文字の謎
「…でもほんと、あんな課題をクリアできるのって多分
フィラちゃん以外じゃ無理だったよなあ…
バーラインさんは二次審査の内容は知らなかったわけだし
ほぼ落ちると思っていたのでは…
心から感動していいんだろうか…」
疑惑の念を抱くゾルカの元に、仲間たちがやって来た。
「ははは、かわいくないオッサンだったなあ」
笑いながら、ジュナイルが言う。
バーラインの言葉は相変わらず厳しかったが、
助けられたのは確かだ。
「ああ…
それよりフィラちゃん!
どういうこと!?
あんなわけのわからない文、さらっと解読しちゃって!」
そうなのだ。
見たこともないような文字だか記号だかの羅列を
即理解した様子のフィラミラ。
キラリトが合格と言ったのだから、正解だったのだろう。
昨日この課題を出された者たちは、
おそらく先程ムトーが提案したように本で調べるなり
専門家にきくなりしているのかもしれないが、
未だ合格者は出ていないという。
「あれは古代の文字だよ。
五大国ができる前の」
飛び回る虫を目で追っていたフィラミラは、さらりと答えた。
「古代の文字?」
「うん。
でもたくさんの研究者が解読できるようになった
文字とは違うやつだね、
だからファンフランは読める人を探してたんだよ。
うちは代々古代文字を研究してたし、
わたしも興味があって小さい頃からお父さんと一緒に読んだり
勉強してたから読めるんだ。
キラリトさんが言ってた協力を断られた権威って
多分お父さんのことだよ、自分の研究に夢中だから」
「あ~、それでフィラちゃんがローラ家のお嬢さんと知って
読めるかもしれないと思ったわけか…
そういえば仲間になってくれる前、
君が図書館で読んでいた本の中に
先住民がどうのとかいう本があったっけ。
昔のことが書いてある本でしょ、あれ」
「ああ、そうだね。
五大国ができる前と後ではエルトフィアは
まるで別世界みたいなんだよ、おもしろいでしょ」
「あの紙には何が書いてあったのですか?」
ムトーが尋ねた。
「二つの文章があって、一つ目はよく知られている古代文字で、
『ファンフラン最高、いい所だから何回でも来てね。
キラリト・サープリス最高、キラって呼んでね。
この課題は難しかったですか、読めたあなたにおめでとう。
次の文も読めたら報告してね』って書いてあった」
「…白騎士殿はローラさんがそんなことを訳して書いた紙を
涼しい顔で読んでいたのですか」
もっとも、その文章をキラリトが作成したのかはわからない。
「もう一つが、まだ読める人がほとんどいない古代文字の文。
『黄金の空に琥珀の鳥、白銀の海に瑠璃の魚、
皮の猿は去り世はアネンジュの元に平らかに』…
さっき合否の判定をした人自身も読めなかったみたいだけど、
わたしが課題の紙にその文の解読の仕方を書いておいたから、
それが正しいことを知って合格にしたんだよ」
「今のところお前さんと親父さん以外に読める人物はいないのか?」
ジュナイルが尋ねると、フィラミラは首をひねった。
「どうかなあ。
あの古代文字は地域ごとなのか部族ごとなのかわからないけど
何種類かあって、史料が少ないのもあるから
ほぼ解読が終わったのは一番多く使われたものだけなんだよね。
課題のは五種類の文字を組み合わせて書いてあったから、
大抵の人は難しいんじゃないかなあ。
まあでも、知識があったとしてもそれだけじゃ読めないよ。
未知の文字の解読で大切なのは閃きだよ、閃き」
「なるほどな」
感心したようにうなずくジュナイルの横で、
ゾルカも同じような表情で腕を組んだ。
はっきり言って彼にはフィラミラの言うことはよくわからないのだが、
物知り顔で唸って見せた。
「これまでは垣間見る程度だったけど、今回こそは
やっぱりフィラちゃんは優秀な子だったんだなって思ったね」
「はっはっは、感謝なさい!」
「…でもキミ魔導士試験落ちてるからね」
優れた点と足りない点が極端なフィラミラ。
だが今回の件でわかったように、得意な分野では
頼りになる、こともある。
翌日、バーラインがマジックテレビの取材を受け
インタビューに答える様子が放送された。
昨日のやり取りを思い出し、ゾルカは皆を集めて
魔導テレビにかじりつく。
「合格したら誉めてくれって言っておいたからな!
注目してその時を待とう!」
「…素直に応えてくれるようなおっさんかね」
と、ジュナイルは半信半疑。
フィラミラに至ってはほとんど見ていなかった。
ブロックのような大きくて硬い本を読んでいる。
表紙には『合成魔法~合わせてグレート混ぜてミラクル~」
と書いてあった。
「静かにっ!」
唇に人差し指を当て、ゾルカが言う。
画面の中では、女性レポーターが質問をしていた。
よく見るノイエン・フロリアンではなかった。
『―――最近、バーラインさんの
お目に留まった方はいらっしゃいましたか?』
『そうだな…少し前になるが、
ファンフラン国内で魔物と戦っているところに遭遇したのだが、
アレッサ・アレンという若者は天稟ありと見た。
力任せに剣を扱わぬところが良い、
若年ながら斬り方を知っているな。
ただ己の剣才を恃みすぎる感がある、
良き師につけばいずれ名人の域に到達できる逸材であろう』
『辛口のバーラインさんがそこまでおっしゃるとは、
これは大いに期待できますね!
他には?』
『おらん』
その答えを聞いて、ゾルカはテレビを消した。
完全に映像が消えるかどうかというところで、
リモコンを放り出して悪態をつく。
「何だよ、誉めるどころか言及も無し!?」
「…さっきから思ってたんだが、お前何か誉められることした?」
「…えーと…人類史上稀に見るほどに粘った…とか…」
ジュナイルに指摘されて思い返してみたが、
頭に浮かんだのはそれくらいしかない。
あの時は二次審査を自分の力で突破するつもりでいたが、
蓋を開けてみればフィラミラが活躍しただけだった。
「…バーラインさんは特別任務を終えた時に
誉めてくださるおつもりなのですよ、多分」
ムトーの慰めに、ゾルカはこくりとうなずいた。
ゾルカが消してしまったために彼らは見ることはなかったが、
バーラインのインタビューはまだ続いていた。
『目に留まったわけではないが、図らずも視界に入ってしまった者はいた。
力量は低いし落ち込んだり腹を立てたりとせわしない。
だが、踏みつけても立ち上がる雑草を思わせる。
期待はしないが、何度踏まれても勝手に立ち上がるだろう。
それこそが、彼の天稟だ』




