表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

★◇全員共通 目指せ立派な魔法使い



―――私はいま、先生に当てられないか、ビクビクしながら授業を受けている。


「えー風魔法を炎魔法に融合すると、どうなりますか―――アスリルさん」

「はっはい、パルワー先生!」


「どうぞアスリルさん」

「すごい爆発がおきると思います!!たぶん!」

「アスリルさん、真面目に授業をきいていませんでしたね……」


「ごっごめんなさい!!」

「廊下にたってなさーい!!」



―――――ここはドゥーブルフロマージェ星。

さまざまな星が近くを飛んでるし自由と平等、とりあえずたくさんの星の人が混ざった星。


そして、私が通うのはプリマジェール魔法学園。


授業費用無料、寮完備。平民から貴族、王子王女様まで通う大規模な学園である。


―――そんな華やかな学園に、学費がタダだからという理由で通う私は落ちこぼれ中の落ちこぼれ。2年の最下位ランク。


成績表が張られているので確認。やはり最下位だった。



「はー……さすがニルス・ビィンズはレベルがちがうな」


―――クラスメイトの“ヴァフォメロッド”が、成績表上位者の名をかんしんして言う。


ニルスは二年のランク4位のエリート候補。正確には一位は隣のクラスのユベリスとミューティロギアンが同率だから五番目だが。


「ホーッホッホッ」

―――この嫌な高笑いは


「アスリルさんまた最下位でしたのね~」

アザーレア、クラスメイトでなにかにつけて私に絡んでくる嫌なお嬢様だ。

「最下位~」「最弱~」

とりまきはクラスメイト、双子の姉弟ゼニモーケンナとヨンデーヨ。


「そうだよ……」


――――どうせ私は最下位でなんのとりえもない村娘。


なのにどうして恵まれたお嬢様に絡まれなきゃいけないのよ。


「あんぎゃああああああ」


なにこの悲鳴―――――


「大変だ!ベルター=グレース・ウィークネスがモンスターに襲われてるぞ!」


「たたたっ助けてくれええええェ!!」

涙目で必死に逃げている。


――――助けなきゃ!!


