趣味に実益は兼ねられるか? ー菁犬兎様へのプレゼントー
フンフンフ~ン
鼻歌交じりに材料を刻んでいく。
チャッチャッと炒めて味をつけて、先に焼いておいたお肉の上に乗せれば出来上がり。
綺麗に見えるようにニンジンやピーマンを表にだして、パシャリ。
「こんなもんかな~」
写メった画像を見ながら、行儀悪く食事をした。
食べ終わった食器を片付けて、コーヒーを淹れてパソコンのところへ。
「さーて、これをどう生かすかなんだよね」
しばらくウンウンと悩んだ後、なんとかそれらしい描写が出来た……と、思う。
毎回思うけど……『料理好きで作った料理が超絶うまい!』なんて設定にするんじゃなかった。
おかげで料理を作るシーンを多く入れることになってしまった。
料理のシーンを書くには作っている画像を見るよりも、実際に作った方が実感もこもる気がして、なるべく自分で作るようにしている。
そろそろ作れる料理のネタがつきそうで困ってしまう。
投稿サイトのオリジナル料理も作ってみたけど、なんとなくしっくりこなかったり、見栄えがよくなかったりしたし。他国の料理に手を出そうかと思うけど、凝ったものは自分では作れないし。
う~んと呻りながら考えて、やっぱりそろそろどこかのお店に食べに行くべきかしらと思ったり……。
前にも使わせてもらったものもあるしね。
◇
「今度の土曜にここに付き合ってください」
スマホの画像を見せながら、同期のやつが頭を下げてきた。
「はっ? なんで私? 他にもいるでしょ」
同期といっても、本当にただの同期で、同期会と称した飲み会でしか会わないやつからの言葉に、私はクエスチョンマークを飛ばしながら聞いた。
「あー、そのー、こういう店には男同士で行くより、男女で行ったほうがいいと言われたから……」
見せられた画像のお店の謳い文句? も、『何気ない日常に特別な日を! 彼女も喜ぶ素敵なランチタイムを提供します』と、あるけどさ。
これはあれか? 男性向けの検索で出てきたものなのか?
しどろもどろに答えられた言葉に、一応納得はした。納得はしたけど、やはり疑問が浮かぶ。
「だから、なんで私なの」
同期の女性は私だけじゃない。というか、私よりもよく話す女性がいたはずよね。
「えー、うー、そのー、お前なら……彼氏とかは、いないだろう……って、他のやつが言ってたから」
……なんて失礼な! そりゃあ、同期のあの子やあの子やあの子より、女子力が低い自覚はあるよ。でもさ、それを遠回しに突き付けてくるなー!
「行きません!」
「えっ、なんで?」
断ったら、驚かれた。普通、断るだろう。
「付き合ってもらうんだから、奢るよ」
「奢りでもい・き・ま・せ・ん!」
一言ずつ区切って言ってやる。私のその言い方に怒らせたとわかったやつは、狼狽えて視線があっちこっちへと向いている。
「えっと、なにか失礼なことを言ったのなら、謝るから。だから、付き合ってよ」
「その言葉がもっと失礼でしょ。理解してないんなら謝るな。もっと不快感が増すわ!」
その言葉と共にやつのほうへ向けていた体を、デスクへと向けた。さっきほどまでの続きをしようと、パソコンと向き合う。視界の端には立ちつくすやつが入るけど、無視だ、無視!
それでなくても、昼休みなのに食事もせずに仕事をしているんだ。本当にさっさと終わらせないと、昼食を食いっぱぐれてしまうかもしれない!
