呼びたかった名
「うおおぉぉぉおおおらぁぁ!」
荒々しいかけ声とともに、アレッサは二人の敵を斬り伏せた。
その後も、どんどんと敵中へと斬り込んでいく。
まるで物語の、大暴れする蛮族の戦士のようだった。
戦闘になると人が変わる者はいる。
だがこれは極端だ。
「ちょっとちょっと!
突っ込みすぎじゃない!?
バーラインさんのコメントと何か印象違うな!」
後を追いながら、ゾルカは言った。
旅の途中に魔物と遭遇することはあったが
アレッサが手早く淡々と撃退していたし、
沈着冷静な男だと思っていた。
それがどうだろうか。
猛々しく咆哮しながら迷うことなく斬り進む。
「おーい、アレッサァァァ!」
「戦いは常に命がけ、
平和を目指して不惜身命!
おい!
お前まだ抜いてないのか!」
「お前が全部倒してるからだろッ!
抜くタイミングがないだけ!」
「言い訳するな!
戦場で納刀したままでいるなど、
戦場に全裸でいるようなものだぞ!
抜け抜け抜けェェェェ!」
「戦場でのことの例えを戦場でのことで言うの
やめてくれない!?
よくわからないから!」
ただ、剣技についてはバーラインが言っていたように
力が入りすぎていることもなく、
鋭く的確に標的を仕留めていた。
「いやァ~、すごいすごい!
がんばれがんばれ!」
「お前は突っ込まなさすぎる!
戦う気あるのか!」
「ないない!」
アレッサに声援を送るラヴは、
後ろの方からひらひらと手を振りながらゾルカに答えた。
彼は、見るからに前面に立って戦うようなタイプではない。
持っている武器も短剣だけだ。
それにしても、立ち位置が後方すぎはしないか。
ただでさえ得物が短いというのに。
届かせる気がないのは明らかだ。
「後でメシおごらせてやるからなお前!」
「ゾルカ!危ない!」
ゾルカに斬りかかる敵を目にし、アレッサが怒鳴る。
同時に、その敵がぐらりと倒れた。
「何…!?」
「いちいち驚くなよ、アレッサ。
俺は抜くだけで敵の二人や三人は斬れるんだからな!」
いつの間にか、ゾルカの剣は抜き放たれていた。
抜刀の瞬間は、注意して見ていないと捉えられないだろう。
アレッサは、感心した。
「…(大した抜き打ちだ!
これほど速いものは見たことがない)」
道中現れた魔物は全てアレッサが早々に倒してしまっていたから、
ゾルカの剣技は初めて見る。
抜刀すると同時に目前の相手を倒し、
その後も閃光の如く剣が走り、きらきらと煌めく度に敵が倒れた。
その剣閃の鋭さ、速さはまさしく稲妻か流星のようであった。
並の剣士では刃を合わせることすら困難だろう。
彼が予想以上の腕を持っていたことに、アレッサは嬉しくなった。
「やるな、ゾルカ!
今度、俺とやろう」
「やだよ、あんなにぐいぐい来られるの!
やるならエルトフィア・ナイツで勝負だ、
俺のキラリトさんのカードで粉砕してやるから」
「そうはいかない、俺も青騎士のカードを持っているからな」
「ウソ!?くれ!」
「冗談言うな。
寝言は寝ている時だけにしろ」
向かって来る敵が増える中、背中合わせになるゾルカとアレッサ。
自然と、笑みがこぼれた。
戦いが楽しかったわけではない。
こいつには背中を預けられる。
戦場で抱くことができたその想いが、彼らにそうさせた。
「よし!
一気に蹴散らすぞ!」
「ああ」
「ちょーっと、そこの君たち?」
二人の間に割って入るかのように、甲高い声が響いた。
前方の敵が数人薙ぎ倒され、くずおれる者たちの間を通り抜けて
一人の騎士らしき人物が姿を現す。
妙な歩き方で近づいて来た細身の男が、ポーズを取るように立ち止まった。
そして、こちらに不審そうな視線を投げかけた。
わずかに残った敵をゾルカとアレッサが倒すと、彼は声をかけてきた。
「我ら白の騎士団一番隊の優雅な戦いを邪魔しないでくれたまえ。
報奨金など出さないよ?」
「はあ!?」
「まあ、私は寛大な漢です。
意図的に妨害したわけではないということにしておきましょう。
君たちのような無鉄砲で向こう見ずな若者であっても民は民、
無事で良かったよ。私が来たおかげだが」
演劇の一幕のような仕草で、左手をこちらへ向ける長身の男。
芝居がかったその動きと気取った口調が、癇に障った。
ひょろりとして頼りなさげには見えるが、
複数の敵を瞬時に倒し何事もなかったかのように
悠然と歩いて来たことからして実力は相当のもののはずである。
しかし、
「あんた誰!?」
「フッ、無知というのは悲しいものですね。
哀れというより、そう、悲しい」
ゾルカの乱暴な問いに、騎士は両手を広げて首を振った。
「いいでしょう、そんな無知で無学で、その上無礼な三重苦の若者に
一度だけ私の名を、私自ら教えてさしあげるという
美しい時間と思い出を与えましょう。
私は白の騎士団一番隊隊長、『白き薔薇』デュナミス・ナッソス。
二度は言わないので帰ったら日記にしかと書き留めておきたまえ」
「白きバカ?」
「ホワイト・ローズッッ!!」
「隊長!」
白き薔薇が顔を真っ赤にしていると、
太い声が轟き敵が吹っ飛んで来てゾルカの前に転がった。
何事かと目をやってみたところ、ムトーが来たのかと
一瞬思ってしまうほどの筋骨たくましい若者が進み出て来た。
デュナミスと同じような白い鎧を身に着けているので、
彼も白の騎士団の一員なのだろう。
「この付近の敵は、片が付いたようです」
「ご苦労だったね。
まあ~、そうだな。
君もよそ者にしてはよくやったよ、
この言葉を日記に書き留めておきたまえ」
デュナミスがまた人をいらつかせる動きと口調で言った。
「私は彼らへの対処をする、
戦場に迷い込んだ無謀な若者たちの暴走は
看過できぬのでね。
隊の半分を連れて先に次の敵の所へ行きたまえ、
アストレン君」
「はい!」
「アストレン君?」
見覚えのない者に聞き覚えのある名だなと思ったゾルカだが、
魔導灯の明りに照らされる若者の顔を目にした時、
雷に撃たれたような衝撃があった。
図体こそ自分の記憶からはかけ離れているが、
その顔立ちは確かに記憶と一致するものだった。
出そうとしてもなかなか出ない声を、
やっとの想いで絞り出す。
長い間、直に呼びたいと願ってやまなかった名を。
「…ラァズ…ラァズか!?」




