第16話
「知らない天井だ。」
いや、知っている天井だ。
言ったみたかっただけだ。
解析は終わったのだろうか。
しかし、相変わらずぶっ倒れたんだな。
父さんがいた気がするけど…。
「お、誠。起きたか。」
いた。
タイミング的にあまり居合わせたくなかった気持ちと、あの時かけてくれた声で落ち着けた気持ちと、ぐちゃっとなるのは思春期だからなのか。
親が絡むと、たまに自分でもコントロール出来なくなるのは知っている。
「…父さん。」
「おぅ。久しぶりだな。元気そうで何よりだ。」
「この状況で元気とか…」
「あ?昨日、健ちゃんと遊んだんだろ?随分楽しそうな授業やってんじゃねぇか。腹抱えて笑ったぜ。」
「健ちゃん…?」
「あぁ、近藤先生の事だよ。名前が健介だから健ちゃん。」
近藤先生のフルネーム、近藤健介。父さんは健ちゃんと呼んでいるらしい。
っていうか知り合いだったのかよ…。
「面白い方法でクリアしたらしいじゃないか。…ハッハッハッ!お前も随分エグい方法選んだな!!」
「…父さんだったらどうするか。…考えたらあれしかなかったんだよ。」
「っかぁーーー!腹痛ぇ!!お前ブッ飛んでるな!」
「父さんに言われたくないよ…!」
「おいおい、俺も同じ状況なら荒井ちゃんに助けてもらうかも知れないけど、ちゃんと後のフォローまで見据えてやるからな。少なくとも荒井ちゃんには弱みは見せねぇぞ?」
…くっ、これだ。
毎回馬鹿にしやがって。
結果を出してしまう故に文句も言いづらい。
相変わらず厄介な人だ。
「三門君、起きたのね。気分はどう?」
「荒井先生…。大丈夫です。今回もありがとうございました。」
「頑張ったね。解析は終わったわ。お父さんも一緒にお聞きになりますか?」
「おぉ、荒井ちゃん。お疲れ様。ちょっとだけしか立ち会えないけど、聞いていくよ。」
「…いや、父さんいいよ。忙しいでしょ。」
「いいのいいの。たまには見られたくない息子の健康診断くらい見させろよ。」
「…わかっているなら見るなよ…。」
3人で別室に向かう。
そもそも、何故父さんがいるのか?
「父さん、なんでいるの?」
「随分な言い草だな。ちょっと用事が出来てな。お前の様子も見たかったし。」
「俺の様子は見なくていいよ…。」
「お、反抗期ボーイか?まぁ、いいじゃないか。」
相変わらず、いちいち言い方が腹立つな。
「仲良いんですね。さ、入って下さい。」
部屋の中は、奥に巨大なモニターが設置され、そこには俺の姿や何か色々な数値などが映し出されていた。
漫画やアニメで見た事があるような感じだ。
「2人とも、そこの椅子を使って下さい。解析結果を説明しますね。」
そう促された俺は、椅子に腰かける。
父さんは座らないらしい。
立ったまま腕を組んで話を聞く癖は、今も変わらないらしい。
「三門君が何故解析の度に容態が急変するのか。結論から言うと、三門君の能力が原因です。解析の結果、三門君の能力は『願望の具現化』です。とても曖昧なのですが、これが意味する事がわかりますか?」
願望の具現化…。
いまいちピンと来ないな…。
「…すみません。…俺はわからないです。」
「なるほど。そりゃキツいな。」
父さんは解ったのか?
くそっ、自分の事ながら全然わからん。
「誠。お前、能力使うな。」
…は?
何だそれ?この人は何を言ってるんだ?
「いや、父さん。いきなりそんな事言わ」
「ダメだ。」
「何なんだよ!!!」
何だ?
何でいきなりそんな事言われなきゃいけないんだ?
いつもいつも偉そうに上から言いやがって!
「三門君!落ち着いて!!」
「荒井先生は黙ってて下さい!だいたい何なんだよ!いきなり現れて!やっと解析出来た能力を使うな?いつもいつもいつもいつも偉そうに言いやがって!!」
「三門君!!!」
荒井先生もか?
結局大人はみんなそうなのか?
クソッ!どいつもこいつも!
「荒井ちゃん、ありがとう。誠。言いたい事はそれだけか?」
「またそれか!どうせてめぇはこの後は反論させないか力任せに言うこと聞かせるんだろう!?わかってるんだよ!!はいはい、好きにしろよ!!」
「そうか。じゃあ好きにするな。」
父さんはそう言うと、こっちに近付いてくる。
どうせ殴られるんだろう。
もうどうでもいいや。
そんな事を考えて身構えている俺を、父さんは抱きしめた。
「誠。落ち着いて聞きなさい。お前の能力、下手すると死ぬぞ。」
…………は?
「お前の能力『願望の具現化』では、荒井ちゃんの言うとおり、曖昧な説明だな。具体的に言うと、きっとお前が望めば何でも具現化出来る能力だ。考えてもみろ。お前が望む願望を具現化するためにそれを実行する部分、つまり脳が壊れる。願望が強ければそれだけ、負担は大きくなる。処理しきれなくなった脳は焼き切れる。つまり、脳がやられるか、それを補う血管が破裂するか。そういう事だ。」
「………。」
「お前の能力は、きっと俺のそれより強力だろう。幸いお前の血液型はAB型だ。上手く能力と付き合えるかもしれないが、俺はお前に何かあるくらいなら、嫌われてもそれを止めたい。お前を失うなら、お前が戦力になる前に、俺が奴等を滅ぼしてやる。」
…なんだよそれ。
「荒井ちゃん、邪魔して悪かったな。あと頼んでもいいか?」
「…あ、はい!お任せ下さい!」
「とりあえず誠の元気な姿が見れて、安心したわ。あぁ、荒井ちゃん、後で熊子も見てやってくれ。この前覚醒したみたいなんだわ。」
「へ!?熊子ちゃんが覚醒!?まだしてなかったって事ですか!?!?」
「詳しくはあいつに聞いてくれ。俺は校長達に話があるから行くわ。…っと、その前に」
父さんと荒井先生が話をしているが内容が全く入って来ない。
死ぬってなんだよ。
じゃあ俺は、何でこんな所にいるんだよ。
結局、何も出来ないまま過ごせっていうのかよ。
あああっ!くっそ!!
何なんだよ!!
「そうだ、誠。」
「…何だよ。」
そう返事をした瞬間、宙を舞う身体と顔面の激痛に頭が真っ白になる。
「親に向かって『てめぇ』は無ぇだろうがぁああ!!!」
どうやら、父さんに思いっきりブッ飛ばされたらしい。
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