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補欠勇者  作者: 吉良 善
4 強くなりたい
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白騎士

「あのおっちゃんに賛成だね。


 ちょっとは気遣いを見せろよバーライン・ナイトっっ!


 話長いし!


 勘定は任せろだって?


 ありがたく受けようじゃないか!


 フィラちゃん、ムトー、本気を出せ!


 今日は食い放題だぞォォ!」


数分してようやく茫然自失の状態から回復し席に戻ったゾルカは、


荒れた様子で言うと数でも数えるかのごとく矢継ぎ早に注文をした。


フィラミラもはりきって腕まくりをする。


彼女の前にはすでに、切り株がテーブルに乗っかっているのかと


思うほどに皿が積み上げられていたが、


腹をすかした客がこれから食事を始めるくらいの勢いで


店員に向かって手を挙げた。


「何かよくわからないけど人の厚意は無下にできないね!


 追加追加ー、このページの料理全部!」


「…お二人とも、お腹を壊しますぞ。


 それにゾルカ君、バーライン殿も


 あなたのことを思っての発言でしょうし」


一応二人とも、とは言ったもののフィラミラが一度も


食後に不調を訴えたことはないことはわかっている。


ムトーのなだめる言葉に対しては、ゾルカは右側に


目や口が全て寄ってしまいそうなほどに顔を歪めて


疑わしそうな表情をした。


こんな奇妙な顔をする者をムトーは見たことがなかった。


「どうかなー!


 それにしちゃずいぶんとひどい言い方だったよ!?」


「…やれやれだな」


肩をすくめて、ジュナイルは小さく首を振る。


ゾルカがすねるのはよくあることだ。


バーラインが彼を罵るためだけにあんな話をしたとは


ジュナイルも思わないが、どんなに相手のことを


思ってのことであっても、結局は聞き手の受け取り方次第だ。


今夜ベッドの中ででも思い返してどうにでも解釈すればよい。


「で、どうするゾルカ。


 グレムド探しに注力するか」


「何言ってんの、明日も行くよ!


 面接は二日行われるって看板に書いてあったじゃん!」


「…書いてはあったが、今日落ちたものが明日受かるかね」


「さっきの面接官は俺に合ってなかった!


 もっと話のわかる人もいるはずだ!」


そういう問題ではないと思うが、


行って気が済むならとジュナイルは切り換えた。


次第にテーブルが料理で埋め尽くされ、


それによってこの話題は打ち切られた。





バーラインの宿泊先。


「ナイト様、先程のお店からの請求書が届きました」


「そうか、見せてみろ。


 …何だこの額は!?


 あの小僧、腹いせに他の客にも注文させたな!


 何という悪タレだ!


 将来が思いやられるな!」


さすがのゾルカも他の客にまで注文させてはいない。


だがバーラインが誤解しても仕方ない額が記されていた。


それでもムーランは、先の出来事におけるバーラインの


言い草を考えればこれくらいはやむを得ないかと思うのだった。





次の日、再び審査会場。


昨日に劣らぬ人数の希望者が訪れていた。


とはいえ二度目の志願者は他にはいまい。


ひと晩眠れば頭も冷えるかという淡い期待が


ジュナイルとムトーになかったわけではないが、


バーラインがもたらした熱は下がらなかったらしい。


今度こそはと意気揚々とやって来たゾルカであったが…


「またあんた!?」


「こちらのセリフだ!


 昨日不合格と伝えたでしょうが!」


担当の面接官である兵士は前回と同じ人物であった。


彼はうんざりした様子でゾルカの出願を受けたが、


書類には形式的に一瞬目を落としただけだった。


当然、即不合格が告げられた。


しかし、ゾルカは引き下がらない。


「そこを何とか!


 がんばりますから!ね!」


「私も別にあなた方が気に入らなくて駄目だと


 言っているわけではないんですよ。


 各国が認めて発行する剣士とか魔導士の証明書があるでしょ。


 それがあればこの審査は合格というだけなんです」


「だからありますって!補欠勇者の」


「いやいや、それは…


 一日署長とか観光大使とかと同じでしょう」


「違うよ!