「えっと……!」


呪文を唱えないと―――


「どの魔法使ったらいいの!?」


そもそも私、得意な魔法属性がないじゃない。


あれはただのモンスターではなく、巨大な黄ドラゴン。

なんだか液体がまわりを溶かしている。


「ひいいいいいいいいい!」


教師は間に合わない。誰もが諦めている。

ごめんクラスメイトのベルター。心の中で謝る。



「来たれ!炎雷の精霊<マンデルランダー>よ!!」


ドラゴンが業火に炙られる。あれは―――――


「ニルス・ビィンズ!」

彼は颯爽と現れて、ドラゴンを倒した。


「ありがとー心の友よー!」

「抱きつくな気持ち悪い」

救出されたベルターは感謝している。


―――とにかく無事でよかった。


さてドラゴンは退治され――――――


「ガャアアアアアア!!」


――――嘘。


ドラゴンは焦げ傷一つなく、耳をつんざくような咆哮をあげた。


逃げなくては――――


なにか酸のようなものが、ドラゴンからポタポタ撒き散らされる。


「くっ……」


逃げられない――――



父が言っていた。

『たとえ敵わない相手でもなにもせず逃げるより

立ち向かうほうが何倍も格好いいんだ』


兄が言っていた。

『俺は誰かにかばわれて死ぬよりかばって死ぬことを選ぶ』


「それなら、私は―――戦うしかない!」


私はドラゴンと戦うことにした。


―――どうあがいたってこうするしか生き残る方法がないなら。


「グルル……」

―――ドラゴンの動きが、止んだ。


「アスリル・ヘミン」

「僕タチも加勢するよ~~」


ニルス、ベルターがドラゴンの動きを封じたようだ。


「いまのうちに作戦を練る。ベルター、お前の得意魔法は?」


「水とジュミラルンかな~」

「……アスリル、かろうじて使用可能な魔法はあるか?」

ニルスはこちらを哀れむような目でみる。


「……アクリールを生成する力ならあるけど」


―――アクリールなんて出せてもなんの意味もないし。


「それだ!!」

ニルスはひらめいたといわんばかりに声をあげた。


「え、でもなんにつかうの?」

「奴は酸を放つだろ?」


「あ~アクリールは酸に強いから~酸攻撃をアクリールで防ぎつつ~僕のジュミラルンで物理攻撃をぶちこんでやれってこと~?」


「……そうだ。うまくいくとは限らないし、奴の酸が硫酸より強力でないことを祈るしかない」



―――私はドラゴンの前へ出る。


「希望よ来たれ《アークリル・アドホック》!」


アクリールの大壁を作る。


「来たれ鋼鉄ジェイント・ジュミラルン!!」


鉱石は大きなハンマーのように膨れ上がり、ドラゴンを叩き潰した。


やつから酸の飛沫が飛ぶアクリールの盾がそれをはじいた。「……まだ油断はできないが。くれぐれも“やったか!?”“倒したぞ!!”は言うなよ」


――――――私たちはなんとかドラゴンを退いた。



「なによこんなの……ワタクシは……認めませんわ……」

―――――――



学園に戻ると、先生達が集まっていた。


「三人とも、よくがんばりましたね」

フィース先生が笑顔でほめてくれた。



―――――私、役に立てたんだ……嬉しい。

__



「それにしても、なぜお前はドラゴンに追われていたんだ」

ニルスはベルターに問う。


「あれは―――僕が下から二番目の成績表を見た後だった―――」


ベルターは顔をキリッとさせ、回想に入る。無駄に引き立つ灰髪に紫の眼。


『あ~サニュはあったかいな~』


僕は学園のグラウンドの裏でお日<サニュ>様を浴びていた。


『あ、なんか黄色いな~バーナナかな~?』

『ガアアアアアア!!』

『うぎゃああああドラゴンだあああああああ』


「ってわけなのだよ~」

「つれてきたわけか、しかたのないやつだな」


なんかひっかかるような。グラウンドの裏ってことは学園内。なのに、どうしてドラゴンがいるんだろう。


「ねえ、学園内にドラゴンがいるほうがおかしいよ?」

ペットにミニドラゴンを買う生徒はいる。学園長は中くらいのドラゴンをペットにしている。

だがあれは、それとは比べ物にならない大きさだった。


「たしかに、なぜ狂暴なドラゴンがいたのか、その点はひっかかるな」

ニルスが探偵みたいに顎に手をあてて思案している。


「そんなこと、今考えてる場合?」

「ヴァフォメロット……」



「そろそろ次の授業が始まるよ」

「わかった。授業をサボるわけにはいかないしな――」

「え!?」


ベルターがサボろうとしているのをズルズルひきずる。


そういえばベルターっていつも授業サボるのに毎日出てる私より生徒ランクひとつ上なんだよね。


――――なんか微妙に複雑。



フィース先生はとくにドラゴンのことは話さず。普通に授業している。


―――先生と目が会った。


彼は私の初恋の人だけど、親の決めたいいなづけがいると知ったとき、私は諦めた。


「なにか質問はありますか?」

「はいはーい先生は彼女いないんすかー?」

クラスメイトJが軽くたずねる。

「いませんよ」


「好きな魔法は?」

クラスメイトKが興味深そうに問う。

「さあ、とくにありません」


「じゃーどんな子がタイプなんですか?」クラスメイトLがにやにやしながらきく。

先生が答えようとしたそのとき―――フェアリーベルが鳴り、授業は終わった。

――――――



『やるじゃんアスリル!!』

『見直したわ!!』


―――――昨日は皆からすごく賛美されたなあ。


今日はもうみんな寄ってこないけど、一生分の注目をあびた。



「よう、なーにへこんでるんだ?」

見知らぬ金髪の少年が声をかけてきた。


「だれ?」

こんなチャラついた男、私はしらない。


「アスリル、俺を忘れたのか?」

彼が袖をめくると、手首にレモンのような形のホクロがある。


「……もしかして、ジェクト!?」

「そーだよ」


彼は小さな頃に家の近所に住んでいた幼馴染の“ジェクト=レモニア”

