遊園地のヒーローショー ー鷹羽飛鳥様へのプレゼントー
ざわざわ ざわざわ
ショーが始まる前の期待に満ちた騒めき。
わあー わあー
司会がショー前のMCで盛り上げ始めた。
ジャジャン ~♪
軽快な音楽が流れてショーが始まった。
うわ~ キャー
ヒーローの登場に子供たちの興奮の声を消すように、女性(たぶん母親たちだろう)の黄色い声援があがった。
その様子を、私は柵に凭れて見ている。
少しの悔しさを込めながら。
私が今居る場所は、遊園地。その中の演舞場だ。
そして行われている演目は……今、テレビで放送されているヒーローショーだった。
それも今日はスペシャルデーとして、変身前のヒーローたちが勢ぞろいしているのだ。
あの歓声を聞けば……昨今の若いお母さんたちのヒーロー人気は、まだまだ持続されているようである。
その様子を一番後列で見ているというわけだ。
本来なら私はこのショーを見る予定はなかった。
別にヒーローをしている若手俳優のファンというわけではないし、ヒーローファンの子供がいるわけでもない。
頼まれて甥っ子などを連れてきている……なんてこともない。
じゃあ、そんな私がなぜここにいるのか。
それはーーー。
ギリッと奥歯を噛みしめてショーを見る。
今は怪人たちと変身したヒーローたちが戦っている。
息の合ったパフォーマンスに、握った手のひらに爪が食い込……まなかった。
爪は短く切るのが癖になっているのだもの。
それでもきつく握りこんだ拳はブルブルと震えてきていた。
悔しい
本当ならイエローのヒーローは私がやるはずだったのに。
嫉妬の目で睨みつけるように見ていたら、ブルーの動きが一瞬止まったように見えた。すぐに動き出したから、致命的なミスにはならなかったようだったけど。
ショーが終わり足元に置いていた紙袋を持つと、ヒーローショーの控室へと向かう。
コンコン
一応ノックをして「はーい、あいてますよ」の声を聞いてドアを開けた。
「お疲れさまでーす。これ、皆さんで食べてくださ、いっ?」
不格好だろう笑顔を浮かべながら紙袋を持ち上げながら挨拶をして……私は固まった。
こちらを振り返るようにして並んでいるのは、変身前のヒーローたち。
なんでここにと一瞬思ったけど、彼らは売り出し中の若手俳優たちだ。まだ個別に楽屋みたいなものはもらえないのだろう。
……というか、この控室くらいしか着替えられる場所はこの近くにないものね。
そう納得をした。
けど、不思議そうに見てくる彼らにたじろいで立ち尽くす私に、ヒーローショーに出ていたやつが手を挙げて返事をした。
「おう。遅かったな」
「遅かったなはないでしょう。これでも急いできたんだから」
軽い調子にムッと言い返した。やつの言葉に俳優たちの視線がやつに向いた。
「もしかして、さっき話してた彼女?」
「そうですよ」
ニヤリと笑って返すやつ。その言葉にイエローをやっている女性がパア~っと顔を輝かせるとそばに来た。
「あなたが! 私、一度お会いしたかったんです!」
「はあ~?」
気の抜けた声が出てしまった。イエローの女性は私の様子にお構いなしに両手で私の手を掴んできた。その勢いに一歩下がり、下げた足に力を入れたところで、バランスを崩した。力が入らずにひっくり返りそうになったのを、肩と腰に回った手に支えられた。
「こら、お前が驚かせてどうする」
「そうだぞ。ギブスが取れたばかりだっていうのに、また怪我をさせる気か!」
支えてくれたのはレッドをやっている俳優とブルーをやっている俳優。そのまま二人にエスコートをされて開けてくれた椅子に座らせられた。
というか、何がどうしてこうなっているのだろう?