 世間的にはそういう認識だったのか!?」


いかにも困惑顔の兵士を相手に、ゾルカは粘りに粘る。


フィラミラはすっかり飽きて地面に小石で落書きを始めた。


それを横目に、ジュナイルもそろそろ切り上げるかと口を挟む。


「ゾルカ、その辺にしておいたらどうだ。


 先方も他の希望者も困っているし、


 オレたちにしても次の行動に移った方が建設的だぜ」


「やっと見つけた強力な武器入手のチャンスだぞ!


 俺はこれから強くならなくちゃいけない…


 そのためにも、特別な武器が必要なんだ!」


「…」


必死な表情のゾルカ。


ただ必死なだけではない。


瞳の輝きが違うように見えた。


これまでの旅で、確かに彼には変化があった、


己の非力を痛感し、そして何かを守るためには


想いだけでは駄目なのだと。


おそらくだが、昨日叩きつけられたバーラインの言葉も


影響しているのだろう。


今も、まさに直面している。


補欠勇者という名には、何もない。


幾度かは、誰かのために行動でき、誇りにも思えた。


しかし、ゾルカの中身とも言うべきものは伴っていなかった。


「…お前の気持ちはわかった。


 だが、今回は所有者の意思がだな…」


ジュナイルがそこまで言った時、少し離れた所で


ざわめきがあった。


歓声のようなものも聞こえてくる。


それが、だんだんとこちらに近づいてきていた。


何事かと目を向けていると、兵士や希望者たちが


順々に道を開けていく様子が見えた。


その向こうから、ひと際存在感を放つ人物が


二人の大柄な騎士を従え歩いて来る。


女性のようだった。





「…あれは…」


つぶやくムトー。


兵士たちが次々と敬礼し、それ以外の人々の中には、


拍手をする者もあった。


次第にはっきりとしてくる姿。


日の光にまばゆく輝く純白の鎧に身を包む短髪の、凜としたその女性。


「おお~、結構な美人さんだなあ。


 …ん?あれ?見たことあるぞあの人…」


顔形が明らかになってくるにつれ、ゾルカの記憶と一致していく。


そして、あんぐりと口を開けてばんばんとジュナイルの肩を叩いた。


信じられなかった。


あの人物が、自分の前に現れるはずがない。


そんな想いが、叩く手の力を強いものにしていた。


「お、お、お、おい、ジュナイル!あの人!」


「ああ、まさかお出ましになるとはな…


 『白の騎士団』の団長様だ」


すなわち、『四騎士』の一人、『白騎士』。


エルトフィア屈指の実力を持つ英傑である。


「…(となると、この任務というのは想像以上に重大な内容なのか…)」


ジュナイルが考えている間にも『白騎士』は歩を進め、


ゾルカらの前までやって来て立ち止まった。


その姿は、優雅にして絢爛。


整った顔立ちに浮かぶ微笑は柔和ながら、芯の強さをうかがわせる。


大きな琥珀色の瞳が、一行を順に見た。


ゾルカが緊張して直立不動になる中、


彼女は鈴の音の如く涼やかな声を発した。


「賑やかなようですね。


 どうかしましたか」


「はっ、実は、…


 こちらの方々…というよりこちらの方が、


 昨日今日と不合格を伝えても納得していただけなくて…」


延々とゾルカに付き合わされていた兵士が説明した。


白騎士はそうですか、と答えてゾルカに向き直った。


泣く子も黙るほどの力と地位を持つ彼女であるが、


威圧的なものは全くない。


絹糸のような髪を揺らし、軽く頭を下げた。


「初めまして、私はファンフラン王国騎士団団長、


 キラリト・サープリスと申します。


 審査にご不満がおありですか」


「あ、あの…不満というか…」


大陸中に名の知れ渡る英雄との対面に、


足が地に着かないゾルカは頭が真っ白になる寸前だった。


しかし、考えてみればこれは好機である。


面接官に落とされようと、団長に認められれば


話は変わるに違いない。





「…いや!ご存知ないかもしれませんが、


 俺は補欠勇者です!


