後日改めて再解析する事になったわ。それに、少しだけなら解析出来たしね。」
「少しだけ…それって、教えてもらっても?」
「構わないわよ。でも三門君の能力は、最後まで解析しないと良くわからないけどね。」
「どういう事ですか?」
「解析出来たのは【具現化】よ。ただ、それが何を具現化出来るのか。武器なのか、盾なのか、それとも違う何かなのか。再解析すれば、それがわかると思うわ。」
具現化…。
何かを生み出す力か…。
いずれにしても、先生の話通り、再解析しないと全くわからないな。
「ありがとうございます。再解析はいつになりますか?」
「このまま異常がなければ、2日後を予定しているわ。」
「わかりました。その時はまた、よろしくお願いします。」
「はい。こちらこそ、よろしくね。」
2日後か。
また解析中におかしくならなければいいな。
とりあえず、今はおとなしく休んでいよう。
もうひと眠りするか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。