スバールの悲劇
レイファスから聞いた情報を頼りに、
ゾルカはフォズリルの故郷であるスバール村を目指していた。
オルタ川沿いの林を少し奥に入った所にあるという。
「もうすぐだぞ、フォズリル。
やっと連れて来られたな」
歩きながら、ゾルカは後ろを振り返る。
そこには今や見慣れた、音もなくついて来る少女の姿。
不運な事故でヴィルレーまで流されてしまった彼女を、
ようやく帰してやることができる。
そう思いながら歩を進めていたが、近づいてゆくにつれ
道端に泥がたまっていたり植物が薙ぎ倒されていたりといった
異変が目に付き始めた。
それが、どんどんひどくなる。
道の大半が木や大きな石で塞がれている箇所もあった。
「…な…何これ…ドラゴンでも現れました…?」
尋常ではない荒れように、体勢を低くしてびくびくしながら
進んで行くと、やがて少し開けた場所に出た。
そこに村と呼べるようなものはなかったが、
ところどころに堆積する泥に半壊した民家や汚れた日用品が
混じっているのが見える。
あまりにも無残な光景に立ち尽くすゾルカは、
その中にスバールと書かれた看板があるのを目にした。
ここは、間違いなくスバール村だったのである。
しかし、見渡してみても動くものの姿はどこにもなかった。
それらの点を総合して、ゾルカはある結論に達した。
「…ま…ま…まさか…スバール村は…
滅びちゃったのかーーーーー!!?」
その叫びが辺り一帯に響き渡ってから、
ゾルカはしばらくぼんやりとして、
湿った風が肌にまとわりつくように吹いた時に
我に返ってフォズリルを見た。
彼女は、自身の命ばかりか故郷、そして家族までも
失ってしまったというのか。
そうだとすれば、あまりにむごい話ではないか。
「何でだ!
何でだよ!
こんなのあんまりだッ!!」
フォズリルの気持ちを代弁するように…といっても
彼女は何の反応も示していなかったが、
とにかくゾルカは天に向かって雄叫びのような声をあげた。
それは虚しく轟いただけだったが、
前方でゆらりと動くものがあった気がした。
青い空から泥の山に目を戻すと、
煙のようにわいて出た気体に似たものがやがて人の形となり、
男性の姿となって近づいて来た。
ぞくりとして、ゾルカは一歩後ろに下がる。
両手を、高速で窓を拭くようにぶんぶん振った。
「まずい!
もしかして村人の幽霊!?
俺じゃない!
この村を滅ぼしたのは俺じゃないから!
ヴィルレーに着いたらここのことはちゃんと報告しておくから!」
彼の言葉が終わる前に、すっ、とフォズリルが横を通り過ぎ、
男性と向かい合って立った。
守ってくれるつもりなのか。
ゾルカは、そう思った。
彼女が危ないかもしれないと感じ前に出ようとしたが、
すぐに足を止めた。
男性が、フォズリルを優しく腕で包んだからだ。
ゾルカは呆気に取られたが、その光景はどう見ても
父と娘の再会の様子であった。
「…もしかして…フォズリルのお父さん…」
と、つぶやいている間にもう一つ気体が現れ、女性の姿となり
同じくフォズリルを抱きしめるようにした。
「…と、お母さん…」
どうやら、それに間違いなさそうだった。
一家三人が落命しての再会。
喜ばしいのか悲しいのか複雑なところではあるが、
とにかくフォズリルは両親の元へと戻れた。
笑顔では不謹慎な気がするし、沈痛な面持ちというのも何か違う…
とあれこれ考えて結局くしゃみを我慢しているような
妙な顔になっているゾルカは、しばらく一家を見守っていた。




