動き出す女たち
その日の夜、街の見回りを行っていた巡回隊の多くが
襲撃を受けた。
突如姿を現した敵を前に、ネザロは部下の一人を離脱させた。
情報を、伝えるために。
同じ頃、キラリト率いる隊も同じく襲われていた。
「本番は今日のようですね」
左手で敵の顔面を鷲掴みにしながら、キラリトはつぶやく。
彼女に三人の襲撃者が一斉に斬りかかったが、
右手で無造作に振られた剣が一太刀でいともたやすく薙ぎ払った。
その足元には、すでに十を超える敵が転がっている。
今日初めて彼女を戦場で見た兵もいたが
敵の身体を片手で軽々と振り回し一撃で複数を打ち倒すという、
平時の穏やかな物腰からは大きくかけ離れた
野性味のある壮烈な戦いぶりに度肝を抜かれた。
「今夜の空気…
敵が現れたのは、ここだけではないでしょう」
自ら巡回に出た意味はあった。
異変を早々に知り、敵を直接見ることもできた。
この場を手早く片付け、軍を動かさなければ。
深夜、フィラミラの部屋の扉が内側から開かれた。
自分の担当の時間がそろそろ終わりという頃で、
お腹はすいたけどこんな夜遅くに食べたら太りそう…
でもこのままでは眠れそうにない。
何かつまんでおこうか、朝食を心待ちにしながら
さっさと寝てしまおうか…
などと考えていたイメリアは、慌てた。
廊下に出て来た麗しき少女がどれだけ気まぐれで
マイペースな性格であるか、この三ヶ月でよくわかっている。
別にあれこれ言いつけてくるわけではない。
世話をしようとすれば実に扱いにくいのは確かだが、
イメリアはフィラミラの手助けをキラリトから頼まれた者の一人である。
キラリトはファンフランの人間として、
女性として憧れの的であり、雲の上の存在だ。
その彼女が、直々に自分に任務を与えてくれたのだ。
期待に応えるべく何としてもフィラミラを守り、
助けようという意気込みがあった。
だから、彼女が突然古本屋に行くと言えばついて行き、
十軒以上も探し歩いてようやく見つけた本を
たちまちの内に読んでしまい解読作業の際の肘置きにするのを目にして
なぜ肘の台が本でなければならなかったのかと思いながらも言及せず、
気分転換したいと言うので延々と
『本の内容暗記ゲーム』を百十二回やって百十二連敗したりした。
他にも思い出せば枚挙にいとまがないが、
彼女と接してその魅力に触れている内に、
イメリアの頭からは任務だからという意識は消えていた。
とはいえ、何を言い出すかわからない厄介さが
フィラミラにあることに変わりはない。
「ど、どうなさいました、こんな時間に」
深夜にこっそり営業している古本屋でも探しに行くのか。
夜中にしか咲かない幻の花でも見つけに行くのか。
そもそも存在するかわからないのに。
勝手に想像を膨らませ戦々恐々としながら声をかけると、
いつもにこやかな彼女にしては珍しく真顔だった。
そして一言、「何か来てる」とつぶやいた。
「何か?」
「外に出ない方がいいよ」
「まさかジュナイルさんですか?
駄目ですよ、フィラミラさんのお仲間ということで
日中ここへの出入りが許可されているだけなんですから!
阻止してきます!」
ジュナイルは女性兵士や女官の間でも評判の美形だが、
夜間にこの建物に入ろうとしているのであれば許されない。
フィラミラの勘は当たる。
そうはさせるかと、イメリアは駆け出した。
どうやら彼女は勘違いしたようであるが、
来てもいないジュナイルを止めるため
走って行ったのであれば外に出ることはあるまい。
フィラミラは、イメリアがいない間に城を抜け出した。




