残業のご褒美は? ー銘尾友朗様へのプレゼントー
「う~ん」
と、唸りながら手を頭の上にあげ、体を伸ばすように伸びをした。
「終わったか」
声を掛けてきた課長に(見られたか)と思いながら、体を元に戻す。
「あ~、はい。終わりました」
プリンターから印刷されたものを取って、全部あるか確認する。それを課長のところに持っていって渡す。その内容を確認すると課長が言った。
「よく出来ている。ご苦労様」
「はい。ありがとうございます」
やっと帰れると思い帰り支度をしていたら、課長が声を掛けてきた。
「このあと、どうするんだ」
「えー? 普通に帰りますけど?」
「飯を食っていかないか」
突然のお誘いに課長の顔をじっと見る。
「なんだ、そんな変な事言っていないだろう。終業直前に仕事を振って残業させたお詫びだよ」
「でも、これって課長のせいじゃないですよね。あの子が体調を崩して帰ってしまって、明日の会議用の資料を頼んだあの子のパソコンのデータを見たら、何も手を付けてなかったというだけですよね。あの子が悪いのであって課長は悪くないですから」
「だけど、無駄に残業をさせてしまったじゃないか。お前、本当は何か予定があったんじゃないのか。頼んだ時に躊躇った顔をしただろう」
顔に出てたのかと思い、苦笑が浮かんできた。
「あー、違うんですよ。別に用事があったわけじゃないんです」
場所を駅近くの居酒屋に移して、課長と向かいあっている。この時間だと、普通の食事ができる所はもうラストオーダーも終わっている時間だもの。明日も仕事だから飲むのも軽く、この1杯だけと決めて注文した。
「それにしては頼んだ時の顔がなあ~」
向かいでビールを飲みながら課長が言ってきた。そんなにひどい顔をしていたのだろうか。
故郷を離れただけでなく、大学からも離れた場所。そんなところに就職をした私は身近にいる友達が少ない。それだから今日みたいな日に一人なのが、少し堪えたところに残業にまでなってしまい、運の悪さを呪ったのだ。それが顔に出ていたのだろう
「本当に違うんですってば~、気にしないでくださいよ」
そのあとは課長との話は弾んだ。
「本当にいいんですか~」
「だからいいと言っているだろう。残業させたお詫びに驕るって。素直に甘えろよ」
「はあ~、それじゃあお言葉に甘えます。ごちそうさまでした」
店を出て駅に向かう。駅に近いとは入っても5分の距離は意外と遠い。
これってご褒美かなと思いながら、少し気分よく歩いた。
課長の家は私が降りる駅の次の駅だった。私が自分の駅で降りようとしたら、腕を掴まれて、降りることが出来なかった。閉まったドアを見て私は課長に文句を言った。
「どうしてくれるんですか。過ぎてしまうじゃないですか」
「いいから、もう少しつき合え」
腕を掴まれたまま、次の駅で降り改札を抜けて歩いて行く。駅の目の前のマンションに課長は入っていった。いいなあ~、駅の目の前だなんて。私のアパートは駅から8分はかかるものな~と、妙なところを感心しながら課長の部屋に連れ込まれた。
玄関を入った所で壁に手をついた課長と向かい合ったところで、疑問を投げかけることにした。
「これってどういう事態なんでしょうか」
「まさか、これがどういうことかわからないとか言わないよな」
あっ、やっぱり壁ドンなんだと、納得した。
「わかりますけど、相手を間違えてません?」
「お前は俺がそんなおまぬけ様に見えるのか」
「見えないから、何かの間違いだろうと確認しています」
「自分がそういう対象に見られていたとは考えないのか」
「いやいや、あり得ないです。私みたいな平凡な女に課長がだなんて」
しばらく私と課長の押し問答は続いた。絶対何かの間違い勘違いだと思うのに、課長は私に口説き文句を言ってくる。
結局10分くらい平行線を辿って焦れた課長が叫んだ。
「俺はお前のことが好きなんだよ。いい加減わかれ!」
そう言って唇を唇で塞がれた。しばらくして唇を離した課長が溜め息を吐いた。
「お前が頑固なせいで順番を間違えただろう。誕生日おめでとう」
そう言ってもう一度口づけをされた。
「ということで、お前は俺の恋人な。異論は聞かないからな」
課長が私から離れて支えが無くなったことで、私はへたりこんでしまったのでした。
これが私が課長に捕まり、つき合うようになった始まりです。
前回に続きちょっと大人な話が降りてきました。
前に読んだ銘尾様の作品の影響かなと思います。
ただ、この作品。一文を入れ忘れていたことに後から気がつきました。
それがこちら。
店を出て駅に向かう。駅に近いとは入っても5分の距離は意外と遠い。
>これってご褒美かなと思いながら、少し気分よく歩いた。
>の部分です。
銘尾様、ごめんなさい。
なんか、消してしまっていました。
ここに掲載されたものが完成品です。
では、ありがとうございました。




