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(5)

 暗い暗い地下室。

俺は無事に戻ってこれた


さあ、始めよう……


これで終わりにするんだ


だから最高の夜にしよう


香苗……






 何度も何度も何度も……あの動画を見返した。


俺と呂久で撮影した最高の映像を……。


「はぁ……はぁ……」


息を荒くしながら病室のベットの中で動画を見続けた。

イヤホンから聞こえてくる女の叫び声。


たまらない


もっと叫べ


もっと泣け


もっと顔を歪ませろ


「もう一度……したかったのに……」


自分のせいで計画が狂った。

あの場に香苗を連れ込んで、もう一度だけやったら自首するつもりだったのに。


「もう一回……もう一回だけ……閉じ込めたい……あの箱に入れたい……」


 元々閉じ込める事が大好きだった。

最初は昆虫。それから犬猫。そして人間になるまで時間は掛からなかった。


最初の犠牲者は妹だった。

妹を真夏の倉庫に閉じ込め、中から泣き叫ぶ妹の声を聴いて興奮した。

そのまま声が聞こえなくなるまで聞き続けた。


 この趣味を共有できたのは呂久だけだ。

あいつは、俺が妹にした事を話すと批難する所か


「次はもっと楽しいのに閉じ込めようぜ」


 そう言われて連れてこられた場所は遊園地の地下室。

暗くて臭い。そして至ることろにムカデやゴキブリが這えずり回っている。


そこに、あの女が居た。

縛られたまま、体中を虫に犯されてる女が。


 呂久はその女にチャンスを与えた。

インターネットの掲示板に書き込みをして、誰かが助けにきたらそのまま逃げていいと。

 俺はすぐに分かった。

これは飴だ。そんなの物を見て来る奴が居る訳が無い。


 だが女は必死に文面を考えた。

地下室では電波は通らない。呂久は一旦外に出て書き込みをしてきた。

呂久が居ない数秒間、女は俺に助けを求めてきた。


「助けて……お願い……! ここから出して……」


その表情を見た瞬間、俺は歓喜した。


最高だ


妹を倉庫に閉じ込めて、外から声を聴いて興奮していたのがバカだと思えるくらいに最高だ


閉じ込めたい、閉じ込めたい、早くコイツを閉じ込めたい


そして聞きたい、どんな声で泣くんだ


そして見たい、どんな顔をしてくれるのか


そして感じたい、どれほど俺を満たしてくれるのか


 

 そして呂久は俺の目の前で、あの箱を開けた。

鉄の処女。中にトゲがビッシリと生えている拷問器具。

それを見た瞬間、女は泣き叫んだ。

もうダメだ、俺はもう限界だ。早く、早く、早く


「知ってるか? この針……調節できるんだぜ。お前さ……妊娠してたよな」


下腹部の位置に大きな針を持ってくる呂久。

なんて悪趣味な拷問器具なんだ。


「即死しないように……急所は外してやるよ……」


あぁ、こいつ最高だ。俺を本当に理解してくれている。

そうだ、即死なんて最悪だ、有り得ない。


叫び声が聞けないと意味が無い



 呂久は女のロープを解き、ナイフを女に突きつけて脅した。

中に入れ、と。


そして俺が撮影する。

呂久が映らないように。女だけ映るように。



 女が中に入ると、呂久は俺にジェスチャーで締めろ、と指示してきた。

ついにこの時が来た。俺はゆっくり、鉄の処女の扉を閉めていく。


「助けて……止めて……いやぁ! 閉めないで……閉めないでぇ!」


あぁ、ゾクゾクする


いいぞ、いいぞ、その顔だ、その顔を続けて……


ほら、もっと泣いて……泣いて喚け……泣いて叫べ……




 扉を完全に閉める時、トゲが肉に刺さる音と同時に女の叫び声のトーンが低くなった。

まるで何か嘔吐しているような……そりゃそうだ、全身に針が刺さってるんだもんな。


それでも女は低い声で泣き叫んでくれた


声が聞こえなくなるまで見守った


鉄の処女、その腹の中で……あの女は結構長く苦しんでくれた。


死にたくない、という言葉が……いつまでも耳に残っている。


あぁ、最高だ


当分はこれで……良く眠れそうだ




 そして次、香苗を閉じ込めようと俺から呂久に持ちかけた。

それが終わったら自首する。俺一人だけ。

呂久は良い奴だ。だから罪は全部俺が被る。


だって、こんなに感じさせてくれたんだから


呂久まで捕まる必要なんて無いだろ?



