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補欠勇者  作者: 吉良 善
4 強くなりたい
67/230

いつかはライバル

―――――「うおぉぉぉっ、くらえ!


 わずか三日目にしてハンマーの道を究めんとする


 俺の必殺の一撃!」


豪快にハンマーを空振るゾルカをちらりと見ることもなく、


レイファスが魔物を倒した。


「おい横取りするなよ!


 当たりさえすれば倒せたのに」


「支離滅裂なことを言うな。


 究めんとしているのならきっちり当てろ」


獣の原三日目。


ゾルカがハンマーを振り回している間にレイファスが


敵を仕留める日々が続いた。


そのため、ゾルカは一度も魔物を倒していない。


ただ一方で、レイファスは感じていた。


ロトが用意したハンマーはかなりの重量がある物だが、


ゾルカの振りは鋭い。


しかも、その鋭さは目に見えて増していった。


空振りばかりなのは、それが原因だろう。


ゾルカ自身が鋭さの向上についていけていないようだった。


技術にさほど変化はないが、確かに当たりさえすれば


倒せる攻撃になってはいる。


全く命中しないにも関わらず彼がハンマーを扱うことに


いくらかの自信をつけてきたのは、おそらくそういう手応えがあるからだ。


「…(単純に腕力が高まっただけではないようだ…)」


「何だよレイファス。ぼんやりしちゃって」


「せっかく慣れてきたことだし、


 これからもハンマーを使っていってはどうだ」


「嫌だよ!


 慣れてはきたけど戦いにくくて仕方ないんだよこれ!」


そうか、と答えてレイファスはたった今討ち取った魔物が出現する前に


自身が屠った獣の肉を手際良く切り取った。


三日目ともなると手慣れたものである。


魔物の数は多いし手強いものも存在する。


二人ともいくつかの傷を負いながらも


何とか生き延びていた。


この調子なら、食物の不安はなさそうだったが、


まだ水場には近づけていない。


大型の魔物が常に十頭前後、獣の原唯一の泉の周辺を


うろついているからだ。


獲物は奪い合う連中であるが、水だけは魔物同士で守っているのか


そこでだけは争いはない。


節約しつつ使っているが手持ちの水に余裕はなかった。


そろそろ、挑むことを考えなければならない時だ。





「泉へ行く」


ねぐらに戻って、レイファスは言った。


それがどういうことか理解したゾルカは、ごくりと息を呑んだ。


「あの数の敵…切り抜けられるかな」


「できなければ、生きてここを出ることはない。


 水分が不足した状態で狩りや移動ができるほど


 ここ獣の原は甘くはないからな。


 一度でも補給ができれば乗り切れる、


 どんな形でも水を汲むことができればいい」


「…」


水が尽きてからでは遅い。


確かに、実行するなら今の内だ。


問題は、魔物の数。


いかにレイファスの腕が立っても、多勢に無勢。


当のレイファスが思案していると、思わぬ言葉が耳に入った。


「俺が囮になる」


目を向けた先で、ゾルカは視線を地に落としていた。


その表情には、決意が浮かぶ。


囮という方法は、レイファスも考えていた。


ただし、自分がやろうとしていた。


囮役をやるとなれば極めて大きな危険を伴う。


承知してのことではあろうが、


ゾルカは決意の表情で顔を上げた。


「今のところは、お前の方が腕は上だからな…


 今のところは!今のところはね!」


「…わかっている」


答えながらも、レイファスは意外に思っていた。


ゾルカは自分のことが気にくわないはずである。


それを、己より上だと口にした。


彼の性格を考えると、その殊勝な発言は


奇蹟的と言ってもいいかもしれない。


「だが、危険だぞ」


「この魔境で安全に水を手に入れられる手段なんかないだろ。


 もともと雨が少ないって話だし、


 その上俺は世界屈指の晴れ男だしな。


 腕はお前が上だが、逃げ足は俺の方が断然上だ!


 俺が出て行っても動かない奴がいたらお前が倒して、水を汲む。


 正面から突っ込むより成功率は高いだろ」


「…ああ」


「俺たちは、」


ゾルカは、レイファスに向き直ってその目をまっすぐに見た。


「お友達じゃあない、だけど。


 俺、初めてなんだ。


 こいつには負けられない!って


 心の底から思ったヤツに出会ったのは。


 ただイヤミな野郎だからじゃない、俺より強くて、


 俺と同じ目標を持ってるからだ。


 お前にとっては今の俺なんて眼中にないかもしれない、


 だが、ここでお前とともに戦えるのは俺しかいない。


 絶対クリアしようぜ、この試練…


 俺とお前でさ。


 そして、ロトさんの所から出発する時、


 俺もお前が負けたくないと思える男になる。


 そのために、ここで身体を張って勝負するよ」


「…」


レイファスにとっても、初めてである。


ここまで張り合おうとする相手に出会ったのは。


実力的には、格段の差がある。


だが、不思議なことに。


常に沈着冷静なレイファスの胸に、


わき上がる何か熱いものがあった。


無意識の内に、笑みがこぼれた。


決して友好的なものではない。


しかし、これまでゾルカに向けていた蔑みの色を孕んだ


冷淡なものでもない。


待っていたとでもいうのだろうか。


超えられぬ壁としてそびえ立つ兄でも、


己の背後にあるその兄の名や影におもねる者でもない、


彼のような存在を。


己の心に、火をつける相手が現れる時を。


「…いいだろう」


口元に浮かんだ微笑を隠し、


レイファスはうなずく。


「私が負けたくないと思う男になるとは自惚れが過ぎるが、


 夢想にまで口を出すのは無粋というもの。


 私に比べればお前は周回遅れ、身体を張りでもせねば


 その差は埋めようもないからな」


「何ッ」


「見せてみろ。お前の底力」


その言葉に、ゾルカもふん、と笑った。


「おお、見せてやるさ!


 言っとくが俺の底力は二重底、三重底になっていて


 ものすごいからな!腰抜かすなよ」


「はかない望みではあるが、期待させてもらおう。


 ゆくぞ」


「おうともよ!


 待ってろ、フォズリル…あ、やっぱりついて来るの」


「…お前、本当に取り憑かれているのか?」


どうでもいいと思っていたが、だんだんと気になってきたレイファス。


ゾルカの言うことが真実なら、自分もずっと


幽霊とともにいるということになる。


あまり気分のいい話ではなかった。


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