イミラト文書
キラリトに指定された日に訓練場の事務所に行くと、
本人はいなかったが応対役の兵士がいて、
最終的な合格者となったことを告げられた。
他にあの古代文字の文を解読できた者も、
解読できる人物を見つけた者もいなかったらしい。
「団長殿からお預かりしました。
とりあえずの報酬だそうです」
「おおーっ、これはすごい!」
差し出された一枚のカードを
受け取ったゾルカは、歓声を上げた。
他の三人は反応しないが、渡されたカードは
エルトフィア大陸において大人気のカードゲーム
『エルトフィア・ナイツ』の物である。
ゾルカもプレイヤーの一人だった。
実在の人物のカードを用いるのだが、
強力な物や人気の高い人物の物は高額で売買され、
そういったカードを持つ者は羨望の的となる。
今、ゾルカが手にしたのは
『白騎士』キラリト・サープリスのカード。
非常に強力かつキラリト自身のファンも多く、
数十万の値が付くこともある『お宝』だった。
「何それ、そんなに喜ぶもの?」
全く興味のないフィラミラがきくと、
ゾルカは興奮気味に答えた。
「そりゃそうだろ!
『四騎士』のカードはどれも最強レベルで数も少ない!
それにすごい値が付くんだぞ」
「ふ~ん、じゃあ売っちゃおうよ」
「売る!?
絶対嫌だ!俺はこれで勝ちまくるんだ!」
「でもさー、それもらえるのわたしじゃないの?」
「…」
ゾルカは、現実逃避するようにムーランの言葉を思い出していた。
正しさは時に人を傷つける。
無礼千万な主従の言い草には反発したが、
今更ながらその言葉にだけは素直に同意した。
フィラミラのおかげでもらえたのは確かだが、
貴重なるこのカード。
「…頼む!くれ!俺に!これを!」
「仕方ないなー、いいよ」
「…もてあそぶなよ俺を。
それで兵士さん、俺たちが引き受ける任務とは…」
「これにまとめてありますので御覧ください。
質問がある場合などは、ここに来ていただければお答え致します」
その後いくつかの注意事項について聞き、
一行は宿へと戻る。
テーブルを囲んで、任務について書いてあるという
冊子に目を通した。
「この任務の達成条件は、真イミラト文書の発見である…」
「…ゾルカ君、まずイミラト文書についてご存知ですかな?」
冊子に書かれた内容を読み上げ始めて一旦止まったゾルカに、
ムトーは小学生にでも問いかけるように言った。
「し、知ってるよ!
もしかしてムトーは俺のことを
とんでもない劣等生だと思っているのかな?
五段階中、五だったからね、もちろん一番上だよ五が。
…体育だけだけど…」
「そうですか、それは失礼しました」
「…いえ、こちらこそ…」
「お前、家では教科書を開きもしなかったタイプだな」
ジュナイルが笑いながら言うと、ゾルカは不思議そうな顔をした。
「教科書って学校で使うもんだろ」
「…ああ、そうだな」
「…ええと、それで…
確か、その本って…何か昔のことが書いてあるっていう…」
知識が底を尽いたゾルカは、この話題に詳しそうな
フィラミラにちらちらと目を向ける。
彼女は全く視線を向けずお茶を飲んでいたが、言葉を継いでくれた。
「五大国の中で最初に築かれたジェストールの学者さんが
建国直後の時期に書いた、当時の記録だよ。
その時代の人々がどう文明を発展させてきたのか、
どう国を築いていったのかが記されていて、
すっごく貴重な史料なんだ」
「それ以外に、もう一つ文書が記されたという内容があるんだったか」
椅子の背に深く身体を預けた姿勢で、ジュナイルが言った。
「うん、同じ時期に書かれた別の本の存在を示唆する箇所があるね。
それを便宜的に真イミラト文書と呼んだ。
ファンフランは多くの研究者とともに調査したんだけど、
結局見つけられなかった。
今では存在そのものが疑われていて、もともとなかったか、
実在したが失われたっていう考え方が大半みたい」
「…しかし、」
ゾルカが、テーブルに置かれた冊子のある部分を指差す。
「ファンフランでは同時期の文献や石版、壁画に至るまで
あらゆる史料を研究し直し、その結果イミラト文書の本文に
ある法則性があることをつきとめ、
いくつかの暗号とおぼしき文章を発見した!
