料理の試食は口実に・・・ -秋月忍様へのプレゼントー
ピンポーン
私はドキドキしながら玄関のチャイムを押した。
『はい。すぐに開けますからお待ちくださいね』
インターホンから返事がすぐに聞こえて、少ししたら玄関のドアが開いた。
「やあ、いらっしゃい。どうぞ」
爽やかな笑顔の男性に、私は恐縮しながら玄関に入った。
着てきたコートを彼が受け取って、ハンガーにかけてくれた。
リビングに通されて言われた席に私は腰かけた。
「外は寒かったでしょ。まずはこれを飲んで温まってくださいね」
渡されたのはホットワイン。でも、ワインだけじゃなくて他のフルーツの味もした。甘くて温かくて、アルコールがすぐに体に回ってポカポカしてきた。
「じゃあ、これ、前菜。忌憚ない意見をお願いするね」
「あの、私だけ食べるのですか」
「そのために来てもらったんだけど」
不思議そうな顔をする彼に、私はアルコールの力を借りて少しおねだりするように言ってみた。
「一緒に食べてくれませんか。1人で食べるのはつまらないというか、寂しいというか」
彼は驚いたような顔をしたけど、すぐにフッと笑って言った。
「それじゃあ、すぐに持ってくるから待っていて」
彼は私の向かいの席にカトラリーを並べて、自分の分のお皿を持ってきた。
「じゃあ、食べようか」
「はい。いただきます」
私はフォークを持つと前菜を食べ始めたの。
さて、なんで私がこんなところ(彼の自宅)にいるのかというと・・・。
その前に彼との関係を話した方がいいのかしら?
えー、彼と私は特別な関係ではないのよ。
彼は私がよく行くお店の料理人さん。
たまたま友人同士が知り合いだっただけなの。
それで、彼は今度独立して自分のお店を持つことになったそうなのよ。
私は今まで料理を食べると感想を言っていたの。それが彼には貴重だったらしいのね。
だから、そのお店で出す予定の料理の試食を、私が頼まれたというわけなの。
次から次へと料理が出てきたわ。
彼は私の我儘につき合って、調理と配膳をしながらも、一緒に食事をしてくれたの。
少し申し訳なく思いながらも、私は美味しい料理にそれに合わせて出してくれたワインを堪能したわ。
デザートとコーヒーが出てきた頃には、私はかなりな量を飲んで酔っ払ってしまったの。
「どうだったかな」
「はい。どれも本当に美味しかったです。でも、私の意見は参考になりましたか」
「もちろん。もう少し盛り付けの彩りに気を使った方がいいというのは、もっともないけんだったよ」
「でも、味については何も言えなかったですけど」
「そんなことはないよ。サラダのドレッシングはもう少し改善の余地はあるし、少し肉に火が入り過ぎたと思ったら、言いあてられたし」
「言い当てるほどのことは言ってないです。少し外側が固いなと思ったからそう言ったわけなので」
デザートを食べ終わった私ははにかみながら答えたの。彼は席を立つとそばにきた。
そして私を立たせると、エスコートするようにソファーのほうに連れて行ってくれた。
「ごめんね。飲みっぷりが良かったから飲ませ過ぎちゃったね。片付けたら送っていくから、ここで休んでいて」
「すみません」
酔いを醒ますつもりが、座り心地のいいソファーに体を預けていたら、睡魔が襲ってきた。
とろとろと眠りかけたら、戻ってきた彼の声がした。
「駄目だよ、ここで眠ってしまっては」
(そうよね。よそ様の家でこれはないよね)
だから。
「はい、すみません」
答えて立ち上がり、お暇しようとしたの。けど。
「ああ、危ない」
ふらりと倒れ掛かった私は彼に抱き留められた。そのまま、抱き上げられてどこかへと運ばれて行く。
「もう、駄目だろう」
彼が苦笑しながらそう言った。
「眠るのならちゃんとベッドでね」
その言葉と共にふわりとどこかに下ろされた。
「ごめんね。ここまで飲ませるつもりなかったんだよ。本当はちゃんと告白してからにしたかったけど。でも仕方がないよね。今日はこのままお泊りだね」
(告白? なんのこと)
睡魔に意識が飲み込まれる前に、唇に温かいものが触れた。
「おやすみ。起きたら俺の愛を受け入れてくれると嬉しいな」
私はその言葉に口元に笑みを浮かべてから、眠ってしまったのでした。
この話も、誕生日に間に合いませんでした。
本当にすみませんでした~。
ついでにいうと、頭が回らなくて言葉が足りない状態で送ってしまったのね。
なので、これは加筆修正しています。
この話は「グルメ恋愛」という、リクエストを頂いていました。
何となく話の流れは出来ていたのだけど、ぶつ切れな状態でうまく繋がってくれませんでした。
無事にお届けできて良かったです。
ありがとうございました。