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補欠勇者  作者: 吉良 善
4 強くなりたい
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俺たちは弱かった

命からがら逃げ帰って来たゾルカとレイファスは、


息を切らしたまま地面に座り込んだ。


そんな二人の脇で、いつもどおりフォズリルは静かに佇んでいる。


「本当にここは、思った以上の魔境だな!


 オアシスにもあんなとんでもない奴が隠れていたとは!」


寝転びながら文句を言うゾルカ。


場所が場所だけにある程度巨大な魔物がいることは覚悟していたが、


先程の魔鰐は桁が違った。


遠目に見たゾルカは、一瞬ドラゴンが現れたのかと思ったくらいである。


ああいう敵は、魔王の本拠地に乗り込んだ辺りで


初めて遭遇するぐらいでないと困る。


ロト・ロウの所に来て、修行らしい修行も全くしない内に


こんな危険地帯の真っ只中にいる自分に対抗できるわけないではないか…


言葉にはしなかったが、そんな想いにかられていた。


彼に目を向け、レイファスはしばしの沈黙の後に口を開いた。


「…なぜあんな状況で飛び込んで来た」


「はあ?」


「いかに二人で戻ることがこの訓練の成功の条件とはいえ、


 お前も死ぬところだった」


「な~に言ってんだ、お前は」


左半身を起こして頬に右手を突きレイファスの方を向くと、


ゾルカは答えた。


「兄貴分として当然のことだろう!」


「…」


「それに…


 お前が死んじまったら、俺がお前を倒せないだろ。


 いつか必ず、俺が勝ってみせるからな」


起き上がって座り、ゾルカは拳を握る。


レイファスはそうか、と思った。


彼はこういう男かと。


落ち着きはないし腕も遥かに下。


しかし、自分は彼をあなどっていた。


そう認めるべきだろう。


到底、好きにはなれない相手だが。


レイファスは、小さく笑った。


「…まさか、お前に助けられるとはな」


「俺だってお前の魔法がなきゃ逃げきれなかったよ。


 いいじゃないか、助けたとか助けられたとか。


 そんなことより重大な問題があるだろ」


つられて笑っていたゾルカだが、急に真顔になって横を向いた。


「俺たち…弱いぞ」


「…」





「俺に比べりゃお前は強いけど。


 でも…結局、さっきの死の水汲みでは一匹も倒せなかったんだぜ。


 俺たち」


レイファスは、黙っていた。


そのとおりだった。


群れを相手に水を汲まなければならなかったとか、


不得手な武器しか使えないとか、理由を挙げようとすればある。


しかし、先程の彼らは逃げるしかなかったし、


間違いなく死にかけた。


命を落としてから、なぜそうなったかの訳を数えても


何の意味もない。


そうならないようにどうするか。


考えるとすればそれしかない。


「確かに、そうだ。


 だが、…生き延びた。


 ロト殿が言ったように」


「…」


瞳を閉じ、レイファスは言った。


ゾルカは、ゆっくりと目を向ける。


「あの時、


 …進退きわまった私は、あくまで冷静に対処し脱しようとした。


 それも必要なことだろう。


 しかし同時に、あの死地に飛び込んで来るお前を見て、


 その必死さも持ち合わせなければならないのかもしれないと感じた。


 並大抵ではないものだ。


 端から見れば無様とも思えるほどの。


 ロト殿が培えとおっしゃったのは、まさにそれなのだろうと」


「必死さ?」


「いかなる状況にあろうとも生き抜こうとする力、と言ってもいい。


 その心を最大限にまで高めた境地には、


 死の危機に直面し、死を意識してこそ到達できる…


 そういう意味での、この訓練なのだろう。


 これに限って言えば、お前が一歩先を行っている。


 全てにおいて私はお前に勝っていると思っていたが、


 そうとは言いきれなかったようだ」


レイファスの口からそんな言葉が出るとは、雪が降るか槍が降るか。


いつものゾルカならば、


「そうだろうそうだろう、やっとわかったか弟よ!


 これからはちゃんとこの兄を敬いたまえよ、ウワッハッハッハ」


とでも言ってバカ笑いをしそうなところであるが、


こちらも珍しいことにそのバカ笑いは聞こえてこなかった。


レイファスの言ったことに、ゾルカは思い当たることがあったのだ。


『無様なまでの必死さ』において


ゾルカがレイファスをリードしているとすれば、


過去の経験によってであろう。


幼い頃、クリング・ルーに殺されかけた時。


のちに対してみて、彼が恐るべき男であることがわかった。


そんな男に、偶然が重なったとはいえ十二のゾルカが傷をつけた。


今考えれば、その偶然を引き起こしたのもレイファスの言う


『生き抜こうとする心』だったのかもしれない。


結果だけを見れば、幼きゾルカとクリング・ルーは


傷をつけ合い引き分けた。


これこそが、ロトの言葉にもつながるのだろう。


「認めよう。


 私たちは弱い」


しかし力強く、レイファスは言った。


「そして、そのままではいられない。


 私たちには目的があり、強くならなければ果たせないからだ。


 だが、それ以前に…


 私は、己が弱いことに我慢ならない」


「強くなるさ。


 お前より、魔王よりもな!」


にっ、と笑うゾルカ。


自分の弱さを知ることで、自分は強くなれると確信する。


死の危険の後、未だ魔境にありながらも、


彼の心はさらなる熱を帯び始めていた。


 

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