…が、それを解読することができなかった…」
その文章が、次のページから書かれている。
もちろんゾルカには読むことができない。
ムトーもそれを覗き込み、
「先日の課題の文もその中の一つというわけですな。
イミラト文書は解読されているというのに、と
門外漢の私などは思ってしまいますが。
本文に比べてそれほど難解なのですかな」
「文字自体は本文と大体同じだけど、
ところどころ他の種類の文字を入れたり
文法をそっちの文字のものにしたり
しているみたいだね。
そう考えると意味が通るよ」
頬杖を突いたままのフィラミラが答えた。
その余裕たっぷりの様子にゾルカはぴくりと眉を動かす。
「…何でそんなにさらっとわかっちゃうわけ」
「ちっちゃい時からお父さんと、
生きてた頃はおじいちゃんとも一緒に
絵本感覚で読んでたからね。
大切なのは知識、触れてきた量、そして閃きだよ閃き。
その閃きの質がベストとベターの差を生むんだよ」
「だんだん鼻に付き始めたぞ!
ここに問題の文が載ってるけど読めんのか!」
「もう読めたもんねー!」
「何ーーーッッ!?」
仰天するゾルカ。
良いことのはずなのになぜか歯噛みする。
「くそ…」
「何で『くそ』なんだよゾルカ。
それでフィラミラ、内容は?
期待どおりか」
ジュナイルに問われて、フィラミラはこくんとうなずいた。
三人は、おおっ、と声を上げた。
「結論から言うと、真イミラト文書のありか」
「おおおーっ、ずばりじゃないかずばり!
やったぞ、ジュナイル、ムトー!
これで聖なる武器はいただきだ!
それで一体どこに!?」
テーブルに両手を突いて立ち上がり、ゾルカは拳を握った。
こんなにも早く解決しようとは。
彼自身はほとんど何もしていないのだが。
「教えてくれ、フィラちゃん!」
「ファンフラン国立考古学博物館かな」
「なるほど、あそこか!
よし、早速…え?博物館?」
「そう」
「もしかしてイミラト文書がある所?」
「そう」
「…ということは…
そこの館長が隠してやがったのかッ!
許せん!」
「違うよ。
もう一つ書き記された物というのが本や巻物のような形で
残っているって考えたのは後世の人たちなの。
実際にはイミラト文書の別の読み方のことだった」
「…ちょっとよくわからないんですが…」
「ひと言で言うと、真イミラト文書なんて本は存在しないの。
なぜなら全部イミラト文書に書かれているから」
「そっ…そういうことか!」
「ここに書いてあるのは前書きに当たる部分みたい、
本文の中にもう一つの書を記したって書いてあるよ。
織り交ぜられた一見意味のない文章に隠されていたんだね」
「やったな!
早速博物館に見に行こうぜ!」
「オレたちだけでは無理だろう」
はりきるゾルカに、ジュナイルは冷静に言った。
「あれはファンフランの国宝というだけでなく、
歴史的にも計り知れない価値を持つまさに至宝だ。
見るだけならともかく手に取って読むとなると」
「何を言っているんだ!
これは俺たちだけのためじゃない、聖なる武器のため…
いや全ての人類のため、世界の、歴史の大いなる謎のひとつを
解き明かそうとしているんだ!」
「無理とは言っていない。
オレたちだけでは無理だと言ったんだ」
「…ま、まあそうだな。
しかしフィラちゃんの話を聞くとジェストールにありそうな
お宝だけど何でファンフランにあるのかな」
「そりゃ単純な話だ。
筆者がファンフランに移住したからだよ」
「何で?」
「王の怒りを買って国を出ざるをえなかったらしいが…
早い話が亡命だな」
「何で?」
「…そこまでは知らん」
「な~んだ…」
「大分答えてやっただろ!
…その辺も、もしかするとフィラミラのお手柄で
解明するかもしれない」
「大切なのは…」
「閃きだな、わかった!みんな、行くぞォォォ!」
勢い良く部屋を飛び出していくゾルカ。
しかし他の皆は慌てず出発したため、
宿の外でしばらく待つことになった。