彼の一家は引っ越して、もうかれこれ10年ぶりになる。


「ご両親は元気?」


「えーああ、元気だよ。「そっか、よかった」


「……でも俺が今までどうしてたかとか、こうして再会できたことに喜んでほしかったな」

「も、もちろんまたあえてうれしいよ!!」


―――でも、どうしてここにいるんだろう。


「そうそう。俺、明日からこの学園通うことになったんだよ」

「―――え!?」

_____

「お昼だ!」

「先生は……いいなづけの手作り弁当かな……」

「アスリル、いいなずけだぞ」

「え?」


――――つぎの日



「おはようアスリル=ヘミン」

窓辺にいたニルスが挨拶をしてくれた。藍色の髪が日にてらされて薄く輝いて見える。


「お、おはよう……」

「ボンジュラ~ごきげーんいかがかな~?」

ベルターも挨拶をしてくれた。


「よっ!」

「はよー」

以前まで私に挨拶をしてくれる人なんていなかったのに、あの一件から皆結構私に話しかけてくれるようになった。



「……少し注目されたからって調子にのらないでくださるかしら!」

と一言言ったアザーレアは縦ロールを靡かせて着席した。


「はい、席についてくださーい」

――フィース先生が来た。



「授業の前に、良いお知らせと悲しいお知らせがあります」

「……?」


「さあ入ってください」


ガラリ”扉をあけて入ってきたのは―――――


「よ、同じクラスだったなアスリル」

「ジェクト!?」

まさかこのクラスに彼が入るなんて――


「彼の席は―――」

「ああ、アスリルの隣があいてますね」

……なんて都合のいい。


「これからまた、よろしくな」

「う、うん」


「……なんか馴れ馴れしくないか、あいつ」

「ジェラスイ~?」



「―――そして、悲しいお知らせです」


ただならぬ雰囲気、教室の中は一気に静まりかえった。


「ヴァフォメロット君が帰宅途中、何者かに刺されて治癒卵<チイユ>星の病院に入院することになりました」


――――ヴァフォメロットが!?....そういえば、彼は教室にいない。昨日はあんなに元気だったのに。


教室内はしばらくざわついて、先生の言葉が続く。


「たとえ学園内でも、決して一人で行動しないように気を付けてください」


私は放課後、ヴァフォメロッドのお見舞いに行くことにした。


そういえば先生が一人で歩くなって言っていたけど―――――


「やあやあ~~」

「いま帰りか」


門を出ようとしていたら、ベルターとニルスが通りかかった。


「じつはー」


私はお見舞いにいくことを話す。


「奇遇だな、俺達もあいつの見舞いに行こうとしていたんだ」

「一緒いこうよ~」

「うん」

________



「マスター」

「首尾は?」

「予定通りにございます」

「そうか、ならば良い」

________



チイユ星にあるホスピタルパレスへ着く。ナァスやドクタァがぞろぞろ、廊下を行ったり来たりしている。


受付へいくと、面会謝絶中だと言われた。

心配……きっとひどい怪我で、目が覚めていないんだろうな。


私たちはしんみりとしながら、ドゥーブル星の学園に帰った。

_____



―――お昼休み、私はおやつを買いに町を歩いていた。


「うぉ!?」

「うわっ!」

急に後ろから走ってきた少年にぶつかった。


「ごっごめん!」

黒髪に青メッシュの少年が、手を会わせて謝っている。


「大丈夫だけど……」


「あのさ……君この町詳しい?」

「え、詳しいというか、よく歩いてるほうかな」


「僕この街初めてでさーよかったら道案内してもらえないかな?」

「いいよ」

_______



「―――――そろそろだな、殿下をお連れしろ」


「了解しましたレテュード団長!」


「大変だ! お部屋にいらっしゃらない!!」


「なに――――殿下が行方不明だ!! 総動員で探せ!!」

____



まずは行きつけのケーキ屋にやってきた。


「甘いもの平気?」

「大好物だよ!」


――なぜか学園の人は男女問わず甘いもの好きが少ないんだよなあ。


みんなでケーキ屋にきたときも、甘さ控えめのクッキーやゼリーだったし。

そういえば友達の友達の友達の隣のクラスメイトのアクアルナはお金がないからって何も頼んでなかった。


お嬢様育ちなのに没落して砂や雨を食べてるらしい。


……すごいなあ。


「やあ、いらっしゃいアスリルちゃん」

「あ、こんにちは」


この店のオーナーでパティシエのパルスタスさん。ちなみに私の初恋の人その2だ。


「おや、隣の少年は君の彼氏かな?」

「ち、ちがいます!」


「新作あるけど、それにする?」

「あ、はい!」


ケーキを買ってから、少年とまた街を歩いていると嫌な相手その3と鉢合わせた。


「あ、アスリルじゃないか」

アザーレアの取り巻きその2のヨンデーヨ、なに話してもきっと嫌味を言われるんだろうな。

―――無視して去ろうとした。


「その店のケーキ、美味いよな」

ヨンデーヨがケーキの箱を見て、にっこりと言った。


あれ、てっきり―――


[ケーキなんて食べたら太るよー?中肉中背から豚〈ジュヴィアン〉饅頭になっちゃうよー?]


―――とか言ってくるって思ったのにな。


「じゃあ」

彼は爽やかに去っていった。


あれはなんだったのか、たまたまケーキが好きだったとか?