初対面のはずの彼らに、私の事情がもろバレのようだし。
事情を知ってそうなやつに鋭い視線を向けたところに、イエローの女性が話しかけてきた。
「ごめんなさい。えっと、あのあの、私、イエローの戦闘シーンがすごくカッコ可愛くて、それが途中から……えーと、カッコイイだけになっちゃって、不思議に思っていたんです。そうしたらスーツアクターの人が怪我で変わったって聞いて。えーとえーと……そう! ファンレターにも、最初の頃の可愛いイエローが好きともらっているんです。早く元のイエローの戦うのが見たいとも!」
「だーかーらー、落ち着きなさい。彼女が引いているわよ」
途中から声のトーンを上げて興奮して私に迫ってくるイエローの女性に、ピンクをやっている女性が落ち着けようと声をかけてくれた。肩に手まで置いているし。そんな彼女を振り返り、目をキラキラさせてイエローの女性は言った。
「だってだって~、憧れのアクターに会えたんだよ。次があるとは思えないから、思いの丈を伝えたいじゃない」
「だからね、カラ回ってどうするのよ。いいから落ち着け!」
ギャイギャイと言い合いだした二人に、ヤレヤレと肩を竦める俳優三人。それを面白そうに笑っているスーツアクターたち。……を、茫然と見つめる私だった。
◇
「やってくれたわね」
「なにがだよ? 頼まれたから機会を作ってやっただけだぞ」
ジロリと睨んだけど、やつはどこ吹く風と涼しい顔で、正面を向いている。チラリともこちらを見ようとしないことに腹が立ったけど、車を運転しているのだから仕方がないと言えば仕方がない。
そう、今日のことはこいつに仕組まれたようだ。
説明をされたわけじゃないけど、先ほどの会話でなんとなく想像はついたし。
私は……スーツアクターだ。ううん。だったという方が正しいのかもしれない。
小さいころに見たヒーローの動きに憧れて、中学高校と体操部に所属していた。個人で上位に入れるほどの実力はなかったけど、団体では3位になれたので満足をして、大学からあるアクションクラブに所属した。
ほとんどがエキストラ的な怪人の手下ばかりだったけど、今日のようなアトラクションとしてのショーで女性ヒーローをやれるようになったのは大学3年の時。
そして大学を卒業した今年に、今のヒーローのスーツアクターに抜擢されたのだ。
撮影は順調に進み半年が過ぎようとしたときに……私は怪我をしてしまい降りることになってしまった。これは撮影中の怪我ではなくて、その帰りに事故に遭いそうになった子供をかばって怪我をしたの。
思ったより重傷でギブスで固定することになってしまったのは、まあ、自業自得というか、ね。あの時は考えるより先に体が動いていたのだもの。
子どもを無傷で庇えたのなら良かったのだけど、擦り傷を負わせてしまったのは申し訳ないとおもったり……。
3日前にギブスは取れたけど、しばらくはリハビリをしなくてはならない。
医者からはーーー。
「で、いつ戻ってくるんだ」
黙って思考に明け暮れていたら、しびれを切らしたようにやつが言ってきた。
一瞬、何と答えようかと口籠ってしまった。
「戻ってこない気か?」
「さあ、どうだろうね」
声に乗せられた感情に気がつかない振りをして、とぼけるように答えておく。
私の返事にやつの眉間にしわがよったけど、そんなことは知るもんか。
私は奴の顔を見ないように助手席の窓の外へと視線を向けたのだった。
鷹羽飛鳥さんと仲良くなり、光栄にもお姉様と呼んでいただいています。
彼女とはとても気が合い……というよりも、アニメのことや特撮ヒーローのことなど、わかる話が多いのです。
なんといってもほぼ同年代!
それに同い年の子供を持つ、ママ友でもあるもの。
この話は本来なら2018年にプレゼントしたかった。
その時からこの筋は浮かんでいました。
諸事情により書けなくて……気がついたら2年も待たせてしまいました。
受け取っていただけて、この『縁』への掲載も了承してもらえて、本当に良かったです。
……というか、誕生日からかなり経ってしまってごめんなさい。
でも
あ~、楽しかった~。
やはりヒーローものは好きだー!(あんまりショーの内容が書けなかったことが不満だけど"(-""-)"
ありがとうございました。
文字数が多くなったのは……ご愛嬌でお願いします。




