キューピットは食いしん坊? -石川翠様へのプレゼントー
ホクホクとした気分で足取り軽く歩いて行く。腕に掛けた紙のバックを見ては笑いがこみあげてくる。
ウフフッ
上手く作れたこれ。みんなの反応はどうかしら。
そんなことを考えていたら、後ろからドンとぶつかってきたものがあった。
「キャア」
勢いあまって前のめりにすッ転んでしまった。
「ウ~・・・えっ? ・・・キャア~」
私は顔をあげて、見えたものに悲鳴をあげた。
「こら、ダン! お前は何をしているんだー!」
男の人の声が聞こえて、私にぶつかって、落とした紙袋の中身をグチャグチャにしているものを捕まえた。
「お兄ちゃん、ダンは捕まった~。あっ・・・」
もう一人、今度は小学生くらいの男の子が来た。男の子は惨状をみて顔を青ざめさせている。
「ご、ごめんなさい、お姉さん。僕がダンの紐を離しちゃったの~」
そういうと、男の子は泣きだした。
泣きたいのは私だよ。
そう思ったけど、泣いている男の子のことを、私は慰めた。
「大丈夫だから、泣かないで。ね」
「いや、大丈夫じゃないだろう」
男の人が犬をおとなしくさせて私達のそばに来た。
「お前はダンを連れて先に戻れ」
「お兄ちゃんは」
男の人は男の子に何か耳打ちすると、男の子は神妙に頷いていた。
「じゃあ、先に行っているね」
男の子が犬を連れて立ち去って、男の人が私のそばにしゃがみこんだ。
「済まなかった、立てるか」
私は身体は起こしていたけど、歩道にぺたんと座り込んでいたの。
私の視線はグチャグチャになったものに注がれていた。
男の人が手を差し出してくれたので、無意識のままその手に掴まって立ち上がった。
男の人はグチャグチャになったものを紙袋に入れて私のそばに戻ってきた。
「これは」
男の人の問いかけに私は呆然としたまま答えた。
「私が作ったの。今日は友人の家に呼ばれてティーパーティーをする予定なの。それに持っていくつもり・・・だったのに」
話しているうちに目に涙が溜まってきた。
「せっかくうまく出来て・・・みんなに・・・ヒック・・・食べて・・・もらおうと思ったのに~」
その言葉と共に涙がダーッと流れ出した。男の人はどこからかハンカチを取り出して私の涙を拭いてくれた。
「本当に済まなかった。怪我もしてるし、とりあえずにうちに行こうか」
そう言って男の人は私を抱き上げて歩きだした。
「えっ? はっ? なんで?」
驚きすぎて涙が引っ込んだ。下りようとジタバタ動いたら。
「危ないから動かないで」
と言われてしまったの。おとなしく運ばれてどこかの家につきました。
家の中にはさっきの男の子と優しそうな老婦人が待っていた。
椅子に座らせられてすりむいていた膝と鼻の頭の治療を受けた。
それから・・・。
「じゃあリンゴを剥こうか」
何故かエプロンを着けられて、男の人と二人リンゴを剥いています。駄目になったアップルパイの作り直し。
男の人は器用にクルクルと皮を剥いて、くし形にすると薄切りにしていった。鍋に入れて砂糖と共に私が煮ている間にパイ生地を出してきた。パイ皿にパイ生地をおいて出来立てのフィリングを乗せて、パイ生地で蓋をして。あっという間にオーブンの中へ。
焼き上がるまで、ちょっとデザートタイム。
男の人はパティシエだそう。今日はお店は定休日で、甥っ子と犬の散歩に出たら、あの犬、ダンが甥っ子さんを振り払って走りだしてしまったとか。
ダンは何故かアップルパイに目がないそう。私の袋の中のアップルパイを嗅ぎつけて、押し倒して奪ってしまったとか。普段はそんなことをしない子だと言っていた。
このあと、焼き上がったアップルパイと共に友人の家に届けられたの。
それから、度々新作の意見を聞かせて欲しいと呼び出されるようになったのは、神様のいたずらなのか、それとも恋のキューピットの気まぐれなのか。
ただ、お店に行くたびに甘いスイーツと甘い言葉に酔わされて、そろそろ体重計に乗るが怖くなってきた、今日この頃だったりするの。
ふふふっ。
この作品も確信犯で書きました。
石川翠様の作品にアップルパイが出てくるのですよ。
わかった方は、うふふふっと笑ってください。
それにちょうど私もアップルパイを作ったばかりでした。
もう、頭がアップルパイから離れてくれなくなっちゃったの。
他の果物を使うか、焼きリンゴだっていいのに! と思ったのよ。
でも、アップルパイ~。
さあ、皆様も買いに行って(もしくは作って)もう一度食べながらお楽しみください。
ありがとうございました。