物書きと新兵
最近の出来事について書き留めていたジュナイルは、
自分が寝泊りしている兵舎が何やら騒がしいことに気づいた。
書き物をしている時に邪魔をされるのを好まない彼は、
手を止めて顔を上げた。
「うるせえな。
深夜は物書きにとって黄金の時間帯だぞ」
椅子から立ち、部屋を出てみる。
兵士たちが廊下を走り、中には寝ている者を起こすため
扉をどんどんと叩いて回っている者もいた。
彼らの表情や声の調子を見るに、訓練ではなさそうである。
ちょうどその時、隣室のリアム・クロードが
通りがかったので声をかけた。
「よう、こりゃ何の騒ぎだい。
サプライズパーティーって雰囲気じゃなさそうだな」
立ち止まったリアムは、ジュナイルよりひとつ年少の若者だ。
出撃の経験もほとんどなく、緊張のあまり
まだ少年の面影を残す顔が引きつっていた。
「ここ数日起きている襲撃事件ですよ!
今日は団長殿も巡回に出ていて、
他の隊も襲われているっていうので
我々にも応援や要所の守備のためお声がかかったのです」
言い終えると、彼は慌ただしく走り去った。
襲撃事件のことはジュナイルももちろん知っている。
すでに三件も起きていて、街ではすっかり話題の中心になっていた。
鼻の利くジュナイルは当初から
『こいつは大事になる』と直感していたのであるが、
そうなるのが思ったより早かった。
「軍が動いているのなら任せときゃいい話だが…」
兵士たちの邪魔にならぬよう一旦室内に戻り、
ジュナイルは腕を組んでつぶやいた。
そして、視線を天井、背後の扉、窓の順に移していった。
「補欠勇者様のお仲間としては
黙って見ているわけにもいかねえか」
机の上に開かれたノートを引き出しにしまい、
立てかけてある剣をつかむとジュナイルは
多くの兵でごった返す廊下へと再び出た。
殺気立った彼らの間をするすると通り抜け、
騒然とした兵舎を脱出して見上げた夜空には、
どこにも月の姿はなかった。




