一年目と同じスタート
恥ずかしながら私小説です。
私小説は書き方の詮索が難しく、どこからどこまでがリアルで、どこからどこまでを架空にしたらよいのかわからず手間取っています。
何とか最後まで書けたらいいなと思います。
二年目の浪人生。知人友人は全て巣立って行った。変な批評眼で見られない分、気は楽だ。
去年と同じ入学式、校長の話は頭を素通り。後は俺が頑張ればいいのさ。
彼のそばに、彼に重なるように背後に一人の女学生がいた。紺色のコートに真っ赤なマフラー。俺の友人でもあり女友達でもある。
「敷島妙子は? 」
「今日は非番よ」
妙子に会いたかった気もするが、気が落ち込みそうな二年目の入学式、気が強くてお喋りな女性の方が気がまぎれる。
彼女の名前は、藤堂まゆみ。身長は155センチと小柄だが、わりと押しが強く。一度決めたらてこでも動かない。妙子には、いつも言い負かされている。
妙子は頭がいいのだが、どこか冷たい所がある。言いかえればクール。わりと人がどうなろうと気にならない性質なのかもしれない。
館内に聞き覚えのある10年前のヒット曲が流れる。退場の合図だ。
誰とも言葉を交わさずに玄関を出た。鉛色の空が敗者にエールを送る。
「思うんだけどさ、友人作って競いあったら? 」
「そういうのはまっぴらごめん」
早速駅に向かって電車に乗り、街の中央部で降りた。受験生には誘惑の種にもなる本屋街だ。
「また薄い参考書買ってる」
「基本は大事だ」
「それよか予備校の教科書予習しなさいよ。あなたは3年、いや4年遅れているのよ」
高校時代、まったく勉強しなかったので、高一の基礎から抜け落ちていた。私立文系なので三科目だったから気は楽だった。
「三科目だからって気ぃ抜くなよ。その分深さが要求されンだから」
さっそくまゆみの檄が飛ぶ。
本の束を未練がましく見つめた後、店頭から去り、郊外へと向かう列車に乗った。
「電車の中でも勉強勉強」
「初日ぐらいゆっくりさせてくれよ」
俺は自分で言うのもおかしいが自分には甘い。電車の中ではプロレスの今後について思いをはせていた。ちょうど新世代が台頭してきて面白くなってきた頃であった。