この曲に歌詞を ーアンリ様へのプレゼントー
「あった~。こんなところに落としていったなんて」
私は机の下に落ちていたノートを取り上げた。
「あれ?」
そのノートに隠れるように音楽プレイヤーが落ちていた。イヤホンももちろんついていた。
「誰のだろう?」
手に持ったそれから微かに音が聞こえてきた。興味をひかれてイヤホンを耳に差した。
そうしたら・・・
ブワーッと景色が広がった。
気がつくと私は拾ったノートを開いて文字を書きなぐっていた。
「ねえ」
「ちょっと」
「それって」
「おい、きいてんのか」
突然肩を掴まれてハッとした。横を向くと男の人が不機嫌丸出しの顔で立っていた。私はイヤホンを外すと、彼の方を向いた。
「何か用?」
「何か用じゃないだろう。あんたが持っているそれって、俺のなんだけど」
「えっ、これ?」
いつの間にか両手で握りしめていた音楽プレイヤーを見つめた。
そして、ガバッと顔をあげると男の人に詰め寄った。
「これは本当にあなたのなの? ねえ、教えて。この曲って誰のなんていう曲なの。私、凄く気に入ったの。是非、私も欲しいの」
私の勢いに男の人は仰け反るようにして一歩離れた。私は期待に満ちた目で男の人のことを見つめた。
「あっ、どの曲のことだよ」
そう言われて、彼にイヤホンを渡した。勝手にリピートにして聞いていた曲が流れていることだろう。
「この曲・・・」
「素敵な曲よね。私、曲を聴いて景色が浮かぶなんて初めてで、思わず歌詞を書いちゃったわ」
そう。聴いていた曲には歌詞がなくて、残念に思った私は曲に歌詞をつけるべく、言葉を書きなぐっていたのだ。
「はあ? 歌詞を書いていた? ちょっと見せてくれ」
男の人の言葉に私は躊躇した。まだ完成したわけではないし、ほとんどが言葉の羅列だったから。
「人の曲勝手に聴いていたのに、お前は見せないのかよ」
そう言われると、先にやらかしている私は素直に従うしかない。
なので、彼にノートを見せた。
・・・ん? 人の曲?
ノートを見た彼は唸りだした。
「これは・・・ここを・・・いや、もう少し・・・」
などとブツブツ言いだした。しばらくして彼が言った。
「ちょっと付き合ってくれ」
腕を掴まれて連れていかれたのは、大学近くのレトロな喫茶店。この時間だと食事には遅く、お茶には早い時間になる。
向かい合って座り、頼んだコーヒーが来て店員がそばを離れたら彼が言った。
「頼みがある。この歌詞をちゃんと完成させてくれないか」
「え~! いやいや、私は素人で作詞なんてした事ないんだけど。それに勝手に歌詞をつけていいものなの」
「そこは大丈夫。この曲の作者がお願いしているんだから」
「この曲の作者って誰?」
「俺!」
「ええっ!」
話を聞いてみたら、彼は曲を作るのが好きだけど、詞は作れないとのこと。ネットで流したりしているけど、反応はいまいちだとか。詞がつけば違う反応があるかもしれないと思ったけど、周りにも詞を書ける人はいないとか。
「あんたが書いたこれになんかピンときたんだよ。だから、書いてくれないか」
彼の言葉に戸惑ったけど、あの曲に歌詞がついて誰かが歌っているのを聴いてみたい。
そこでハタッと気がついた。
「詞がついたらどうするの。まさか歌えなんて言わないわよね」
「そこは考えがあるんだ」
それから、大学の授業の合間に会ったりして、数日かかって詞を書き上げた。その歌詞を受け取った彼は、ボーカロイドにその曲を歌わせた。
アップして最初はあまり反応がなかったけど、芸能人の誰だかがこの曲を聴いて自分のツイットに書き込んだら、再生回数が飛躍的に伸びた。
今は私と彼は次の曲を作っているところだった。
作っている曲は甘い甘い恋の曲。
アンリ様への話はこれ! と、決めていました。
アンリ様はこの女性と同じように作詞をなさり、それが採用されてボーカロイドが歌っています。
ふふっ。
今回は確信犯的に書き上げました。
アンリ様に喜んで頂けたのがうれしいです。
ありがとうございました。