向かい側の人 -SHIN様へのプレゼントー
駅からの帰り道、私はスーパーに寄って買い物をした。
それから急ぎ足で家に戻り買ってきた物を片付けて気がついた。買い忘れた物があることに。
もう一度買いに行こうと、家を出た。行き先は家から一番近いコンビニ。
コンビニについて、いつもの癖でまずは雑誌コーナーへ。見たい雑誌はないなあ~と眺めていたら、外を歩いている人が目に入った。その顔にドキリとした。
そのまま目線で追いかけたら、その人がコンビニに入ってきた。私はとっさに目の前の雑誌を掴んで広げ、顔を隠した。
その人はこちらに歩いてきて私の隣で立ち止まり、雑誌を選ぶと読み始めた。
どうしよう。こんな偶然ってないよね。
私は隣に立つ彼のことを知っている。知っているといっても顔を見たことがある程度。
彼のことを見るのはいつも駅のホームでだから。そう、いつも同じ時間にホームで会うだけ。でも、そのホームも同じじゃない。彼と私は逆のホームに立っていたのだから。
言葉を交わすどころか、彼が私の事を知っているかどうかも怪しいもの。
私は雑誌のページをめくりながらも、意識は彼に集中していた。横目で見れば彼が雑誌をめくる手が見えた。私はドキドキしながら、雑誌のページをめくっていく。
結局内容は頭に入らないまま、雑誌を閉じることになった。私は雑誌を戻すと、雑誌コーナーを離れた。
それからパンコーナーに行った。そう、買い忘れたのは明日の朝食用のパン。食パンにしようか他のパンにしよかと悩み、結局食パンにしようと手を伸ばしたら、他の人と手が重なった。見たら、あの彼だった。慌てて手を引っ込めたけど、ハタッと気付く。食パンの袋はこの6枚切りのこれしかない。この食パンは彼に譲ることにして私は他のパンを手に取ると、彼に軽く頭を下げてレジに行った。
そのまま会計を済ませてコンビニを後にした。
「あの~」
「すみません」
「そこの人」
歩いていると後ろから声が聞こえてきた。でも、知り合いの声ではないから無視をして歩いて行く。
「ねえ、待って!」
この声と共に肩を掴まれた。振り向くとさっきコンビニで会った彼だった。こんなに間近で見るのは始めてだ。思っていたよりも彫りが深い顔をしている。
・・・なんて見とれている場合じゃない。
「なんでしょうか」
私が返事をしたからか、彼はホッとした顔をした。
「突然すみません。その、えーと」
と、言い淀む彼。少し視線をさ迷わせたのち、私の目を真直ぐに見つめてきた。視線の強さにドキリとする。
「あなたも食パンを買いに来たのですよね。それなのに私に譲ってくれたじゃないですか。いいんですか」
ああ、パンを譲られたことを気にして追いかけてきてくれたのか。なんて律儀な人なのだろうと思い、口元に笑みが浮かんだ。私の顔を見ていた彼の目が丸くなり微かに頬が赤くなったような気がした。
「気にしないでください。私は別のパンを買いましたから大丈夫です」
安心してもらおうと殊更ニッコリ笑ったら、彼は頬を赤くし困ったように視線を逸らした。
けど、すぐにまた私を見つめてきて言った。
「すみません。パンのことは口実です。神様がくれたチャンスだと思い声を掛けました」
神様がくれたチャンス?
それって、もしかして彼も・・・。
「駅のホームであなたを見ていました。あなたのことが好きです。私とつき合ってくれませんか」
突然の告白に私の頬も熱くなってきました。私は言葉にならずにただ、コクコクと頷きました。
これが彼と私の恋の始まりでした。
三人目のこの方は男の方です。
ある方の活報で掛け合いが面白くて、私も参戦しました。
そこからのおつき合いです
私の作品をほとんど読んでくださったみたいなので、こういう話もいけるかと思い、プレゼントさせていただきました。
送ってから後悔したのは男性目線の話にすればよかったな~と。
なので、後書きでなのですが、この話の男性バージョンを掲載します。
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駅を降りて帰る途中。向かいから見たことがある女性が歩いているのが目に入った。その姿に心臓の鼓動が早くなった。彼女は自分に気がつかずにコンビニの中に入っていった。
駆けだしたい気持ちを抑え、ゆっくりと、でも大股で歩いてコンビニに近づいた。窓越しに彼女が雑誌コーナーで足を止めているのを確認して、自分も店の中に入った。
雑誌コーナーに近づいて隣に並ぶ。適当に選んだ雑誌を開きながら、彼女の様子を伺った。
こんなチャンスってないよな。
自分は彼女のことを知っている。知っているといっても顔を見たことがある程度。
彼女のことを見るのはいつも駅のホーム。いつも同じ時間にホームで会うのだけど、自分は彼女に話しかけることが出来ない。自分と彼女の間には超えられないものがあったんだ。そう、ホームが逆方向という高い壁が存在していた。
向かい側の彼女は、いつも真っ直ぐに前を見ていた。まるで自分のことを見つめているようだと、錯覚しそうなくらいに。そんなことはないだろうと思いながら、毎朝彼女の姿を見ることが出来るだけで、幸せな気分になっていた。
その彼女が隣にいる。思っていたより背が低い。サラサラの髪からいい匂いが漂ってきた。
彼女は雑誌を見終わったのか、雑誌を戻して立ち去った。自分も雑誌を戻し、飲み物を買おうとドリンクコーナーへ。それから、朝食用に何かと向きを変えたら、パンコーナーで彼女は立ち止まっていた。
近づいて、明日の朝食は食パンをトーストにしようと思い、手を伸ばした。
その手に彼女の手が重なった。パッと手を引っ込めた彼女は、他のパンを手に取ると、軽く頭を下げてレジに行ってしまった。
会計を済ませた彼女がコンビニを出て行ったところで、慌てて会計をするためにレジへといった。
コンビニを出て急いで彼女の後を追いかけた。
「あの~」
呼びかけてみたけど、気づいてくれない。
「すみません」
振り向きもせずに歩いて行く彼女。
「そこの人」
声を掛けられたのが自分じゃないと思っているのか?
「ねえ、待って!」
肩に手を掛けたら、やっと止まって振り向いてくれた。少し釣り目ぎみのアーモンド形の綺麗な瞳に引き寄せられた。
「なんでしょうか」
彼女が言葉を返してくれて、ホッと息を吐き出した。良かった。不審者扱いされなくて。
「突然すみません。その、えーと」
掛ける言葉を考えていなかったと、言葉に詰まってしまった。視線を少しさ迷わせたけど、彼女の目に焦点を合わせた。
「あなたも食パンを買いに来たのですよね。それなのに私に譲ってくれたじゃないですか。いいんですか」
自分の言葉に彼女の口元がほころんだ。キリッとした感じが優しい柔らかいものに変化した。
「気にしないでください。私は別のパンを買いましたから大丈夫です」
花がほころぶような笑顔に心臓を射抜かれてしまったと思った。見ているのが申し訳ないと思い視線を逸らしたけど、すぐにまた彼女の目を見つめた。
「すみません。パンのことは口実です。神様がくれたチャンスだと思い声を掛けました」
そう、これは神様がくれたチャンスだ。息を大きく吸うと自分の気持ちを一気に言った。
「駅のホームであなたを見ていました。あなたのことが好きです。私とつき合ってくれませんか」
自分の告白に彼女も頬を赤くした。そして、コクコクと頷いてくれたのだ。
これが自分と彼女の恋の始まりでした。
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さあ、いかがでしたか?
同じ場面の男性バージョンは。
ありがとうございました。