 でもあの時、俺は予想以上に酷い死体を見て気絶しちまった。

あそこまで酷くなるなんて思ってなかったんだ。

自分でやっといて何だけど。


 



 あぁ、でもやっと念願が叶う時がやってきたんだ。

呂久がチャンスを作ってくれた。

俺の部屋を刑事が張ってる。

その刑事が部屋を離れたのを見計らって、呂久は俺と香苗を病院から連れ出してくれた。


あぁ、もう一度ここに来れるなんて思いもしなかった


まるで自分の実家みたいに落ち着く。

この汚い地下室が。


「んーっ! んぅーっ!」


香苗が猿轡をされている

とってあげないと。叫び声が聞こえないと意味がない。


「康隆、じゃあ俺は行くから。悪いな、お前一人だけに自首させて」


「いいよ。俺だけ楽しんでるみたいで悪かったし……」


「まあ……じゃあな。たぶん死刑になるだろうけど……先に行っててくれ」


「あぁ。またな」


呂久が地下室を出て行く。


俺はそっと香苗の猿轡を外してやった。

その瞬間、叫ぶ香苗。


「な、なんのつもりよ! こんなところに連れてきて!」


俺は無言で閉じられていた鉄の処女を開いた。

まだ警察に持ち出されてなくて良かった。

こんな重い物、そう簡単に出せないもんな。


中は少し汚れちゃってるけど、ごめんね、香苗。


「ちょ、ちょっと……なにするつもりよ!」


察したのか、香苗は縛られたまま必死に逃げようとする。


あぁ、この反応も最高だ


香苗……可愛いよ


「まって……まって! やめて! やめて!」


さあ、中に入ろうね、香苗


大丈夫、最後まで見守っててあげるから


たぶん俺も死刑になるだろうから


ちょっと遅くなるかもしれないけど、後で絶対行くから


「噓……嘘! なんで! なんで!」


あぁ、いいよ


もっと、もっと!


もっと! もっと!


「やめて……やめてよ! 入れないで……入れないでぇ!」


大丈夫だよ、大丈夫だから


すぐには死なないから、コワクナイヨ


ほら、ほら、ほら、さあ、香苗


いい子だから、入ろうね


「いや、いやぁ! やめて……やめてぇ! だして! だして!」


あぁ、いいよ、その顔……その顔……その顔!


その声も、涙も、震える体も、全部、全部最高だよ


さあ、いくよ、香苗


「や、やめ……やめて……閉めないで……やめてぇ!」


あぁ、もっと、もっとゆっくり……もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、ゆっくり……



あ?


あれ……目の前が良く見えない……


香苗? どこ?


君の顔が見えない……なんだろ……頭の後ろ……なんか暖かい……


あれ、コレ血かな。


なんで俺の頭から血が……。


『……て……ちゃん……』


なんか聞こえてきた。

後ろを振り向くと、そこには女の子らしき姿が。

どこから入ってきたんだ。目の前がボヤけて良く見えない。

この子に殴られたのか?

いや、身長低すぎだろ、どうやってこの子が……


「はぁ……あっ……あっ……」


ぁ……香苗が逃げた

そうか、トゲで縛ってたロープが切れたんだ

しまった、追いかけないと……こんな中途半端な終わり方じゃ、自首なんて出来ない。


お願いだよ、あと一回だけやらせてよ……



 ふらつきながらも追いかけようとする。

でも近くにあった机にぶつかり、そのまま鉄の処女にぶつかる。


いたっ……扉のトゲにささった

くそ、なんか深く……腕に刺さりやがった。

早く抜いて……追いかけないと……


『もう……ダメだよ……』


え? さっきの女の子の声?


どこから……


『もう……ダメ……』


何が?


って、あ? 扉が……動いて……


え? え? なんで? なんで閉まってるの?


まって、まって……閉めないで……いや、俺まだ腕が刺さって……


いや、ちょっと……まって……え? 俺? 俺が閉じ込められるの?


いや、いや、いや、おかしい、違う、それは違う


まって、まって、まって!


閉まらないで……まって、まって!


痛い……痛い! 


「やだ……やだぁ! だじで……出して……! 死にたくない……死にたくない!」






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