「次はどこにいこう?いきたいところある?」

私は少年に尋ねる。そういえばまだ彼の名を聞いていなかったなあ。


「そうだね……」


「あ、アスリル!」

急に後ろから呼ばれて、振り替える。


「アルフェル~ひさしぶり」


私を呼んだ朱毛の少年、彼は私の弟で魔法学園の一年だ。

学年が違うから滅多に会わないのだが、こんなところで会うなんて珍しい。


「そっちの彼は……見かけない顔だけど、クラスメイトってわけじゃないよなぁ私服だし」

「うん、さっき会ったんだ。旅の人らしくて、道案内してたの」


「ふーん。まあそんなに怪しい感じはしないからいいかな……じゃあまたねアスリル」


「アルフェル待って、前から言おうと思ってたけどさ、ちゃんと、お姉ちゃんって呼びなさい!」

「えー。じゃーな姉貴」


「あ、話ててごめん」

「いや、気にしてないけど、うーん……」


そうだ。どこにいこうか、って聞いても私が言わないとわからないよね。


「えっと、遊園地<パチカパークス>とか映画館<キネマルーム>とかバーミリアンとかあるけど」


―――なんだろう。もう普通すぎて旅の人にすすめられるようなのとか、あんまりわからないし、無難なのしか思い付かない。


「じゃあ遊園地がいいなー」


というわけで、遊園地にやって来た。


―――って、そろそろお昼休みも終わっている頃じゃない?


まあ今から帰っても遅刻は遅刻だしいいか。



「ねえ、旅って楽しい?」

「え!?ああうん楽しいよ!!」


私がペガソスのメリーゴウランデに乗りながらたずねると、ひどく動揺された。


「そっかー。あ」


向こうに、ペガソスではなく馬車の乗るやつがある。


「あっちにすればよかったかな……」

「どうして?」


「うーん。なんだか馬車のほうがお姫様みたいだから?」

「なるほどー。そういえばよく、女の子はお姫様になりたいものだって聞くね」


「男の子は王子様より騎士なの?」

「そうだねー僕は……」


「いたぞ!!」


急に兵士が周りを取り囲んだ。


「なにごと!?」

私が驚いていると、少年は馬から降りた。


「あーざんねん。いかなきゃならないみたいだ」

「え……」

「案内ありがとう。楽しかったよ、またね」


――――彼は兵士につれていかれてしまった。


彼はなにか悪いことでもしたのだろうか。


私はモヤモヤとしながら学園に戻った。

―――――



幸い授業は自習で、いなくても特になにもいわれなかった。


「あーいきたくなーい」

放課後にベルターが机にもたれてスライムのようにだらりと溶けていた。


「どうしたのベルター」

「なんか、親の都合で行きたくない場所に出掛けるらしい」


「そうだ~二人も来てよ~」

「え、でもいいのかな?」

「悪いがこれからバイトなんだ」


ニルスに拒否され、ベルターはまたいじける。


「せっかくニルスが好きそうなビッフェなのになあ~」

ベルターがタブレッティオをいじりながら興味なさげに言う。


「なぜそれを先に言わないんだ?事前に言ってくれればバイトを休むこともなかったんだぞ!?」


ビッフェくらいで成績4位(実質5位)のニルスがめっちゃキレてる。


「君がバイトしてるなんて~僕しらないし~」


私も知らなかったなあ。ニルスってお坊っちゃまだと思ってたし。


「まあいい、ビッフェ会とやらに俺はお前の友人という設定でついていく」

「設定?あ~そっか~そういうテイか~僕たち友達じゃなかったんだね……」


元気だけが取り柄のベルターがへこんでいる。


「わ、私も行きたいな~」

「ほんとう~!?」


べるたあ は たちなおった !


