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補欠勇者  作者: 吉良 善
5 みんなのところへ
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別れと出会い

フォズリルと別れ、オルタ川のほとりまで戻って来たゾルカ。


少し立ち止まって、街道からは数メートル低くなっている


その流れを見下ろした。


この川はゾルカをファンフランへと運び、


クリング・ルーの手から逃してくれた。


しかし、フォズリルをはじめ多くの人々の命を奪いもした。


大いなる流れの力は人の生死を分け、


運命を変えることもある。


スバール村が激流に襲われた時のことを想い、


ゾルカはしみじみと考えるのだった。


「…あれ?」


つぶやいて、彼は覗き込むように少し身を乗り出した。


立っている場所の方がずいぶん高いから、川面までは距離がある。


川の中を何か大きな影が通り過ぎたような気がした。


今はもう、何も妙なところはない。


「気のせいだったのかな…」


「何ッ!?」


「え?」


大きな声が聞こえてきたので、


ゾルカはそちらの方を振り返った。


若い男が一人、愕然とした様子で立ち尽くしている。


スバール村へと続く道を見ているようだった。


村のことを知っている者なのだとしたら、


当然の反応であろう。


ゾルカは、事情を説明してやろうと


声をかけることにした。


「あのー、すみません」


「ん?」


近づくゾルカに顔を向けたその男は、


よく見ると自分と年齢が近そうな細身の青年であった。


腰に長剣を帯びて剣士然としている。


目つきは鋭く頬はややこけており、


肌は色白と言うより青白かった。


「もしかして、スバール村の方ですか」


「いや、以前スバールに一泊したことがあって、


 今日もそうしようと思い来てみれば


 道があの有様だったので驚いていたところだ」


答えながら、青年は再び道の方を向いた。


木や石が散乱し、ところどころ塞がれているのを見れば、


何事かあったことはわかる。


しかしひとつの村が滅びているとは夢にも思うまい。


「実は洪水があったらしくて、村も住民の方々もみんな…」


「…洪水…!?


 何ということだ…


 君はなぜそれを知っている?」


「ええと、村の人に聞いて…」


「わからないな。


 村民は皆やられたという旨をたった今君が話したと思うが」


そのとおりである。


ゾルカは肝心なことを言わなかった。


だから、青年が困惑するのも無理はない。


とはいえ、その肝心なことを話したとしても


困惑することには変わりないだろう。





「とにかく、今は村に行っても仕方ないんで…


 俺はヴィルレーに行くので、スバールのことは


 ファンフラン軍にでも報告しようと思ってます。


 あなたはどちらへ?」


ゾルカが尋ねると、青年は一瞬言いよどんだのちに答えた。


「俺も、ヴィルレーへ向かうところだが…」


「あ、そうなの!?


 ちょうどいい!


 一緒に行きましょうよ!」


「…いや…それは…」


青年の方は、ゾルカが口にする前から


そう言い出しそうな予感がしたので


ためらったのである。


どことなく厚かましそうな雰囲気を感じていた。


そして、その直感は当たっていた。


おかまいなしに、ゾルカはさらに迫る。


「歳も実は同じくらいじゃない!?


 友達になれるかも俺たち!


 いや、なろう!


 俺はデスゾルカ・レビ!」


「…」


名乗った途端、青年は眉をひそめた。


その理由に、ゾルカはピンときた。


「…本名ですよ」


「…レビか…」


「え?そっち?」


「妙にかわいい響きの名字だな…


 名前の方の不穏な印象を中和しようとしても、


 そうはいかないぞ」


「知らないよ!


 名前も名字も俺が決めたんじゃないんだから!


 そもそも名字の方が先にあったんだし!」


「…まあいい。


 俺はアレッサ・アレンだ」


「よろしく!


 …ん?何か聞いたことがあるような…」


「…ああ、バーライン・ナイトがなぜかインタビューで


 俺の名前を出したからな。


 それで聞いたんじゃないか」


「あっ、そうだッ!


 俺を差し置いてバーラインさんに絶賛されてたヤツだ!」


「…差し置いてって…


 何者だよ、お前…」


「気に入らんな!


 一緒に行くなんてこっちから願い下げだよ!」


「何なんだお前は!


 情緒不安定か!」


言い争いながらも、ゾルカとアレッサは


連れ立って歩き始めた。


その背中を、道の端で静かに見送る


少女の姿があった。


赤いワンピースを身にまとった少女は手を振るでもなく、


佇んでいた。


表情は、髪に隠れてよく見えない。


だが、薄桃色の唇には穏やかな笑みが浮かんでいた。


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