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補欠勇者  作者: 吉良 善
4 強くなりたい
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生還

「いてて!いてえ!」


話がひと段落すると、ゾルカは思い出したように


体中に痛みを感じ出した。


皮膚の下のあちこちに針金を通されたかのようだ。


魔鰐の攻撃を受けた時、ハンマーで防ぎ直撃は免れたものの


あまりの強烈さに身体にはしっかりダメージが刻まれていたのだった。


「お前のケガはどうだ?」


寝転んで身体をよじりながら、ゾルカはレイファスにきいた。


彼も、魔鰐の不意打ちを受けて左腕に傷を負っている。


「浅くはないが、治癒魔法を施しておけば


 武器が使える程度には回復するだろう。


 仕方ないからお前の治療もしてやろう、


 ただし私はその分野は得意とは言いがたい。


 あくまで応急処置だ」


「おう、頼む。


 …そういえば、結局水を汲むどころじゃなかったよな。


 もう一度行かなきゃいけないのか」


途中からは水のことなどすっかり頭から飛んでいて、


逃げることしか考えられなかった。


囮役のゾルカは最初から逃げ回っていたのだがそれはともかく、


また水を採りに行くことにゾルカはうんざりした顔をしていたが、


「その必要はない。


 私をなめるな」


そう言ってレイファスは容器を前に置いた。


ゾルカが中を覗き込んでみると、八分目辺りまで


水が入っていた。


これだけあれば、手持ちと合わせて残る四日を乗りきることはできる。


ゾルカは、痛みも忘れて両手を突き上げた。


「おおお!


 でかした!


 これでもうあの巨大ワニの顔を拝まなくて済むぞ!」


そろそろ、日も暮れる。


疲労が大きく負傷もしていたので、食事の後


二人は早々に眠りに落ちた。





早い時間に眠りについたので、夜中にゾルカは目を覚ました。


レイファスは寝ているようで、背を向けている。


にも関わらず視線を感じ、反対側に顔を向けると


すぐそばにフォズリルが座っていた。


いつもより近い。


こちらを見下ろしているが、相変わらず髪がかかって顔は見えない。


初めてこの状況に直面したなら


誰もが絶叫することは間違いないが、幸か不幸か


ゾルカは慣れている。


「何だ、もしかして心配してくれてるのか?


 俺は大丈夫だぞ、フォズリル…」


言葉の後半はあくびをしながらになった。


まだ痛みは残っているが、治療を受けたこともあって


動けないほどではなかった。


「ごめんな、フォズリル。


 故郷に送ってあげる約束なのに俺の方に付き合わせちゃってさあ…」


彼女が答えることはない。


しかし、ゾルカはフォズリルが自分の言うことを


聞いていることがはっきりとわかるようになっていた。


「でも、見当がつかないってのも確かなんだよな。


 ヒントない?ヒント。


 オルタ川沿いっていう以外に。


 女の子が川に流されたとなると結構話題になったりしたのかな…」


「その話、心当たりがある」


「うわっ!


 起きてたのかお前」


急にレイファスが声をかけてきたので、ゾルカは驚いて


振り返った。


見ると、彼は横になったままだが身体をこちらに向けている。


「お前の独り言で起きたんだ。


 …いや、独り言ではないのだったか…


 とにかく、ロト殿の所に来る前にマジックテレビ社の取材を受けて、


 その時にスタッフから聞いた話だ。


 オルタ川沿岸近くのスバールという村の女児が流された


 水難事故があり、まだ遺体が見つかっていないと」


「また取材受けたの!?


 何でお前ばっかり…」


「気にすべきはそこではないだろう。


 お前の言うフォズリルというのがオルタ川で流された少女だとすれば、


 スバール村の住人だったかもしれないということだ」


「そ、そうでした。


 修行が終わったら寄ってみるよ、ありがとな。


 ほらフォズリル、お礼を言いなさい。


 俺も君の声聞いたことないけど」


「…いや、いい」


「あ、そっち行った」


「やめさせろ!


 …私は寝る」


再び背を向けるレイファス。


そんな彼を、フォズリルはそばで見下ろす。


ゾルカは、にやにやと笑ってしばらく眺めていた。





ゾルカとレイファスが獣の原へと出発した、七日後の夕刻。


「戻ったか」


小屋を出てしばらく、ロトは夕暮れの中


遠くに見え始めた二つの人影に目を細めた。


どうやら、彼らは無事にあの魔境で生き抜いたようである。


たった一週間ではあるが、人間のルールなど通用しない、


常に生きるための争いに身を置かねばならぬ環境で過ごし、


行く前とは比較にならぬほどたくましくなっているはずだ。


しかし、本当の修行はここからである。


ロトにとって、若者が成長してゆく様を目にするのは楽しみなこと。


彼らは、いかなる変化を見せてくれるだろうか。


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