「じゃ、いこっか~王子の生誕祭」



「―――――え?」



――――私たちはこの星のお城にやってきた。


「うわーすごい」


『しまった! よそ行きの服がない!』

『しかたないな~ニル太くんは~心配しなくてもレンタル代くらいだしてあげるよ~』


『ありがとう親友』

『アスリルはどうする~?』

『パーティードレスはあるから私は大丈夫だよ』


――ドレスは父が今年の誕生日祝いに買ってくれた。

そういえば父の仕事が何か聞いた事がないけど、なんの仕事してるんだろうなあ。


「よし、俺はタッパァにつめてくるから後はまかせる」


ニルスはそういって、ビッフェへ向かった。

ベルターはお父さんと来るらしいから遅れるらしいし、どうしていようかな。


とりあえずは城の入り口のあたりでベルターを待っていようかな、なんて考えていると―――――


「アスリル!」

「あ……あのときの!」


昼頃に別れた旅の少年とバッタリ合ってしまった。


「なんでここに?」

「そっちこそ、大丈夫なの?」


―――まさか脱獄してきたんじゃ……


「うーんと……その話はまた後で!」


彼は走って去ってしまった。


タタタ”それからすぐ、後ろから走ってくる足音が聞こえた。


「そこのお嬢さん、いま黒髪の男がここを通りませんでしたか!?」

騎士の青年が焦りながら私にたずねる。


「たしか、あっちにいきました!」

「――感謝する」

彼はそちらへ走っていく。


いったいなんだろう。


しばらくしてベルターが父親とおぼしき中年男性と、ペガセスの馬車から降りてくる。


「アスリル~」

ベルターがこちらに手をふってくるので、私も振りかえした。


「とっても可愛いらしいドレスだね」

「ありがとう。それにしてもベルターはすごい格好だね」

キンキラキンの宝石をちりばめた服で、とてもゴッテゴテに着飾っている。


「これだけでも重いんだよ~」

ベルターは青の指輪をはずして、私の手にのせた。


「たしかに……」

ジャポナスのスズーリ並みの重さである。


私達がニルスを探しにいくとニルスはタッパァ作業を終わらせたようで、今度は胃のほうに詰める作業にとりかかっていた。


「よく食べるんだね」

見ているだけでお腹いっぱいだ。


「かれこれ一週間は水だけで生きてたからな」


――――彼はそんなにお金に困っていたの!?


「まもなく陛下、殿下がいらっしゃるわ!!」

聞き覚えのある声がまじっていたので、探してみるとアザーレアにおなじみの取り巻きズがいた。


「王子が超イケメンだったらヴィサナス星人に拐われてるよ」

「殿下まだかしら~」


―――さっきの声はゼニモーケンナだったみたい。


「あら、アスリルさんもいらしたのね」

「うん」


さすがにパーティー会場なので、アザーレアは小声だ。


――とくに会話が続かないまま終わる。


しばらくして王と王子が来る。


―――王子は黒髪、なんだか見覚えがあるような。


「皆のもの、よくぞ参られた。今宵は無礼講、第一王子“クルッセオ”の生誕を祝おうではないか!」


王に続いて、王子クルッセオが前に出てくる。


「今年も私のために、このようなパーティーを開いてもらえたこと、感謝します」


近くにきたから髪に青いメッシュが入っているのがわかる。

あれってもしかして、旅人さん?


まさかね―――――



王子の挨拶も終わり、パーティが始まる。


「そういえば、ベルターはどうしてこのパーティによばれたの?」


王子の生誕パーティなんて、一介の立場じゃ、来られないものなのに。


「それは俺も聞きたかった」

ニルスがうんうんと頷いて同意する。


「あ~僕のパパがジュエリット星の大公だから」

「ええええええええええええ」


サラッと言うベルターとは対照的に私はただただ驚くばかり。


「お前と俺はズッ友だ。よろしく相棒!」


ニルスは本気か冗談なのかわからない。


「完全にニルスはベルターの金<コエマドゲルポ>目当てにしか見えないんだけど、いいの?」

「それに僕ってお金しか取り柄ないから~」



「ホーホッホッ!!貴公子がバカなんて世も末、ジュエリット星の末ね!」


あいかわらず嫌味が初期装備されてるなあ。


「うまいね~」

ベルターはバカにされて、気にせずスルーした。


「お前、バカにされてよく怒こらないな」

ニルスが呆れている。


「だって事実だよ~?」

たしかに、でも私の一つ上なので複雑。


「たしかに最下位のアスリルの一つ上な馬鹿だが、アスリルもアザーレアの嫌味には言い気はしてないだろう?」


「うん」

私も彼みたいに楽に生きられたらいいと思うけど、無理そう。


「フハハハ!!」


――――急に城内が暗くなる。


「一体なにごとだ!?」

ニルスがまだ食べている。


パッ”スポットライトが急についた。


長く美しい赤髪に、ツノ、黒い服の男が会場の中心にいる。



「あれは!?」

「魔王だ!!」


ザワザワと会場は大騒ぎになる。


なんで魔王がこんなところにいるんだろう。

それに魔王っぽさがない。魔王といったら黒髪っしょ。


「貴様……!」

「私をパーティに呼ばないからこうなるのだ」


魔王が指をふると、人かなにかが倒れる音がした。

魔王が去ると、明かりが元にもどる。


「クルッセオ王子!!」


なにやら騒ぎがおきている。


クルッセオが倒れているようだ。さっきの音は彼だったんだ。


「おそらく魔王はパーティによばれなかった腹いせに王子に黒魔法をかけたんだ!」


「……大変じゃない!」


城の人たちが王子の呪いをとくために作戦を練るそうなので私たちは帰された。


――――次の日。



「王子にかけられた呪いを解くには薬草か魔王を直接つれてくる必要があります!

