魔導士
幻想的な光景だった。
夜の闇に踊る白い光の幕が、
ホワイト・ウォールとその周辺を数キロに渡って包み込んだ。
それが、襲撃者たちの進入も攻撃も防いでいた。
この街を混乱に陥れている者たちの目にも光の幕は美しく、
己の意志とは関係なく琴線に触れるものであった。
「ふ~む、お見事…
あれが話に聞く白騎士の『白のカーテン』か」
静かな大通りに出たフォクジーは、足を止めて光を眺める。
それについては、事前に情報を得ていた。
伝え聞いただけでは想像しがたい術だったが、
実際に目の当たりにしてみると壮観である。
それを成しているのが、人の力によるものとは。
「あれを破らないと、城の守りに割く兵を減らせるだろうから
面倒なことになるかなァ…
でも、たおやかな見た目に反して相当頑丈らしいし…」
「破れないことはない」
「おっ、魔導士殿」
後ろから歩いて来た人物が、フォクジーの隣に並んだ。
背はさほど高くなく、ゆったりとした茶褐色のローブをまとい、
フードを深くかぶっている。
謎めいたいでたちではあるが、声の質には
明るさを感じさせる響きがあった。
「破れるのかい?
強力だよ、あのヒラヒラ」
「確かに。
魔法ではないが、防御魔法として考えると
最高位にあると言っていいほどだろう。
だが、限りなく絶対に近かったとしても絶対防御ではないはず…
…ならば、オレが破る」
「普通の魔法でいけるかな?」
歩き出す魔導士を目で追って、フォクジーがきいた。
にやけている。
それだけの理由でアニマに蹴り飛ばされることもしばしばだが、
そうさせるのはフォクジーのにやけた顔が
人を見透かしたような印象を与えるからだ。
魔導士も、それを感じていた。
そして今、奴は間違いなくその顔をしている。
あえて目にしたくはない。
だから、振り返ることなく口を開いた。
「そのツラをやめろ。
不愉快だ」
「キミからは見えないでしょ!?
こっち見てないじゃない!」
「見えなくてもあんたがにやにやしていると思うだけで腹が立つ」
「…ひどい…」
「『失われた魔法』を使う。
連発すれば一点突破でいけるだろう。
時間はかかるかもしれないが、それならそれで
敵の目を引きつけることはできる」
「そうかい、それじゃあ僕は敵部隊を止めて来ようかなぁ。
さすがに不意打ちができなくなったら兵士さんたちが強くて、
なかなか厳しくなっているようだからねぇ」
自ら難しい状況だと言葉にしながらも、
フォクジーの表情はいきいきとしている。
ようやく、思う存分暴れられる時が来たのだ。
今、彼は生を楽しんでいる。
命の危険さえも、生を実感させる妙味だったのである。




