最後のオルゴール-07
ぜんかいのおはなし~!
俊樹クンの退院が決まりました!
おしまいっ!
「退院、おめでとう!」
集まってくれた誰もが俺を祝福してくれる。
「公にできなかっただけに、本当に大変だったんだから」
とは井上先輩の弁。
「もともとウチは大昔に使ってた病床があったから良かったようなものの、もしなかったらどうしようかと思ったわ」
「ホント、春香んちの病院様々だわ」
「舞衣、あなたの怪我の多さにも随分頭を抱えたみたいよ、ウチのお父さん。今回ほどではないにしてもね」
「先輩のご両親にも随分とお世話になりました。ありがとうございました」
俺は井上先輩の両親にも頭を下げた。
「キミのその身体には興味を持たざるを得ないのだが、あんまり立ち入ったことはしないほうが我が身のためかもしれんな」
先輩のお父さんがそっと忠告してくれた。
「少なくとも、キミの身体は尋常ではない。何らかの施術を施されているのだろう。それが何なのか、幾つかの想像はできる。が、あくまでも推測に過ぎん。くれぐれも気をつけることだ」
「ホントだわ!」
沙耶が騒ぎ立てる。
「今回こそはちゃんと言うわよ。どれだけ人を心配させたと思っているのよ? 今度同じ目にあっても、次は知らないんだからね!? 心配なんて絶対にしないんだから!」
「本当にごめん! もう無茶はしない。今回ので懲りたよ。だから…」
俺は沙耶に頭を下げた。
「猛省しております!」
「ダメ! 全く反省の色がない。どうせまたおんなじことをやらかすんでしょ? それなら…」
沙耶は俺の顔の正面に立って、顔を覗き込みながら言った。
「今度はちゃんとできるように、真剣に立ち向かいなさい!」
◇ ◇ ◇ ◇
俺達はそれぞれのハイヤーや車に分乗すると、その足で仏生山別室へと向かった。そこには活動を停止したままのメイがいる。
「既にかなりの部分でメイちゃんの修復が進んでいるわ。端末であるメイちゃんも、本体であるあのスパコン群もね」
俺は舞衣姉さんから概略を聞いていた。その活動を停止した時点で、スパコンもメイ自身もかなりのダメージを受けていると。
◇ ◇ ◇ ◇
仏生山に到着した。俺達は以前と同じように舞衣姉さんの後に続いて室内へと入っていった。
「やぁ、お待ちしておりましたよ。あなたが件の青年… いえ、古川俊樹君… ですね」
ここ数日ろくに休んでいないのだろう、一見にこやかだがその顔に疲労の色が見て取れる。
「はじめまして、古川です。俊樹、で構いません。で、メイの様態はどうなんですか?」
その男は矢野… といった。矢野は「特別ですよ」と前置きしながら、俺達を奥へと案内する。
そこには2人のスタッフがいた。
「やぁ、はじめまして! 俺…いや、私は島本といいます。よろしく」
「らしくないわね、俺でいいじゃない? …私は田中といいます。よろしくね」
俺は軽く会釈をかわすと、メイが横たわっているというカプセルの前まで移動した。
「本体であるスパコンも、端末であるMAI-5000も基本的には完全に修理は済んでいます。ただ…」
島本は田中と目を見合わせると、続けた。
「どうやっても、あらゆる手をつくしても目を覚まさないのです。全く原因がわかりません」
カプセルの中には、Konを抱きしめたまま眠るメイがいた。
本当にきれいな顔をしている。
まるで嘘みたいだ。
でも起動していない、それはただの機械の塊だった。
…デイジー …デイジー …ハイと言ってよ…
俺の口をついてメロディが流れ出た。
『お姉ちゃん、いつも一人なの?』
…あなたへの想いに …おかしくなりそう…
『私はね、お友達がいないんだ…』
『へぇ… なら、ボクが友だちになってあげるよ』
『くふふ… 嬉しいな。じゃ、キミが私の初めてのお友達だね…』
…洒落たお式は 無理かもしれない…
『…でもね、私、突然キミの前からいなくなるかもしれないよ?』
『ならさ、【結婚】しよう! それなら【しがふたりをわかつまで】…? は、一緒にいられるよ?』
…でも その時のあなたは…きっと素敵だよ…
『死が二人を別つまで…か。…それは名案…だね。楽しみだなぁ… 私、結婚できるんだぁ… これからは私、ひとりぼっちじゃないんだね…』
『そうだよ! ボク、ふるかわとしき。お姉ちゃんは?』
『私はね、愛衣… 玄田愛衣っていうの。よろしくね、小さな旦那様…』