学園総出で薬草、魔王狩りです!!」


パルワー先生がメガホンで叫んだ。



――――なんかすごいことになってしまった。


「王子様の様子が心配だなあ……」


――――もしこのまま薬草が見つからなかったら。

魔王が呪いを解かなかったら。

ネガティブなことをついつい考えてしまう。


「まあそう落ち込むな、悪いのは呪いをかけた魔王だ」

ニルスが励ましてくれた。


「きっとみんなで力をあわせれば、なんとかなるよ~」

ベルターが良いこといってる。



「しかし、スリルある魔王狩りか、地味な薬草探し……」

「二人はどっちにするの?」


「俺はもちろん魔王狩りだ!」

「僕は薬草探しだよ~」


「そうなんだ……」


どっちにしようかなーと思っていると―――


「あーらアスリルさん。さっさと薬草探しにいってはいかが?」

「地味な」「薬草探しー」


アザーレアと取り巻きズに冷やかされた。

逆に魔王狩りにいきたくなるような煽り方だなあ。


「アスリルさん、王子が一瞬目を覚ましたの、貴女のことをうわごとで呼んでいたそうだからちょっと来て」

パルワー先生に言われ、向かう。

――――



「王子……」


クルッセオはまるで死んだように眠っている。


「―――私、がんばるから」



私はもちろん自分の立場と強さをわきまえて、薬草探しを選んだ。


ベルターと一緒に草むらを探していると、ドラゴンの卵をはっけんした。拾っていこう。



「やあ」

「あ、パルスタスさん。

こんなとこでどうしたんですか?」

「ベリー摘みだよ」


カゴの中には赤や黒の果実が。


「また近々いきますね」

「ああまたね」



「あれ?」

道端に少年がいる。


「ぼうやどうしたの?」

「頭がたかいぞ余はハニカムランドの王子である」


「またまた……迷子なんでしょ?」

そんなふざけた名前の国なんかあるわけ―――


「ハニカムランドのビータァン王子」

ベルターが知っていたようだ。


とりあえず彼のことは後にしよう。



「うわっ……」

ベルターが木の根にひっかりこけた。


「大丈夫?」

「いつものことだし大丈夫だよ~」


ベルターってなんか運悪いような。ボケボケしているからかな?



「薬草みつからないね……」

「そりゃそうだよ~薬草の特徴聞いてないもん」


「あ……」


―――本末転倒じゃない?


しかたないので私達は薬草探しをやめ、魔王退治サイドにうつる。

というかみんなそっちに行っているから薬草がなにかも聞けないから不可抗力である。


「あ、ニルス」

「アスリル=ヘミン、まさか君がこちらにくるとは……」

――それは自分でもそう思うけど、失礼じゃない?


「薬草がわからなくて」

「ホーホッホ!」

「はあ……」「やれやれ……」

アザーレアと取り巻きツインズがやってきた。


「アスリル。ワタクシと貴女、どちらが先に魔王を始末するか――競争ですわ!」

「望むところだよ!」


―――――こうなりゃヤケだ。やるしかない!!




「魔王!!覚悟しろ!!」


―――皆は魔王を追い詰めた。と思いきや、それは残像……否、幻であった。

一方その頃、アスリル達は

城の一階あたりで燻<くすぶ>っていた。


「階段どこだろう……広すぎてわけわかんないよ」

「あ、あっちに階段があるよ~!」


ベルターが指をさすと、アザーレア達が一目散に階段へかけあがる。


「いや待て、罠かもしれない」


とニルスが警戒してベルターやアスリルを制す。すると――――

ガシャン”階段が自動で動きだし、一面トゲだらけになった。


「危なかった……」

「うわあああああ」


アザーレア達が咄嗟に浮遊魔法で飛び、階段からはなれた。


「あ……危なかった」アザーレアは崩れたドリルをさっとなおす。


「この城は危険すぎるな。プランCで行くしかないか……」

「プランCってなに?」

「言ってみただけだ」


「あら、このスイッチなにかしらー?」


ゼニモーケンナがスイッチを指さす。


「おすな!絶対おすなよ!」

「きっとフリに違いないよ」


ヨンデーヨは押した。―――カチッ”


