喫茶店での出来事 ー香月よう子様へのプレゼントー
カラン カラン
少し時代がかったドアを開けたら、ドアベルの音がした。
店の中に入り、私は流れていた音楽に頬が緩みそうになるのを、なんとか押さえた。
流れていたのは私が好きなクラシックの曲。
これは、幸先いいかもしれないと思ったわ。
「いらっしゃいませ。空いているお席にどうぞ」
店員がそう言った。彼女の制服は白いブラウスに黒いベストと膝丈のフレアースカート。それから白いエプロン。
どこぞのメイド喫茶でも通用しそうな制服だけど、アンティークな雰囲気のこの店にとても合っていた。
けど、いつもの店員でないことに、私は内心落胆していた。
幸先いいと思ったのに、これじゃあ予定は変更ね。
私はカウンター席に座って、目の前にあるメニューを取った。
いつもは店員に聞いて決めるのだけど、今日はなんかココアが飲みたい気分だ。なので、店員にココアを頼んだ。
そして、バックから読み掛けの本を取り出して読み始めた。
カラン カラン
ドアベルの音がして隣に人が座った気配がした。チラリと見ると男性だった。
私はすぐに本に意識を戻した。
集中して読んでいたら、コトリと音がした。
「どうぞ」
という柔らかな声が聞こえてきた。
私は軽く頭をさげて「ありがとうございます」と言ったけど本から目をあげなかった。丁度山場に来ていたからだ。
「フウ~」
と息を吐き出してパタンと本を閉じた。やっぱりこの本は最高だ。本をバックに閉まってカップを持って口をつけた。
「苦い!」
一口飲んで甘さのないココアに目を瞠った。マスターに文句を言おうと顔をあげたら、カウンターの中には誰もいなかった。店員を呼ぼうと店内を見回したら、店の中には私と隣に座った男の人以外はいなかった。
「あれ?」
「お口に合いませんでしたか?」
カウンターに肘をついて座っていた男が、笑いを含んだ声で話し掛けてきた。
訝し気にその顔を見て私は「あっ!」と声をあげた。
「あなたは・・・」
といって絶句した私を見ながら、男の人は椅子から立ち上がりカウンターの中に入った。
そして私のカップを取ると、何かをしてから「はい」と、また目の前にカップをおいた。
それを見つめる私は自分の頬に熱が集まってくるのがわかった。
「飲まないの」
柔らかな声で言われてカップを手に持った。
そして一口飲んだ。
「甘~い!」
そう言って顔をあげたら、男の人が笑って言った。
「ついてるよ」
指摘された私は紙ナプキンを取ると、慌てて口の周りを拭いた。
(そうさせたのはあなたでしょうに!)
と、思いながら。
「ところでさ、君のことが好きなんだけど」
「へえ~・・・えっ!」
突然なんでもないように言われて、私は動きを止めた。目の前の男の人を見ると、優しい笑みを浮かべている。
「俺とつき合わない」
「えーと」
「まさか、断らないよね」
笑顔のままなのに、目が笑っていない気がして、私は頬を引きつらせた。
「俺に会いたくて通ってくれていたんだろ」
(ハハッ、ばれてーら!)
私は腹をくくると、彼にとびっ切りの笑顔を向けた。
「そうよ。あなたのことが好きよ。あなたに会うために通っていたのよ」
胸を張ってそう言ったら、男の人は面白そうに笑いだした。
「じゃあ、今日からよろしく」
その言葉と共に顎を掴まれた。
「そのラテアートと同じことしようか」
返事をする前に唇を塞がれて、捕まえに来たはずが捕まってしまったなと、思ったのでした。
彼女と親しくなったのは本当につい最近。
私をお気に入りにしてくださったのは知っていたけど、中々彼女のところまで覗きに行けなかったの。
そんな時に(11月の頭のこと)私は自分の活報に、11月生まれの方が知り合いにいなくて次のバースデーSSを送るのは12月になると書いたら「私は11月生まれです!」と、教えてくれて。
そこから、このひと月はかなり濃くお付き合いをさせていただきました。
今回は彼女からのリクエストの「喫茶店」と「音楽 (クラッシック)」を入れるという、試みをしました。
本当は何か曲名を入れたかったのですが、何がお好きかわからなかったので、雰囲気だけ匂わせました。
たのしく書くことが出来ました。
ありがとうございました。