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補欠勇者  作者: 吉良 善
4 強くなりたい
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これまでに何度か偵察したところ、


水場は夜の方が賑わっていた。


日が落ちる前に行動を起こした二人は、


岩の陰から泉の様子をうかがう。


「…八頭か。好機だな」


レイファスが小声で言った。


現在、泉の周辺には大型の肉食獣のような魔物が八頭いる。


決して少なくはないが、あの場所に限って言えば


十頭以上集まっていることも多いので、レイファスの発言になる。


「私が魔法を撃って撹乱する。


 その後、飛び出せ…いけるか?」


「いつでもオッケー!」


答えて親指を立てて見せるゾルカだったが、


その手が小刻みに震えているのは気のせいではない。


見なかったことにして、レイファスは魔法の準備に入る。


「始めよう」


そう言うと、レイファスは詠唱を終え


魔物どもの中央に向け火球を放った。


すぐさま反応した魔物どもは飛来した炎の弾道から


発射点を察知しこちらを見るが、用心深く動きはしない。


その時にはゾルカも飛び出していて、注意を引きつけるため


大声でわめきながら走った。


本人は意識していなかったが、その姿は父の不格好な走り方に似ていた。


ただ速度だけは段違いに速い。


人間という、この獣の原では珍しい獲物を目にし、彼の方に六頭が向かう。


「上出来だ」


つぶやき、レイファスは岩陰を出た。


棒は背負ったままである。


手には水を入れるための容器を持っていた。


泉は五十メートルほどの幅があり、そのどこかで水を汲めさえすれば


無理に魔物を倒す必要はないのだ。


ゾルカを追わずに残っているのは二頭だが、


いずれも大柄で短時間で倒せるとは限らない。


ぐずぐずしていてはせっかく散ったものが


再び集まって来るかもしれなかった。


レイファスは残る二頭の見ていない方向へと走り、水辺へと近づく。


ほどなく二頭は彼に気づき動き始めたが、距離を考えれば


十分に水を汲む余裕があった。


青い空を映す澄んだ水面に、レイファスは手を伸ばす。


端から端まで殺伐とした魔境にあって清らかな水を湛えた泉に、


さながら聖域の如き神聖さを感じた。


「!」


手を伸ばしたとほぼ同時に、彼は目を見開いた。


水の中に、聖域には似つかわしくない怪しい光が二つ、


濃紺の夜空の朧月のように輝いていた。


二つの光がぎらりと煌めいた瞬間、激しい水しぶきとともに


泉から何者かが飛び出して来た。


反射的に後ろへ飛びすさったレイファスであったが、


大きな衝撃で吹っ飛ばされた。





「うおおおおおぉぉぉー!!」


一方、絶叫しながら全力疾走するゾルカ。


巨大な肉食獣という姿の魔物たちは素早く、


少しでも速度を緩めれば瞬く間に追いつかれてしまう。


まして、相手は六頭。


急な方向転換をしたりしながら、とにかく逃げ回った。


己の限界を超えた速さで走っているのではないかと思った。


いざとなれば人間、できるものだ。


この場所でなければ実感できなかったかもしれない。


ロトの狙いどおりに学べているに違いないが、


命がかかっている状況なのも間違いない。


感謝も感動もしている余裕はなかった。


「そろそろ水汲んだか!?


 もういいだろ!


 もういいよな!?」


駆けずり回りながら、視界の隅でちらりと泉の方を見る。


すると、そこには驚きの光景があった。


水の柱が立ち昇ったかの如く高く水しぶきが上がり、


レイファスが転がるように後方へ飛ばされていた。


「な、何だァァァ!?」


収まりつつある水しぶきが日の光を受けきらきらと輝く中、


泉から体長十五メートルはあろうかという巨大な鰐が


上半身を覗かせていた。


明らかに魔的な力を持っている。


その恐ろしい姿と大きさに一瞬おののきはしたが、


ゾルカは泉の方へと走った。


レイファスが腕を負傷しているのが見えたからである。





泉にあのような化物が潜んでいようとは予想外だった。


しかし、レイファスはすぐさま反応した。


それでも左腕に傷を負ったのは、現れた魔鰐の力と勢いが


すさまじいものであったためだ。


片手で棒を扱い、大きな敵と戦うのは難しい。


正面には魔鰐がおり、背後からは二頭の魔物が迫る。


とにかくこの場を脱せねばと考えていると、


「レイファス!」


怒鳴りながら、ゾルカが走って来るのが見えた。


まさか、と思った。


この死地に、友でも仲間でもない自分を助けに来たのか。


「来るな、馬鹿め!」


「うるせえ!


 後ろから来る奴らに魔法を撃て!」


「…!」


口論している暇はない。


レイファスは何とか魔法を完成させ、放った。


炎が飛んで地に着弾すると、接近する魔物どもの前に壁のように広がる。


倒すというより、目くらましや牽制の効果を狙ったものだった。


彼と魔鰐の間に飛び込んだゾルカは、


大きく口を開け襲いかかる魔鰐の攻撃をハンマーを盾にして受けた。


「うおおおわっっ!?」


攻撃自体はハンマーに当たったものの、激しい衝撃で飛ばされた。


魔鰐は執拗に追撃を加えようとさらに身を乗り出して来る。


ゾルカは飛ばされながらもレイファスの姿が目に入ると


とっさに腕を伸ばして彼の服をつかみ、二人して後ろへ転がった。


レイファスが放った炎の壁の手前で止まると、すぐにゾルカは立ち上がる。


「走れるか、レイファス!?」


「ああ」


「よし、いくぞォォォ!」


迫る魔鰐のみならず、ゾルカが引きつけていた六頭も


こちらに向かって来ていた。


ゾルカとレイファスは何とかその場を脱し、


岩や木の陰を利用しつつ魔物どもをまいて自分たちの拠点へと戻った。



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