「うわああああああああ!?」



「なにもおきない?」


なにやら湯気が立ち込める。


「―――よくここまでたどり着いたな」


ライウォンの頭から湯が流れる広い浴場に男がいる。


「さて、客人の前だ……あがるか「おい服着ろよ」


ヨンデーヨがオケを魔王の頭に投げた。


「やれやれ……少し待っていろ。あれ着るから」



数刻待つと、バスローブにワイン片手の男がやってきた。


「覚悟しろ魔王!!」

――気を取り直し、ニルスが杖を構える。


「王子を元に戻してもらうわ!!」

「よかろう……ただし条件がある」


「条件?」


パーティーに参加させろ。とかかな―――


「我が妃となれ」

「えっ私!?」


―――魔王が私に求婚してきた。でも、王子にかけられた呪いを解くために、彼と結婚なんておかしい。


―――それに、なんで私が彼に結婚を申し込まれたのかわからない。


「――魔王、正気か!?」

ニルスがバックに雷ピシャリ。


「え!?こんなチンチクリンのどこがいいの!?」

ゼニモーケンナが唖然としている。


「一目惚れだ!!」

「お~」

ベルターがパチパチ拍手する。


「そこ手叩くようなとこか?」

ヨンデーヨが素でつっこんだ。


アザーレアは珍しく無言。てっきり“ワタクシのほうが魔王の妃相応しいですわ!”とか言って立候補するかと思った。


「ごめんなさい。私貴方のこと好きじゃないし、魔王の妻なんてガラじゃないと思うんだ」

「くっ……諦めんぞ!」

「いや、諦めろよ」


魔王はなにがしたかったのか、王子の呪いは解けた。帰り途中、森で卵を拾ってきた。


――――翌日。


「いやー一時はどうなることかと思ったが、全て丸くおさまったな」


あ、フェアリーベルが鳴った。


「はーい皆席について」


フィース先生が教室に入る。


「転校生を紹介しまーす」


――え?


「ゼルルドです」


魔王がクラスメイトになったあああああああ!

―――


挿絵(By みてみん)


昨日は魔王が転校してきてさんざんだったなあ。


―――ブォンブォン!


「なんだ!!?」

「リージェン党が出たぞおおお!!」


――――ボウソウゾクゥがきた。


「リージェン党の総統にして盗賊王のルフだあああああ!」

早朝から不良組織リージェン党の総統のバィクのエンジン音が鳴る。


「オラオラ!! どけどけ!!」

「うわあああ!!」


怖いなあ。目を合わせないようにしよう。


「……おい、なに見てやがる?」


―――早々に絡まれてしまった。


「そのピンク髪……お前、アスリル=ヘミンだな?」


なんで私の事知ってるんだろう。


「成績最下位で有名な」


――私が最下位なばっかりに!!


「お前の父親には借りがある。オレはヘミン家を許さねえからな……」


めちゃくちゃ睨まれた。父はいったいなにをしたの。



ルフのことは気にはなったが、考えてもしかたないので普通に授業を受けている。


「はーっはっは!」


タブレッティオの画面に見知らぬ青年がうつる。どうやら電波ジャックされたみたいだ。

いきなりドルゼイ軍が学園に攻めてきた!皆はいっせいにタブレッティオを投げる。


「ふぐが!!」

「いたぞ、ドルゼイだ!!捕まえろ!!」


たまたまいた海軍が駆けつけてきた。


「やあアスリル」

「アミドラルお兄ちゃん!?」


なんでお兄ちゃんが軍服着て、しかも船の先で一人アレ(ティターニックポーズ)をしてるのだろう。


「ヘミン大佐!!」


軍服の人たちが兄にへこへこしている。


「お兄ちゃんの仕事って……」

「俺は海軍に所属していて、大佐をやってるんだ」


「ええええええええ!?」




軍の人達はドルゼイを取り逃がした。


「相変わらず奴は捕まらないな。何らかの力による妨害のようなもの……」


“正義が存在するには悪は不可欠である”


「え?」

「どうしたアスリル」

「ううん」


――いまなにか、声が聞こえたような。


「じゃあ、後は陸の奴等に任せて仕事に戻るかな」

「もういっちゃうの?」

「休みがとれたら会いに来るよ」

「……大佐なんて休みとれないじゃない。家なんてエリートがいないただの平凡な家庭だと思ってたのに」


「軍服は嫌か?」

「そういうことじゃなくて……というかどうやって大佐になったの?」


お兄ちゃんは若いし、偉い役職ってコネとか貴族が汚い賄賂でなるイメージがある。


「まあ俺の実力だけじゃなく、父さんの名もある。それにヘミン家は……」

「大佐、船の整備が完了しました!」

「コロットス、今いく」


「やっぱり忙しいんだよね?」

「ああ、海賊マベグズを追いかけないといけないからね」


学園へ入学してから会っていなかったし、仕事がただの下請けかと思ってたら、そんなに偉い立場だったなんて教えてくれなかったり、色々話したいことがあったのにな。



授業どころではなくなり、生徒は寮や家へ帰宅することになる。

そういえばこの前、卵を拾ったんだった。

暖めたほうがいいのかな。


ドアを開けて部屋へ入る。


「あ」


そこには見知らぬ初等部くらいの少年がいた。


「ごめんなさい!部屋まちがえました。って違うでしょ!!」


一旦扉をしめ、ふたたびあけた。


「おかえりご主人様」

「え?」


どちらさま?


