確信
「―――――じゃあ、お前も魔王を倒そうとしているんだな」
「…そうだ」
歩きながら言うゾルカに、アレッサは前を向いたまま答えた。
その視線の先には、すでにヴィルレーの街が見えている。
月明りのない夜の闇に白い防壁と、その向こうの
王城ホワイト・ウォールの尖塔が浮かび上がっていた。
それらを眺めながらゾルカはようやく着いたという想いを抱いたが、
同時にようやくアレッサの目的を聞き出せたと思った。
彼は無口とまではいかないがあまり愛想のない男のようで、
ここまでともに旅をしながらも自分のことは語ろうとしないし
突っ込んだ質問には答えず、当たり障りのない会話が続いていたが、
目的地を目前にしてアレッサが何を志し行動しているのかがわかった。
「一人で?仲間は?」
さらにゾルカが尋ねると、アレッサは少しの間を置いて答えた。
「俺は仲間とともに乗り込む方法ではなく、
違う形での魔王退治を目指している。
今はジュネートとアスティアの二つの勢力があって
防衛に重きを置かなきゃならない状況ではあるが、
四大国もただ守っているだけじゃない。
各国の軍はそれぞれ国内で魔物を狩っている、
特に四騎士の働きは抜群だし、
デモンズ・ゲートの混成軍も少しずつではあるが
敵の戦力を削っている」
ファンフランの北の国境はオルタ川の支流、
ラーヌ川でアスティアと分かたれている。
そこにかかるアスティアとを結ぶ唯一の橋、
カゼラルブリッジは四大国の混成軍が押さえており、
橋の向こう側の地域はデモンズ・ゲートと呼ばれていた。
ファンフランに侵入しようとする魔物と
それを防ぎ、また接近する魔物の集団を討伐する
混成軍の戦闘が散発する、人間側にとっての最前線であり、
危険地帯であった。
「俺はいずれ四大国側が攻め込む決戦の時があると思っている。
それに参加して、魔王を倒すつもりだ。
そのために今は修行をし、準備をしている」
「なるほどなあ…」
ゾルカは、納得してうなずいた。
いつになるかはわからないし実際にそうなるのかはわからないが、
混成軍が攻め込むことになるとすればその機に乗じて
アスティアへ乗り込む方が、
魔王打倒の成功率は高いかもしれない。
けど、とゾルカは拳を握る。
「俺はいつ行くかは自分で決める。
時が来たと俺が感じたら突入する!」
「…その前に混成軍が攻め込んだら?」
「…それはそれで時が来たってことだよね」
「…。
ん、何だ?
おい、見ろ」
「え?」
アレッサの指先から、それが指し示すものへと目を移す。
ヴィルレーの街の門だった。
話している間にも近づいており、
彼が何について気になったのかはひと目でわかった。
普段は夜でも開かれている門が閉じられ、
十人ほどの兵士が立っている。
「何か事件でも起こったのかな」
街や村には大抵、魔物を追い払う退魔の結界が施してある。
街全体を魔方陣に仕立て、そこに住む人々から微量ずつ失敬する魔力と
自然界に存在する魔力とを集めることでエネルギーを調達して
発動させる大掛かりなものだ。
それのために設置された装置を
ひとつでも破壊しなければ消えることはない。
装置は地中や建物の中に隠され、発見される恐れは
まずないと言えた。
だから、ゾルカは人間による事件が起きたのかと考えた。
魔物が街に入り込むとすれば、装置を壊す以外には
強大な魔力をもって結界を打ち破る他ないが、
それほどの魔物はそうそう存在しない。
「まさかあそこで足止めか?
今日こそはベッドで眠れると思ったからこそ
こんな夜更けまで歩き続けたんだがな」
眠気も手伝って、アレッサは不機嫌そうに言った。
いつもより少し長く歩けば久しぶりに野宿を回避できる。
温かい料理と寝床にありつくことができる。
だからこそ、日が暮れても足を止めることなく進んできたのだ。
正直なところ、一秒たりとも止められたくない。
「強行突破するか!」
「何のためにだよ。
足止めどころか牢屋行きだぞ」
ゾルカは冗談のつもりで言ったのだが、
アレッサは突っぱねるように答えた。
ジュナイルなら軽くあしらってくれたところであろうが、
まだ出会って日が浅いので致し方ない。
おとなしくなったゾルカと睡魔と格闘するアレッサは、
兵士たちが厳しい表情で待ち受ける門へと無言で向かっていった。
やがてたどり着いた街の入口で
案の定足止めされた二人が聞かされたのは、
『市街地で戦闘が発生し多くの兵が出動している』という話だった。
しかも、敵が外から侵入した形跡はないらしい。
どこから現れたのか、今のところ不明だというのだ。
思ってもみない事態に二人は驚き、
ゾルカの脳裏には二つの場面がよぎった。
ひとつは、突如戦場と化したアルトリアが炎上した夜。
そしてもうひとつは、スバール村を後にした時に見た
オルタ川の水中を泳ぐ黒い影。
なぜそれが思い浮かんだのかはわからないが、
今回の件に関係しているという不思議な確信があった。
ヴィルレーには、大小様々な数多くの水路がある。
その全てが、常に警備されているはずはない。
ゾルカは真剣な顔つきになって、兵士に詰め寄った。
「水路だ!
敵は、水路から街に入り込んだんだ!」