 世間から評価されてはいませんが、


 ちゃんと王様からいただいた証明書もあります!


 合格に…なりませんかね、これ」


「補欠勇者?」


小さく首をかしげたキラリトであったが、


すぐにああ、とつぶやいた。


ゾルカの名や顔は一度として報道で触れられたことはないが、


称号の方は取り上げられている。


彼女ほどの大物にも、知られていてもおかしくはない。


「ジェストール国王に認められているというわけですね」


「はい!」


「書類を見せてください」


要求に応じ、面接役の兵士がゾルカたちの書類を差し出す。


受け取って目を通すと、キラリトはゾルカたちに視線を戻した。


「なるほど…これを見る限り、不合格という判断が


 不当とは言えませんね。


 ただひとつ、考慮するとすれば…」


「キラリト殿」


落ち着いた響きながら、よく通る声が聞こえた。


何だか、昨晩嫌というほど聞いた気がする声だった。


皆が注目する中現れたのは、


「あっ!?


 バーライン・ナイト…さん!」


「フン…昨日はたらふく食べたようだな」


バーラインとムーランであった。


ゾルカを一瞥すると、バーラインはキラリトの前に歩み出た。


その彼に、フィラミラが声をかける。


「昨日はごちそうさま、おじさん!」


「何がごちそうさまだ!


 あの店の主人から聞いたぞ、お主が一番食ったそうではないか!


 …失礼。


 キラリト殿、久しぶりだな」


「ええ、お元気そうですね、バーラインさん。


 標的は見つかりましたか」


「フフ…さあな」


標的というのは、バーラインが勝手に論評する対象のことだ。


このような場所には、腕に覚えのある者が多く集まる。


優れた人材がいないかと、バーラインは発掘に訪れるのである。


「私に何か御用ですか?」


「通してやってはどうだ。


 書類選考程度」


言って、バーラインは顎をしゃくってゾルカを示した。


意外な援護に、当のゾルカは目を丸くする。


バーラインは、自分のことなど歯牙にもかけていないはずだ。


それがなぜ、後押しするようなことを言ってくれるのか。


「何か斟酌すべき事情でも?」


にこりと笑ってキラリトが尋ねると、バーラインも笑った。


「補欠勇者などというものに意味はない。


 しかし、これは貴殿も頭にあったと思うが、


 ジェストール国王が認めたということは事実。


 白の騎士団が行う審査でその名を不可とすれば、


 悪意ある者によっていらぬ火種を生じかねんのではないかとな」


「確かにそれは否定できません。


 国王直々に贈られた人物であれば、他の方の身分は


 度外視してもかまわないくらいなのですけれどね。


 いくらかでも実績があれば問題なく合格でしたよ、補欠勇者殿」


「は、はあ」


目を細めるキラリトに、ゾルカはこくりとうなずく。


多少なりとも世に認知される功績を


残していれば良かったということだろうか。


現在のところは、一日署長だの観光大使だのと言われるくらいだから


望むべくもない。


「とはいえバーラインさんもおっしゃったとおり


 国王由来の称号です。


 条件を満たせば私の裁量で合格にできないこともないですよ、


 この後の二次審査こそが我々にとって本当に重要な選考となりますし。


 ただし、ここにいる皆さんが納得してくださるならの話ですが」


悪戯っぽく、キラリトは笑う。


騎士でありながら、意外と柔軟な考え方の持ち主のようだ。


「…条件というと…」


「こういうのはどうだ」


「え」


口を開いたバーラインに、ゾルカは顔を向けた。


その先には、鋭い眼光に似合わぬ笑顔があった。


嫌な予感しかしない。


心境的には、不合格を言い渡された時と変わりはなかった。


「特別任務を引き受けられなければ、補欠勇者の名は封印する」


「えええええ!?」



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