「オレはラービュラ! ご主人様が拾ってくれた卵からかえったんだ」


ラービュラが背の羽をバサバサ、ドラゴンの羽だ。


「……あの卵から孵ったばかりなのにしゃべれるんだ」


ミニドラゴン姿を世話しようとおもってたのに、しょっぱなからバリバリ人化できるなんてなあ。


「竜族は卵の中でそこそこ勉強するんだ。意思の疎通も産卵される前に母ドラゴンとしたり」

「でも、物語のドラゴンは喋るのに時間かかるよ?」


「よそはよそだよ」

「とりあえず、わかった」


ラービュラはミニドラゴンの姿になった。


「かわいい」

《あ、ありがと……》


「ところでどうしてあんなとこに転がってたの?」

《オレ達は今、自然が大変でこまってるから魔法使いの遣い魔になって生計を立ててるんだ》


「シビアだね……」

《さっそくだけどオレなにしたらいいかな?ご主人様の手助けをしたいんだ》


「私、立派な魔法使いになりたいんだけど魔法とか下手で成績最下位なんだ」


《大丈夫、最下位ってことは上がるだけだよ!!オレ頑張るからこれからよろしくご主人様》


「私まだ飼うとはいってないよ」

《ええ!?飼ってくれないの!?》


「なんて冗談はさておき……私はアスリル。こちらこそよろしくねラービュラ!」


そういえば薬草探しでラービュラの卵、魔王城からの帰りで二つ目の卵を拾ったんだった。


きれいなまっ白で、ドラゴンの卵より大きい。


「もうひとつの卵はまだかえらないのかな?」

「アスリルさま!これドラゴンじゃないよ」

「え?」


「たぶん天使<エンジェル>じゃないかな?」

「へーじゃあ幸運が招かれるのかな」


天使といえばマージルクス星のチャイカという地区に天使の血をひく天遣族がいるらしい。

何年か前テレビで、背に羽を持つ人間の特集でドラゴンと人間のハーフのように珍しいといっていた。


「そうだね」


ラービュラは卵を見て複雑そうな顔をした。


「どうしたの」

「なっなんでもないよ!」


「あ、わかった。天使の卵がかえったらラービュラはお払い箱になるとか心配してるんでしょ?」

「う、うん……」


「心配しなくてもそんなひどいことしないよ」

「オレが使い魔になったからには魔法の修行ビシバシいくからね!」

「おっ……おー!」


ラービュラは元から魔力を持つドラゴン族だから人間と違って修行とか必要ないんだろうなあ。


「じゃあまず魔法使いの基本、エレメンタルの属性を決めようよ」

「エレメンタルって火木土水とかだよね?」

「風や雷、光に闇もあるよ」


エレメンタルというのは大地にある自然エネルギー。

月<ミューン>が魔物や魔法使いの使う闇で、日の太陽<サニュ>は妖精や天使の光にあたる。

七つの属性の他に派生したものもある。

雷は光、氷は水と同類視されることが多い。

風は火を増幅させ、水から氷へ変化させる補助魔法とされている。


「属性といったら色のイメージがあるよね」


火は赤で水は青で木は緑、光は黄色で闇は紫。という印象が強い。


「あ、5大魔導一族の得意魔法とかローブの色もそんな感じだったなあ」


――今は魔導一族のことより魔法の鍛練しないとだ。


「魔導一族といえば貴族で名字のない生徒がいるよね?」


ラービュラが生徒名簿のようなものをみている。


「うんアクアルナとかは没落貴族だけどする前も名字はなかったような気がする」

「マージルクスやマキュス星人の貴族は基本魔導一族なんだ。赤の焔のハイロダルタンダ、青き清浄のクラールとか」

「へえ……あ、アクアルナは青い髪をしているしそうなのかもね」


そういえばニルスもマキュス星人で、アクアルナのように青い髪をしている。でも名字があるからクラール家には関係ないかな。


「じゃあ知識はこれくらいにして実践やろう!」

「うん」


―――属性なににしようかな。


【金】【土】

【木】【火】

【水】【風】

【闇】【光】

【派生】【他】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