「お待たせ~。はい、これでもお腹に入れな。それで、どこまで出来たの」
隣の席の先輩が私のデスクにサンドイッチを置いてくれた。
「ありがとうございます。えーと、あと残り2ページです」
「あー、それじゃあ、最後のページは私がやるよ」
「いいんですか」
「ええ、もちろんよ。これはあなたが悪いんじゃなくて、まったく手を付けずにいたのに、今日休みやがった女狐が悪いんだからさ。主任も甘すぎるわよ。あんな見え見えの媚に騙されちゃって。それで資料が出来てないと知って、顔を蒼くさせたのはいいけど『一人に押しつけてちゃんと指導しないお前達が悪い』だなんて、どの口が言うのかしら。いい加減、頭に来たから、きっちり上に伝えさせてもらうことにするわ」
「あ、あの」
憤慨しながらも、共有ホルダーから私が作った資料を確認している先輩。私は手を止めて有難くサンドイッチにかぶりついた。……ところにやつの声がした。先輩は非友好的な視線をやつへと向けて言った。
「見て分からないかしら。こちらは修羅場ってんのよ。15時からの会議にこの資料を間に合わせないとならないの! 大した用でもないんでしょ。出直して来なさい!」
「……はい。お邪魔しました」
やつはトボトボと離れていった。
◇
「お疲れ様~。頑張ったかいあって、課長に褒められたわね」
「先輩のおかげです。ありがとうございました」
「何言っているのよ。あなたが頑張ってくれたからよ。私は少しお手伝いをしただけじゃない」
「でも資料を作っている間、私の仕事を肩代わりしてくれたじゃないですか」
「当り前のことに感謝はいらないわよ」
先輩は晴れやかに笑顔を見せてくれたのです。
仕事終わりで軽く飲みに来ています。それも今回はスポンサー付き。いやーただ酒は美味しいよね~。
自分のお給料じゃ入るのに躊躇してしまうお店に、先輩に引っ張り込まれた時には、財布の中身がどうだったかなと、蒼褪めそうになりました。
スポンサーは課長……じゃなくて部長だったかな?
「ところでね、私、気になっていることがあるのよ」
「えー、なんですか、先輩」
美味しい料理とアルコールに気分も良くなった私は、愛想よく答えた。丁度来たフリッターの盛り付けが綺麗で、スマホでパシャリとしながらだけど。
「お昼にあなたのそばにいた男性のことよ。彼ってあなたの同期よね」
「あー、はい。そうです、そうです」
「もしかしてトラブってるの?」
「いえ、そうではなくてですね。彼は……」
と、昼休みに資料と格闘している私のところに来たやつから言われたことを、そのまま先輩に言った。
「というわけで、ひどいと思いませんか」
「ええっと……(もしかしなくても、もしかするのかしら?)」
なぜか先輩は言葉を濁した後、小声で呟いた。……ようだ。私はそんなことに気がつかずに、言葉を続けた。
「大体失礼ですよね。私に彼氏がいないことは否定しないけど、女子力が低いって遠回しに言わなくたっていいでしょう」
「遠回しにも言ってないと思うんだけど……」
「それに、なんですか! デートの下見に行きたいっていうのなら、ちゃんとそう言ってくれればいいんですよ。遠回しに言い過ぎでしょ」
「それも誤解している気がするんだけど……」
「あと、『付き合ってもらうんだから、奢るよ』も、何様よ。どんだけ上から目線なのよ。同期なんだから給料もそんなに変わらないでしょ。割り勘でいいのよ、割り勘で!」
「ヘタレの精一杯……通じてなさすぎ。哀れを通り越して、応援してやった方がいい気がするわ」
私はグラスに残っていたお酒を一息に飲み、置くと先輩を睨みつけた。
「先輩、さっきから何を言っているんですか。見当違いな返事をしないでください」
「見当違いなのはあなただってば」
「でもなー、ちょっとだけ、早まったかしら」
「えーと、なにが?(嫌な予感しかしないけど……)」
「見せて貰ったお店の料理がよかったんだよね~。実際に行って料理の写真を撮りたかったな~」
「(やっぱり!)今からでも遅くないから彼と行ってきたら……」
「そうだ! 男性には入りにくいかもだけど、女性同士なら大丈夫よね。ん~、それか、一人で行ってこようかな。……うん、そうしよう。他の人に迷惑をかけるわけにはいかないもんね。ついでにエピソードも何か浮かぶかもだし~」
「いや、彼と行ってやれよ。というか、聞け! 本当になんで、こんなにも誤解しまくるわ、人の話は聞かないわな人になるわけ?」
「お褒めいただきありがとうございます」
「褒めてないわ! こんのおバカ!」
何故か先輩は嘆きながら、テーブルに突っ伏したのでした。
う~ん、謎だ。
私が菁犬兎さまのことを知ったのは、菁犬兎さまの作品『最強騎士は料理が作りたい』で、でした。
どこかずれた主人公が面白くて追いかけて追いついて並走したことを、昨日のように思い出します。
連載当時は一日に何話も更新されたりして「ハッ。更新されてるー!えっ? 今日は何話更新しているの?」と、半分「キィー!」となりながら追いかけたんだよな~...( = =) トオイメ
それからしばらく経ってから……どなたかの活動報告のコメントから興味を持ち、遊びに行かせていただいたことが親しくなったきっかけでした。
この話は菁犬兎さまの活動報告と上記に書きました作品から、イメージして書かせていただきました。
誕生日から数日経ってからのお届けでしたが、とても喜んでいただけました。
ありがとうございました。




