第12話
結局、美雪先輩と二人席で向かい合い昼食を取ることとなった。
うん。やはりここの食堂の料理は美味い。
「1年生は、午後が実技ですの?」
「そうなんですよ。2年生は午前中なんですか?」
「はい。私達は午前中が実技、午後が学科ですわ。私の友人は、疲れた後にご飯を食べて眠い!なんて、よく怒ってますわ。」
確かに、その状態で座学が続く午後の授業はキツいな。
「それは、俺も寝ちゃいそうですね…。」
「慣れれば大丈夫ですわよ。それより、誠さんの実技担当の先生は、どなたですの?」
「担任の近藤先生です。」
カチャンッと美雪先輩の指からすり抜けたフォークが、テーブルに落ちる音に驚き見上げると、口に手を当て目を見開いていた。
「そ、そうでしたの…。」
え、なにこの反応?どういう事?
「…先輩?」
「きっと、誠さんなら、やり遂げますわ。えぇ…きっと…。」
「いや…すみません。話が見えなくて…。」
「近藤先生が現役隊員だった頃、部下の方や上司の方から何と呼ばれていたか、誠さんはご存知ないのね…。」
「…えぇ、そもそも会ったばかりですし…何も…」
「鬼の近藤。」
…え?
「鬼の近藤ですわ。」
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「ほら、走れ走れぇ!!」
食事後、グラウンドに集まった俺達1年生は、鬼に鼓舞されながら、ひたすら走っていた。
「歩いたら筋トレは倍だからな!」
鬼がいた。
いま俺達1年生は鬼の指示で、グラウンドにある400mトラックをひたすら走っている。
「小手調べに10周!お前達の体力を見せてみろ!手を抜いた奴はメニューを増やすからな!能力の前に、まずは体作りだ!」
確かに、近藤先生の言うことも最もだ。
いざという時に体が動かなければ、それを動かす土台がなければ、緊急時の危険からは逃れられない。
鬼と聞いていたが、多少の陸上経験もある俺なら大丈夫そうだ。
そんな鬼が手元の紙に何やらチェックしている。
「…なるほど。今から名前を呼ばれた生徒は、別のメニューにする!それ以外の生徒は、そのまま続ける様に!」
体力にもまだ余裕がある。
これなら、まだ俺は大丈夫かな?
「A組、松下正義!三井百合花!
B組、泉水公太郎!羽山隼人!綾瀬早苗!
C組、一条雅也!
D組、龍崎龍之介!
E組、佐久間亮!加藤郁恵!三門誠!」
あ、呼ばれた。
どういう事だ?まだ結構余裕だぞ?
「今呼んだ者は集合!喜べ!特別メニューだ!」
嫌な予感しかしないメニューだな…。
うちのクラスからは佐久間君か。
確かに体つきもがっちりしているし、体力もありそうだもんな。
加藤さんは…どうしよう。
昨日倒れたせいか、クラスの人が全然わからない。
加藤さんは、見たところ150㎝を少し越えた位かな?
実技用の半袖の体操服に、動きやすい記事のハーフパンツ。
背中まで伸びた、とても綺麗な黒髪は、簡単に後ろで1つにしばっている。
しかし、とても体力がある様には見えない。
あるのは圧倒的な胸囲。
実技は全員体操服やジャージに着替えるので、制服時よりも目立ってしまう。
低身長の為か、何とも言えないアンバランスさが、思春期の男共を刺激する。
「あ?…お前どこかで会った事あるか?」
そんな中、ふいに声をかけてきたルームメイトは、俺の事を覚えていなかった。
「雅也、お前と同じ部屋じゃんかよ…。」
「そうだったか?人の顔覚えるの苦手だからな…悪ぃ。」
「そうか…なるべく早く覚えてくれな…。」
相変わらず超マイペースだな。
また眠そうにしているし…あれだけ寝てるのに眠いのは、何なんだ?
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俺たち特別メニュー組は、グラウンドの奥の端の方に集められた。
「やはり俺達は特別か。中々わかっているじゃないか。」
B組の泉水公太郎が口を開く。
なるほど、さすがB組だな。
「B組の泉水か。随分と自信満々だな?」
鬼が一瞬、ニヤリとしたのを俺は見逃さなかった。
ここは鬼ヶ島だ。調子にのってはいけない。
しかもあの鬼、鬼退治を退治する気ぃ満々じゃないか。
俺は空気になってやる。
そうだ、こけしに擬態するしかない。
「そんなに自信があるなら、泉水から特別メニューをやってみるか?」
「いいですよ!やりましょう!」
B組の泉水公太郎が鬼の挑発にダイブした。
「良い心掛けじゃないか。よし、特別メニューのレベルを上げてやろう。ルールは簡単だ。俺の攻撃を避けろ。能力を使っても構わん。どんな手段を取っても良い。5分間、避け続けろ。」
「え、いや、能力使ってもって。先生、大丈夫なんですか?」
「粋がんなよ、クソガキ。やるのかやらねぇのかどっちだ?」
ヤバい。
鬼の口が三日月につり上がる。
「…いいでしょう!怪我しても知りませんよ!」
B組の泉水公太郎の頭上に火球が現れる。
バスケットボール位の大きさだろうか。
「…いつまで格好つけてるんだ?」
気付くと近藤先生が泉水公太郎の懐で構えている。
そのまま肘を鳩尾へ吸い込ませる。
「…っ!」
あっという間の出来事だった。
ここは、鬼ヶ島だ。
「だらしねぇな。誰か泉水を連れていけ。特別メニューの内容はこれだ。ひたすら俺から逃げろ。幸いお前達は、体力も筋力もある程度ある。必要なのは、まず危険から逃げる目を養い、体に染み込ませ、動けるまで繰り返す。これが特別メニューだ。ちなみに俺は何の能力も持っていないからな。安心しろよ。」
危機察知と対策、誰でも出来る事を教えてくれるらしい。
これはすごくありがたいが、近藤先生は間違いなく鬼の化身だ。
「さぁ、どんどんやろうぜ。」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




