二人の獣
夜。
空に月は見えない。
新月だった。
しかし、白き都ヴィルレーには多くの街灯があり、
闇に塗りつぶされているということはない。
それが、気にくわない者がいた。
「―――――月隠れの夜がこんなに明るいとは、腹立たしいね。
ここの奴らはバカばっかりか!
神聖な日の闇を光で汚すなんてさ」
この大きな都市を、高い建物の上から見下ろす二つの人影があった。
それは男女であり、悪態をついたのは女性の方だった。
名は、アニマ・ベイルバック。
「街の北側に守りが集中しているということはないようだね。
しかし、見回りをしている連中の人数は増えている」
彼女が、両手に腰を当てた格好で言った。
頭にかぶった大型の山猫の頭部の下から赤茶の髪が肩まで伸び、
その顔立ちはかぶり物に似て猫を思わせる。
まとっているのはケープに見えるが頭上に顔のある山猫の毛皮で、
その下は露出部分の多い簡素な服を着ているのみで
筋肉質のしなやかな身体つきを窺い知ることができる。
「んん~、乗ってきてくれなかったねェ。
キラリトといったかな、ここの大将さんは。
一件目の後から巡回のルートを組み換えたり
隊同士の接触回数を増やしたりと手を打ってきたが、
守備のバランスは崩さなかったね。
冷静でいらっしゃる、
実に!素晴らしい」
顎の不精髭をさすりながら、男性が答えた。
こちらの名は、フォクジー・フリップ。
狐の頭部と毛皮に身を包み、下がった目尻と
口の端を歪めるような笑みが特徴的である。
彼の余裕のある表情とは逆に、
アニマはいらついた様子を見せていた。
「何でアルトリアとかいう街の時と同じようにやらないんだ。
面倒だな」
「まあまあ、アニマ君。
アルトリアの場合は中に同志がいて、
街があの位置だったからこそできたんだよ」
フォクジーは笑いながら、なだめるように言った。
実はそれは全くの逆効果だったのだが、
フォクジーは言葉を続けた。
「それにあそこの例が教訓にもなっているだろう、
もうああはいかないさ。
そもそも今回は一番の目的が違う、優先順位を忘れちゃいけないよ」
「ごちゃごちゃうるさい!」
もう我慢ならんというようにアニマが怒鳴ると、
フォクジーは落ち込んだ。
「…そんな…きかれたから答えたのに…」
「始めるよ!
ついて来な!」
「…一応、僕の方が年長なんだけどなァ…」
滑るように動き出すアニマに、ぼやきながらフォクジーも続く。
ファンフランの王都に、鋭い牙を持つ獣が解き放たれるのだ。
そのことを知る者は、まだこの街のどこにもいなかった。




