旅立つ二人
ロトの元での最後の日。
ロトは、かつてないほど眼光鋭く
目前の光景を見ていた。
ここでともに修行に励んだ二人が、
激しく切り結ぶ姿である。
この勝負を、彼らが望んだ。
すでに、二時間近くにも渡っている。
レイファスには、殺気があった。
腕は、彼の方が上。
その攻撃を、しぶとさと速さとで上回るゾルカが何とかしのいでいた。
長引く勝負でレイファスは体力が尽きかけ、
ゾルカは傷が増えていった。
そろそろ、決着の時である。
どちらも、そう感じていた。
両者の瞳が煌めき、間合いが詰まる。
その中で、彼らは見た。
ゾルカの剣の刀身が、青い光をまとう様を。
『!?』
二人は、目を見開いた。
そして互いの刃が交わる瞬間、割って入ったロトの剣が
二人の剣と交差し、三つの刃が重なる形で勝負を止めた。
ゾルカとレイファスは、視線をぶつけ合ったままである。
「そこまでじゃ」
ロトが静かに言うと、ゾルカが先に剣を引いた。
数秒置いて、レイファスも剣を納めた。
「双方、見事である」
二人が一礼したところで、ロトは言った。
その一言に、いくつもの意味が込められていた。
今の勝負。
二人の力量。
これまで、命を落とさずにいたこと。
ゾルカとレイファスは、ここへ来た当初とは
比較にならぬほど成長した。
己の剣がどのようなものか知り、実戦経験も十分に積んだ。
一人前の剣士と言ってよい。
この後、いかなる道を歩むかは本人次第。
今日が、彼らの新たな旅立ちの日だ。
「…レイファス!」
ゾルカは、声をかけた。
わかっている。
その相手が、自分を本気で斬ろうとしていたことは。
だが、笑った。
「また、やろうな」
レイファスは、表情を変えない。
それでも、答えた。
「…少しはましな剣を遣うようになった。
とはいえ、お前を仕留め損ねたのは私の未熟。
次があるかは知らぬが、ひとまずその命預けておく」
そう言うと、彼はロトの前に行き深く頭を下げた。
「ありがとうございました。
必ず、魔王を倒しエルトフィアを平和へと導きます」
「うむ。
お前は、大きく成長した。
ただ、これはわしの力不足でもあるが、
お前の心の影を払ってやることができなかった。
この先歩む道で、自らの力で振り払うのだ。
お前にはそれができる。
よいな」
「…失礼致します」
再度一礼し、レイファスはまとめて置いてあった荷物を
拾い上げ去って行った。
ゾルカは、見えなくなるまでその背を眺めていた。
最後は、対立した形になってしまった。
だが、友とはゆかずとも彼とは
ライバルとして高め合うことができる。
ゾルカは、まだそう信じていた。
「俺とレイファス、どっちも守ろうとしてくれたのか?」
レイファスの姿が見えなくなると、
ゾルカはフォズリルに問いかけた。
勝負の中で彼の剣に宿った青い光。
それは、どちらにもこれ以上傷ついて欲しくないという
フォズリルの意志ではなかったかと、ゾルカは思った。
彼女は、何も答えない。
だが、ゾルカは小さく礼を述べた。
そして、ロトを振り返った。
「それじゃあ、そろそろ俺も行くよ。
フォズリルを送っていかなきゃいけないからさ」
にっ、と笑う彼に、ロトも笑みを浮かべて深々とうなずいた。
ゾルカは、自分に軸となるものがなく、
確固たる自信を持つことができない少年だった。
しかし、自ら己を高めることを決めここまで来て、
鍛錬を期日までやり遂げた。
三ヶ月という短い期間ではあったが常に命がけで、
過ぎた時間以上の成果があった日々だったはずである。
まだ、剣豪とまではいくまい。
だが、その顔には自分の力で柱を打ち立て生まれた自信に満ちている。
「実はな」
小屋の脇にある荷物を取って来たゾルカに、ロトが言った。
「あちこちで偉そうなことを言っているようだが、
ナイトも今のお前とそう変わらんかったんじゃ」
「え?」
「英雄を目指したが、その功績はほとんど知られておらん。
会ったならお前もわかるだろうがあの気性だ、
誰もが認める英雄となってヤツの名が世に出るということはなかった。
今の妙な肩書きを別にすればな。
だが、間違いなく彼に救われた人々はいた。
ヤツは、お前に自分を重ねたのかもしれんな」
「…」
だから、あれこれ言いながらも力になってくれたのだろうか。
世に知られぬ英雄。
自分のしてきたことは全くと言っていいほど
世間の人々は知りもしないのに、
なぜか堂々とテレビや誌上で己の意見を述べている。
何だか間の抜けた話だが、ゾルカは「すごい人だな」と思って
思わず笑みを漏らした。
「そして、ヤツのパーティーの一員がわしだったというわけじゃ。
他の者は鬼籍に入ったが…
何にせよ、世間に広く認められはしなかったが、
ナイトは己の生き方を後悔していないということだな。
大切なのは自分で道を選び進むことだ。
有名無名より、人の一生の価値というものはそこで決まる。
お前は自分で決め、行動した。
そして最後までやり通したのだ。
もう、名ばかりではない。
お前の力で、補欠勇者を本物にするのじゃ」
「おう!」
「これは、人生の全てに通じる。
デスゾルカ・レビよ、岐路に立った時には
自分の頭で考え、自分の足で立ち、自分の手で切り拓け。
そこに信じる者たちの力が加われば、魔王を討つことも
可能になるはずだ。
無論、誰にでもできるわけではない。
だが、己の意志で勇者となったのならば、正規も補欠もない。
お前がやるのだ」
「任せてくれ!
ありがとう、ロトさん。
必ず、また会いに来るよ…
本物になって!」
まぶしい笑顔を見せ、ゾルカも荷を背負い出発した。
力でも技でもないところに、彼の本当の強みはある。
ロトはそう感じていた。
レイファスも、心身ともに優れた若者である。
必ず、己が抱える闇を乗り越えることだろう。
彼らは、新しい力だ。
世界に生まれ出て来た、新たなる時代の使者。
その使者は二人だけではなくきっとエルトフィアの至る所にいて、
ひとつひとつ異なるそれぞれの道を歩み続け、そしていつか
いくつもの活力と志が世を新たなる時代へと押し進める。
彼らがこの世界の未来を拓いてくれることを、
ロトは願う。




