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補欠勇者  作者: 吉良 善
4 強くなりたい
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二次審査

訓練場に響き渡るゾルカの声。


何てことを言うのだこのオッサンは―――――


それが正直な感想だった。


「ほお…」


「ほお…じゃないよジュナイル!


 笑うな、フィラちゃん!


 ちょっとバーラインさん、あんまりでしょ!


 俺をつぶしにかかってますよね!」


後押しかと思ったが、逆だったようだ。


ロクなことを言わないという気はしていたが、


ずいぶんとえげつないことを言うものだ。


彼が自分の二次審査通過を予想しているかといえば、


怪しいとゾルカは思う。


いかに有名無実とまで言われる称号とはいえ、


剥奪されるとなると抗議したくもなる。


しかし。


「お主はすでに不合格となった身なのだぞ。


 その程度のリスクは当然だろう」


「うぐっ…」


「私はかまいませんよ。


 どうしますか?」


笑顔で尋ねるキラリト。


楽しんでいるように見えなくもない。


当然、断ることはできる。


最終的には、おそらく一組に絞られるのだろう。


何によって合否が決まるのかはわからないが、


最後まで残れる可能性はどのくらいあるのか。


だが、悩むまでもなくゾルカの答えは決まっている。


「やってやりますよ!


 もし合格したらマスコミで絶賛してくださいよ


 バーラインさん!」


「フフ…さて、どうかな」


「してくれよ!


 かなりのリスクを背負うんだから!」


「それでは、」


ゾルカから周囲の人々に目を移し、キラリトは辺りを見回した。


「皆さん、お聞きになりましたね。


 いかがでしょうか」


問われた観衆は、声をそろえて同意する。


ゾルカを応援するためではない。


そもそも彼が二次審査に合格できると誰も思っていなかった。


面白がっているだけなのである。


テレビなどで見聞きしていた補欠勇者なる不可解なものが、


消えようとしている。


思惑はどうあれ、その反応は明らかにバーラインの提案に


賛同するものであった。


「どうやら、同意は得られましたね」


キラリトは、ゆっくりと二度うなずいた。


そして、舞い落ちてくる羽毛をすくい上げるような仕草で


ゾルカに右の掌を向けた。


「補欠勇者殿、ジェストール国王より賜った


 その名をもって合格とします。


 二次審査の課題をお渡しします、こちらへ」


キラリトの指示で書類選考が再開し、


ゾルカら一行は少し離れた事務所のような建物の中へ。


通された飾り気のない部屋には、三人の兵士の他に


軍の人間とは思えない、学者然とした男性がいた。


ゾルカらが入って来ると彼は小さく声を上げ、


それは喜びを表すものであったように思えた。


「これです」


「よーし、任せてくださいよ!


 こうなったらどんなお題が来ようとも…」


そこでキラリトが差し出した紙を受け取ったゾルカは、


内容をひと目見て固まった。


見たこともない文字のようなものが並んでいたのである。





「…キラリトさん、印刷ミスです」


「ミスではありません。


 それが課題です」


「えええ!これ何語?どうするんですか?


 解読できたとしてどうすればいいんですか?」


「こちらからお話しすることはありません。


 その紙が全てです。


 ちなみに、早い者勝ちではありませんから


 慌てなくても大丈夫ですよ。


 もっとも、昨日その課題を受け取った方々の中にも


 まだ解読できた人はいないのですが」


「…こんなクイズみたいな課題だったとは…」


「まあ、天下の白騎士に勝てとか


 そういうのじゃなくて良かったじゃねえか」


二次審査の内容が、自分が全く活躍できそうにない


ものであることにがっかりして呆然としているゾルカと肩を組んで、


ジュナイルは言った。


そして、ちらりと当の白騎士に目を向ける。


「なあ、キラリト殿」


「そうですね。


 ご希望でしたらそれでも結構ですよ」


キラリトは、すっ、と瞳を細めた。


朗らかな笑顔だが、ジュナイルはぞくりとした。


穏やかなその笑みの向こうに、全く異なる姿が


隠されているような気がした。


それを知り、肩をすくめて首を振る。


「やめておこう。


 難度が万倍跳ね上がりそうだ。


 現状でもお手上げに近いくらいだからな」


「本当だよ…どう調べればいいんだろ。


 図書館?」


「差し当たっては、書物や専門家にあたってみるしか


 ありませんかな…」


課題の紙に目を通して、ムトーが言った。


これが何らかの文章であるならば、


いつ、どこの文字なのかを知らなければならない。


しかし、本や人に頼って調べれば終わるものを


二次審査で課すだろうか。


「わたしにも見せて」


「ハイハイ。


 …昨日始めた人たちはどうやってるんだろうなあ」


フィラミラに紙を渡し、ゾルカは首をひねる。


先着一組ではないから、先に開始した者が


有利ということはない。


焦る必要はないものの、取っ掛かりを見つけるのは


骨が折れそうだった。


「とりあえずは…こらこらフィラちゃん、落書きしちゃダメ!