そうだ! 俺はメイに会っている!。
そして、とても大切なことを俺は教わっていた。
「すみません、矢野さん。ちょっと試していただきたいことがあるんですが…」
「一体何をしようというのかい? キミにできそうなことはないと思うのだが…」
誰もが俺の方を向いていた。まるで何を言い出そうと言うんだと言わんばかりに。
しかし、俺はどうしても試してみたいことがあった。
根拠や自信があったわけではない。だが、これだけは試してみないといけなかった。
それは…
「メイのスキン部分を覆っている血管内に、俺の血液を混ぜてみてください!」
◇ ◇ ◇ ◇
「本当にいいのかい?」
矢野は再度確認を入れてきた。
「…はい。俺にできる、いや、俺にしかできない事なんです」
メイに投与する俺の血液は400ml。いくら規定量とはいえ、退院した当日にこれだけの血を抜くのは正直かなりキツいだろう。しかし、である。少なくとも俺は二度、彼女に助けられている。
「お願いがあります。Konを、オルゴールモードに切り替えてもらえますか?」
その中にはきっとあるはずだ。メイの潜在意識に届く、あのメロディが。
「DAISY・BELLを… 輸血の間、メイにあの思い出の曲をかけてみてください」
俺はベッドに横たわり、腕の静脈から血液輸送パックへと血液を飲み込ませた。
◇ ◇ ◇ ◇
「…終わったよ」
矢野の声で、俺は目覚めることとなった。どうやら血を抜く途中で気を失ってしまったらしい。
「よく頑張ったね。ちゃんとキミの血液はMAI-5000に輸血するから安心して欲しい」
「ありがとうございます。あ、そうだ。大切なことがひとつ、あります。俺の血液は加工せずそのまま輸血してもらえますか?」
「いや、しかし… そのままだと凝固したりして、後で大変なことになるだろう?」
「いいえ。俺の血液の中には、血液の中には…」
以前、メイが包丁で指をけがしていたときのことを思いだす。
『結構ザックリ怪我しているのよね、それも出血が半端じゃなく。でも止血すればちゃんと血は止まるし、二・三日で治癒してるのよ。不思議ね、アンドロイドなのに』
『私の身体は”そういう仕様”なのだそうです。この皮膚はナノマシン技術の集大成と聞いてまして…』
そうなのだ。もしそうであれば、俺のこの異常な治癒能力にも説明がつく。
俺は大きく深呼吸すると、全員の前で言い放った。
「俺の身体にも流れているんですよ。ナノマシンで構成された、メイと同じ血が!」
◇ ◇ ◇ ◇
それは10年と少し前の話だった。
大きな事故だったという。父親の運転する車両に大型のトレーラーが突っ込んできたと聞いている。
当然のように両親は即死。助手席にいた俺は奇跡的にも首の皮一枚で命がつながっていた。
偶然… といえば出来すぎだろう。しかし、本当に偶然運び込まれた病院が玄田愛衣のいた病院だった。
処置を施された俺は、植物状態同然だったそうだ。
そして再びの偶然が重なる。意識のない状態の俺を、メイが見かけてしまったのだ。
愛衣は祖父に懇願した。自分に施された処方が本物であるなら、きっと俺を助けられるはずだ、と。
つまり、臨床のための実験台として、俺が選ばれたのだ。
果たして、俺は意識を取り戻した。それまでの記憶と引き換えに。
愛衣は悲しげな瞳で、何度も俺に話しかけた。これまでの経緯も。
しかし俺はその事実自体も忘れてしまい、今ここに至る。
そこから先のことは知らない。愛衣とは会わなくなってしまったことが原因かもしれない。
とにかく、だ。
二回目に死にかけたおかげで、全ての記憶ではないにせよ、どうやら大切なことだけは思い出せたようだ。
◇ ◇ ◇ ◇
再び、メイが眠るカプセルの前。
オルゴールモードに切り替えたKonを抱きしめたまま、メイは眠っている。
そして、流れ出すDAISY・BELLのメロディ。
俺の血が、ついにメイの体内に入る時が来た。
「頼む、蘇ってくれ… 頼む…!」
祈りながら今日のところは、俺はその場を離れることになった。
願わくば神よ。あの時俺を救ってくれた恩人を、恩人の命を救い給え…!
◇ ◇ ◇ ◇
ハイ、俊樹クンの記憶の封印が解けてきたみたいですね?
メイの運命はどうなってしまうのでしょうか?
いやぁ、楽しみですね~。
おっと、そろそろお時間です。
それでは皆さん、さよなら、さよなら、さよなら~♪




