ククカラ村
話はまとまったものの、レイファスは
そこまでお人好しではない。
ミレーたちには一日目と二日目は村の取材をさせて、
三日目に適当にインタビューを受けてやればいい。
そう考えた。
「フッ…ワムト国にはこんな言葉があるという…
『情けは人の為ならず』…この三日間は決して無駄にはなるまい」
こうして滞在しているだけでレイファスは
ククカラ村に協力したことになり、
またこのような小さな村のためにも行動する男であることが
ミレーたちにより広まる。
彼女らがここまで来たことは、結果的に
己の評価を高めることにつながったのだ。
「この世は皆持ちつ持たれつ…か。
まさしくだな…フッフッフ…」
その時、レイファスが泊まる部屋の扉が激しくノックされた。
「ちょいといいかい、お客さん!
助けておくれ!」
どうやら、女将のようである。
助けてくれとは穏やかではない。
食事を終えて一息ついていたところだが、仕方なく扉を開けた。
そこにあった女将の顔は、険しさと怯えが
相半ばするというところであった。
「一体どうした」
「村を出て少し行った所に、ゴブリンの一団がいるらしいんだ!
通りがかったモンがやられちまうよ、
相手は多数だし倒してくれとは言わないから
何とか追っ払ってくれないかい!?」
「何ぃぃぃ~!?」
嫌というわけにもいかない。
やむなく、レイファスは剣を掴んで太陽亭を出た。
すると、
「お供します!お邪魔はしません!」
ミレーとアラカン、タニオが撮影の準備をして後から出て来た。
そういえば、この村には宿がひとつしかないのである。
当然、同宿だった。
それどころか、ミレーが隣の部屋で残る二人がその隣の部屋に
泊まることになっていた。
先程の女将の大声が筒抜けになっていて、
彼女らはすぐに撮影に出る態勢を整えたのだろう。
「…魔物に近づいたりはしないように」
「わかりました!」
現場は村の西側、門を出て少し歩いた所らしい。
知らずに村人や旅人が襲われては大変だ。
レイファスは、走った。
「皆様、御覧ください!
ここ、ククカラ村の近くに現れたという魔物を打ち払うべく、
候補勇者レイファス・リリーシアさんが疾駆しております!
我々はこの村で取材活動を行っていたのですが、
急遽生中継でお送りしています。
緊迫の一部始終を現地からお伝えします!」
後ろから、実況しつつミレーが機材を担いだアラカンとタニオを従え
ついて来る。
「…(邪魔だな…)」
とは思ったが、生中継でそんな本音を大陸中に流されては困るので
今は気にしないことにして現場へ向かう。
村を出てからはミレーは実況をやめ、やや距離を取った。
無論、撮影は続けている。
「…あれか」
しばらく進むと、街道脇のややまばらな木立に
いくつかの影が見えた。
すでに夜の帳は降りているが月が出ているので真っ暗ではない。
獣人のような姿を持つその魔物たちは小柄で、
戦闘能力というよりも牙を向けてきた時の獰猛さと
道具を扱うところが厄介である。
目前の集団を見ても、月光を受けてちかちかと光る物を持っていた。
短剣や手斧といった武器だろう。
「…七匹か」
相手は七匹。
多いことは多いが、手練れの戦士にとってはゴブリンは
さほど手強い相手ではない。
思考も単純だ。
レイファスは辺りを見回し手頃な大きさの石を拾い上げ、
放り投げる。
石は放物線を描いてゴブリンどもの近くに落ち、
突然の身近な物音に彼らは恐慌をきたした。
その間に駆け接近していたレイファスは、
鞘を払って敵陣へ切り込むと同時に二匹を斬り伏せた。
そして、相手が反撃を始める前にさらに二匹を倒し、
残るは三匹。
「こんな所にいたのが運の尽きだな」
ようやく事態を把握したのか襲いかかって来るゴブリンたちを
見ながら、レイファスはつぶやいた。
彼の剣は、技巧派である。
切っ先を揺らすような動きで誘い、吸い込まれるように
向けられた敵の武器を叩き落して鮮やかに三匹を斬った。
「…余計な手間を取らせるな、全く…」
吐き捨てるように言い、刃をぬぐって剣を納める。
疲れを取り除くための滞在で、魔物退治をする羽目になるとは
ついていない。
しかしこれも、候補勇者の宿命なのか。
ところが、翌日以降もレイファスは村人から次々と頼み事をされた。
普段若者がいないからか、自分の孫くらいの年頃のレイファスに
接することが楽しそうで、悪意があるようには見えない。
そして、ミレーたちが取材をしている。
断ることができなかった。
そんな調子で、三日が過ぎた。
「―――――え~、それではレイファスさん、最後にひと言!
よろしくお願いします!」
「…ククカラ村は自然に恵まれ、あたたかな人々が穏やかに暮らす
平和な土地です。
現在村民を募集中、年齢・国籍は一切問いませんが
特に若者を大歓迎。
ぜひ一度ご来訪ください」
「ありがとうございました!
さて、三日間に渡り取材してまいりましたククカラ村特集、
いかがでしたでしょうか?
私たちも宿泊致しました村唯一の宿、
陽気な女将さんとミックスにぎりが名物の太陽亭、
皆様も利用してみてはいかがでしょうか!
それでは今回はこの辺で、我々はこれからも
候補勇者レイファスさんの活動を追いかけていきます!」
「何だと!?」
撮影を終えると、ミレーらはシャンデラにある
マジックテレビ本社に戻るため出発し、
レイファスも旅立ちの時を迎える。
色々手助けしたためか村人が皆で見送ってくれた。
「若者…いや、勇者レイファスよ、
必ずまた戻って来るのじゃぞ!
お主はいつかここに移住してくれるとワシは信じとる!」
「…考えておきます」
「お客さん、これお土産!
またのお越しを!」
老人と握手をし、女将から袋を手渡され、
レイファスはククカラ村を後にする。
人々の姿が見えなくなった頃、受け取った袋の中身を確認して
げんなりとした。
予想したとおり、ミックスにぎりとみられる食べ物であった。
「…私は食にはうるさいんだぞ…
適当な食材を適当に混ぜて握った物など口に合うわけがない…」
とはいえ捨てるわけにもいかない。
早々に処理してしまおうと、気は進まないが食べることにした。
「全く、何度もいらないと言ったのになぜよこすんだ…」
ぶつぶつ言いながらもひと口。
「大体、料理はまず見た目を楽しむもので、
こんな野暮ったいものは…。
…美味い」
滞在中一度も手をつけなかったことが惜しまれるほど美味だった。
味わう間に、つい先程まで過ごした村で生きる人々の笑顔が
思い浮かぶ。
雑用から力仕事まで色々やらされたが、
不思議と嫌ではなかった気がする。
鍛錬し、戦い、魔王を倒すのは兄に並び、超えるため。
それだけが目的だと思っていた。
だが、自分の働きで誰かが喜ぶという出来事に直接触れてみて、
どうでもいいと考えていたささやかな日常を守るということも
悪くないものだと、レイファスは感じていた。
そして彼は、旅を続けた先に目的を果たしたなら、
いつかまたククカラ村を訪れようと決意するのだった。




