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ただいま受験中

 雪が本降りになる季節。灰色の幹が雪に彩られて、冬という季節の陰影の深さを重く印象付ける。予備校でやることはすべてやり終え、俺は途方に暮れるしかなかった。受験雑誌も二年もの月日を無駄にした怠け者に対して、救いの手は差し伸べなかった。


 どうしても理想を捨てられなかった俺は、本州へ受験旅行へ向かった。

自分一人では朝起きられなかったり、地図が読めずに道に迷うなどの理由で、母親同伴だった。

 

 この決定に、まゆみ、妙子、央から呆れられた。マザコン受験生の走り。どうしても俺の社会的適応力は、同世代と比べて著しく落ちる。苦渋の決断だった。親がいないと飛行機にすら乗れないのは恥ずかしいが、乗り方が全く分からないのでどうしようもなかった。大分後の話だが、飛行機の離陸時間と同時刻に空港に着き、次の旅客機に乗せてもらったことがある。


「みんな一人で受験してるんでしょ。どうしてできないの」と何度もまゆみから詰問をされた。

自信がないし、今までも目覚まし時計で起きれたことはない。目覚まし時計を二つ並べて時刻をセットしても、必ず起きるのは自分以外の家族になる事は、経験上知っていた。


 また、時間を逆算して間に合わせるのも苦手だった。予備校への登校はルーチンワークだからなんとかなるとしても、臨機応変に時間をやりくりして、目的地にたどり着きうのは、俺のスキルでは不可能だった。何ごとにも安全策を選ぶのが、用心深く、かつヘマの多い俺のやり方だった。


 どのゲートをくぐりぬけて、どのロビーへ向かい、どうやって交通網を乗り継いで、親戚の人の家にたどりついたかは全く分からない。サメの腹にひっついているコバンザメのように何も考えずに母についていった。

 そこを拠点にして動き、遠い大学へはホテルへ一泊して、私大を複数受ける予定だった。

 

 自分の実力は判っている。志望先はほとんどがE判定だった。滑り止めにまったく知らない名前の大学も受けた。勉強しなかった癖に、プライドだけは高く、有名校を受けたがるので困った子だと親は思っているだろう。記念ということで、有名私大を一校だけ受けたが、得意の日本史も国語も全く歯が立たなかった。問題文が何を意味しているのかさっぱり判らなかったせいである。


とある大学を受けて、昼食におにぎりを食べた後帰宅したら、叔母さんに「口の周りに海苔をいっぱいつけて帰ってきた」と笑われてしまった。そこは面接もあったと思う。大失態だった。


 多額の金銭を無駄にした受験旅行だったと思う。全ての大学を受け終えたが、滑り止めの私大すら落ちてしまっていた。数校、合否が決定していない大学もあったのだが。自宅では父が二次募集の大学を探していた。

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