 それしか手がかりないんだから」


「できた」


「幼稚園か!


 落書きを完成させてどうする。


 あ~あ、キラリトさん予備に何枚かもらってもいいですか?」


「いらないよ。もうできたから」


「もうできたって…」


紙を手にしたフィラミラは


しばらく記された文字に目を走らせていたが、


やおら何かを書き始めていた。


自由奔放な彼女のことだからてっきり落書きをしているのだと


ゾルカは思ったのだが、どうやら違うらしい。


「拝見しましょう」


怪訝な顔のゾルカに代わって、キラリトが紙を受け取った。


しばし視線を落とすと、終始にこやかだった彼女は


一瞬表情を変える。


それはすぐに消え去り、後ろに控えていた


何らかの学者か専門家らしき初老の男性に紙を渡した。


彼もまたそれに目を走らせ顔色を変え、


なるほど、とつぶやきながらうなずいている。


そして、男性から小声で何事か告げられたキラリトは


笑顔で振り返った。


「合格です」


彼女がその言葉を発すると


ゾルカ、ジュナイル、ムトーは愕然としたが、


フィラミラは普段と変わりがなかった。


審査会場にあってはその美貌で


補欠勇者のゾルカよりも注目を集めていた彼女。


一体なぜこの課題を短時間で突破できたのか。





「それでは、三日後の正午にまたここへ来てください。


 二日目合格者の課題の期限がその時間までですから。


 他に二次審査通過者がいなければそのままあなた方に


 特別任務をお願いすることになります」


「は、はい、わかりました」


合格はしたが、これで終わりではない。


この後に待つ仕事を完遂してこそ、聖なる武器が手に入るのだ。


ゾルカが答えた後、キラリトはふっ、と笑った。


「先程の課題。


 実は参加者が解読できることより、


 参加者が解読できる人物を探して来ることを期待したのです。


 この街にその人材が世に知られず存在して発見されるのが理想で、


 期限が来ても通過者がいなければ無期限に切り替える予定でした。


 あの文字についての権威である人物に協力を断られ


 今回の件に至ったので、隠れた研究者を発掘できればと。


 幸運でした、才色兼備の才媛がそちらからいらしてくださって」


フィラミラを見て、彼女は改めて微笑む。


一方、ゾルカには疑問があった。


「なぜあんな課題だったんですか?


 あの文字を解読できる人を探して、ファンフランは


 何を見つけようとしているんです」


「このまま事が進めば三日後にわかります。


 私はこれで失礼します、またお会いしましょう」


一行に会釈をし、去って行く白騎士。


やわらかな物腰の奥に強大な力を秘める、ファンフランの守護神。


その大輪の華は、人々の願いを背負って


これからも鮮やかに咲き誇り続けるだろう。





「…あっ、そうだ!」


思い出したように言い、ゾルカは事務所を飛び出した。


しばらく走り回って、探していた背中を見つけて駆け寄った。


「バーラインさん!」


呼ぶ声に、バーラインは足を止めゆっくりと振り返る。


そこに笑顔はなく、相変わらず鋭い目がこちらを見ていた。


「…おかげさまで合格できました、ありがとうございます。


 …まあ、二次審査に合格できたのは


 俺の力じゃなかったんだけど…」


「愚か者ッッ!!」


「ええっ、また!?」


「己、独りだけが自らの力と思うな。


 お主を助けてくれる者がいるのならば、取りも直さずお主の力!


 己のみならず他者までも大いなる困難に


 立ち向かわせることのできる者、


 それもまた勇者と心得よ!」


「はっ、はい」


「今一つ、私はお主を助けたわけではない。


 補欠勇者などというものを葬る機会、


 はねのけるのならそれも一興。


 どちらにせよ楽しめると思ったまで。


 先程私も二次審査の内容を知ったが、


 キラリト殿はあの娘の名を知り


 お主らが通過する可能性があるとみて


 書類選考で落とすのは惜しいと考えたのだろう。


 あの課題では他に通過者はいないかもしれんからな」


「へ?」


「とにかく、ひとまず寿命が延びたな。


 一時しのいだだけと私は思っているが、


 違うというのならそれを証明するがいい。


 先刻、強くならなければと言っていたな、


 本気ならば私の友人を訪ねよ」


「友人?」


「そうだ。ロト・ロウという」


「!」


「今は大陸北岸のオルタ川沿岸付近に小屋を立て


 住んでいるはず。


 お主では相手にされるかわからんが、


 その気があるなら探し出せ。


 さらばだ!」


バーラインは、背を向ける。


二、三度頭を下げ、ムーランも続いた。


見送るゾルカは、小さく一礼する。


そして思った。


バーライン・ナイトは、補欠勇者を酷評した。


しかし、それだけではない。


彼は、自分の考えを正直に言葉にする。


今のゾルカでは話にならないと。


這い上がってみろと。


彼なりのやり方で、言ってくれているのだろう。


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