第18話
昼休み。校内は、これでもかと言うほど騒がしかった。
「おい!早く行こうぜ!」
「飯食ってる場合じゃないよ!」
「正面玄関だってよ!?急ごうぜ!!」
我先にと正面玄関に向かう生徒達。
目当ては言うまでもない。父さんだ。
能力者なら。いや、そうでなくても有名になりすぎた父さんが突然学校に現れたと、全生徒の注目を浴びるのは当然だった。
今も父さんを一目見ようと、噂を聞き付けた生徒達が正面玄関に向かい殺到している。
そんな中、俺はいつも通り昼食のメニューを注文して、出来上がりを待っていた。
「まままままま誠さん!!噂は本当ですのっ!?!?」
栗毛色のウェーブがかったロングヘアを振り乱して迫ってきたのは、以前父さんと熊子に助けられたと言っていた豊田美雪先輩だ。
ちなみに、助けられて以来、熊子の事が忘れられないらしい。
「美雪先輩。噂っていうのは、父さんの事ですよね?来ていますよ。俺もさっき会いましたから。」
「まぁ!!それならそうと教えて下さっても…!!あぁ、急がなくては…!!熊子ちゃんが…!!熊子ちゃあああああああん!!!!」
嵐の様に去っていったな…。
ちょうど注文した品を受け取り、空いている席を見つけ座ると、周囲から聞き慣れた話題が耳に入る。
「…あいつ、確か三門って名字だよな」
「父さんって言ってたよな」
「でもあいつE組だろ?」
「マジかよ。コネで入学したのか?」
「いいよなぁ。英雄様の息子様は」
やっぱり、こうなったか。
予想はしていたし、これがはじめてではないけれども。相変わらず、キッツいな。
あの日から、この展開はいつもの事だった。
その事で父さんを恨んだ事はない。
それは、あの能力の事を知っているからかも知れないし、その事について極力考えない様にしているだけかもしれない。
それでも、先程の能力解析でのやり取りがあった俺には、充分すぎる威力に感じた。
「お邪魔するわ。」
そんな時、ガチャン!と音をたてながら、向かいの席に食事を置いたのは、昨日謎の言葉を良い放った女子だった。
「えっと…、あ、綾瀬さん…?」
名前は間違っていないはずだが、何やらとても不機嫌そうだ。
正直昨日の授業が初対面で、交わした言葉も一言二言。そんな相手にこの態度ということは、綾瀬さんも父さん絡みなのだろうか。
「ねぇ、何で黙っているの?」
「えっと…何が?」
どういう事だろうか。早めに謝った方が良いのだろうか。
「…だから!周りからここまで言われて!あなたは何で黙っているのって聞いてるの!」
あぁ、そういう事か。
説明するのが面倒だけれども、多分ちゃんと説明しないと納得しなさそうなタイプだな。
「んー、前からこうだし馴れたと言うか。…説明、下手くそなんだよね。」
「だとしても、納得いかない。」
…やっぱりダメか。
さて、どうしたものか。
「嫌な気持ちにならないの?」
「そりゃ嫌だよ。当たり前じゃないか。」
「だったら…!」
イライラするなぁ。
どいつもこいつも。
嫌な気持ちになるに決まってるだろう。
『あの人の息子なのに』
『父親はあんなに凄いのに』
『英雄の息子だからって調子に乗りやがって』
どいつもこいつも。
どいつもこいつも!
どいつもこいつも!!
父さんの事も熊子の事も俺の事も何も何も何も知らないくせに!あぁ、好きに比べろよ!調子に乗った事なんかは一度も無いけどな!
言われなくても、わかってるさ!
俺が!
俺が、役立たずなんて事は!!
「…もういいだろう?飯が冷める。」
「な…!あなたは」
「飯が冷める。飯くらい美味しく食わせてくれ。頼むよ。」
そう言って食事を取りはじめると、綾瀬さんも渋々食べ始める。
黙々と食べ進める2人。時折、綾瀬さんがこちらの様子を伺っている様だけれども、俺は気にせず食べ続ける。
イライラした胃に、温かく優しい味の味噌汁が染みた。やはりここの食事は美味い。
「ごちそうさまでした。」
「…早っ!」
半分くらい食べ終えた綾瀬さんが驚く。
別に早くはない。いつも通りだ。
「じゃあ、お先に。」
「ま、待って!」
…全く。まだ続けるのかよ。
「さっきの話なら、もう終わりだよ。」
「でも!あんなに好き勝手言ってる奴ら、許して良いの!?」
「…はぁ。許すも何も、言われても仕方ないし、俺が役立たずなのは変わらないから。」
「…はぁ!?」
なんだよ…。もう面倒だな…。
「俺は父さんみたいに英雄でもないし、綾瀬さんみたいにエリートでもない。能力だって使えるかもわからない出来損ないの役立たずだよ。だから、さっきみたいに言われても仕方ないだろう。じゃあ、そういう事だから。」
「…何言いよーと。」
「…?」
「黙って聞いとりゃぐちぐちぐちぐち。バッカみたか。」
「…何だと?」
「努力したら報わるーて思うた?じゃあどれだけ努力した?血は吐いた?歩けんくなった?まともに喋れんくなった?さすがにそこまではやっとらん?うちゃエリートなんかやなか。努力して努力して、つまらんでもそれでも努力してここまできたんや。知りもせんで決めつけんで。」
方言か?なんとなく言っている事はわかるが、バカにされているのはわかる。
「ちょっとでもライバル視して損した。こげんしけとー人やとは思わんかったわ。食事ん邪魔して悪かったわね。失礼するわ。」
まだ食べかけの食事を持って、綾瀬さんは立ち去った。
全く。今日は何だか最悪な日だな。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




