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補欠勇者  作者: 吉良 善
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闇夜の戦い

四人は、ウィトナに戻って来た。


ゾルカはさほど遠くまで走っていたわけではなく


立ち直りも早かったので、時間の経過は二十分前後だと思われた。


この間に、何があったか。


何者かの気配は、変わらずある。


「村の人口がそれなりに多いことを考慮しても、


 まだ仕事を終えていないということは


 頭数はそう多くないのかもしれませんな」


茂みに隠れていたところで、ムトーが言った。


ジュナイルも同意し、


「とはいえオレたちよりは多いだろう、


 全ての敵を倒すことよりも追い払うことを主眼に置いた方がいい。


 フィラミラは物陰から派手に撃て、ただし一ヶ所にはとどまるなよ」


「了解」


「オレとムトーが斬り込む、ゾルカは後ろについて来い。


 狙うは頭だ」


「…」


ゾルカはごくりと唾を飲み込んだ。


頭とは、青く光る目の持ち主である。


敵を退けるには、頭領を叩くのが早い。


こちらが少数ということもある。


「いけるか」


もう一度、ジュナイルはゾルカを見た。


戦う決意はしたが、まだ恐怖はあった。


それは、周りから見ても明らかだったようである。


しかし、ゾルカの瞳は輝きを失っていない。


「…俺は、十八になった今でも何も恐れない男になんて


 なれてなかった。


 でも…怖いと思っても、それを乗り越えることはできる。


 できなきゃ…勇者の補欠にだってなれない」


その想いの変化は、成長と言ってよい。


が、残念ながら彼には実力が伴っていない。


前面に立たせるわけにはいかなかった。


「いくよ」


せかすように、フィラミラが言った。


利き手である左手の中指の先にばちっ、と電気が走る。


村人に被害が出ているのはほぼ間違いないので、


これ以上は時間をかけられない。


三人は、浅くうなずいた。


それを受け、フィラミラは左中指を暗闇に向ける。


彼女は夜目が利くのか、狙いを定める際に迷いがなかった。


「三番!」


小さく鋭くフィラミラが口走ると、中指の先から


青い雷が生じ瞬く間に伸びた。


同時に、左薬指でも電気が弾けた。


「四番!」


発された紫の雷はジグザグに幾度となく曲がりながら飛ぶ。


直後、三人が茂みから飛び出し駆けた。


「大したお嬢ちゃんだな…」


抜き放たれた剣を右手に握りながらジュナイルは感心していた。


フィラミラの魔導のコントロールについてである。


最初からつい先日の戦闘までほとんど制御できていなかったので


どうなることかと思ったが、大幅に改善されている。


この辺りは、名門魔導学院の教師陣が底知れぬ天稟を感じた


所以なのだろうか。


そう考えていたが、彼らが茂みを出てから撃たれた雷は


ほとんどがあさっての方向に飛んでいったので油断はできない。


「ゾルカ、敵そのものより敵の動きを見るつもりでいけ。


 闇にも濃淡がある。


 相手が動けばそれが見える」


「おし!」


月明かりさえもない闇夜であっても、何も見えないわけではない。


ジュナイルが言ったことはひとつのコツだ。


雷による閃光で、敵の位置は把握できた。


数は五人だったように思う。


ただジュナイルが驚いたのは、その姿である。


全身が毛に覆われた獣のように見えた。


だが、姿勢は人間のそれだった。


物語などにみられる獣人だろうか?


魔物が出現する世界なのだから、それはありうる。


しかし、


「(いや、…人間だ!)」


距離が詰まってきたことで、気配でそう感じた。


それにしても、


「(こんな低い姿勢で走るとは、やはり獣のような連中だ…!)」


異常なまでに体を低くして迫る黒い影。


手には、小太刀程度の長さの刃物を持っている。


先頭を駆ける敵が己の間合いに入ったのか、


その刃物を下段から突き出してくる。


バネを感じさせるその身体能力は


得物の長さの違いを十分に埋めるものだったが、


落ち着き払ったジュナイルは繰り出される小太刀を打ち落とし、


相手の体勢の低さを逆手にとって剣の柄を顔面に叩き込んだ。


「ふんッッ!!」


右の方からムトーの太い声が聞こえ、彼の拳を受けた敵が大地に転がる。


正面からは、別の敵が肉薄していた。


迎え撃とうとするジュナイルであったが、視界の端で動く影を捉える。


「隠れていたか!


 ゾルカ、家の陰だ!」


少し離れた所に、民家がある。


その陰に、敵が潜んでいた。


ゾルカを標的にしている。


「ジュナイルとムトーは前に集中してくれ!


 こいつは俺に任せろ!」


狙われる恐怖はある。


しかし彼は、それに抗い戦う覚悟をした。


大きな声で叫んだゾルカに、ジュナイルとムトーはにやりと笑う。


まだ未熟なゾルカだが、今の彼の声には


仲間を鼓舞する力が間違いなくあった。


リーダーに必要な要素のひとつを、この土壇場で見せたのである。





「(へなちょこのクセに、頼もしいこと言ってくれるじゃねえか!)」


「あれ?二人いない?


 二人いるんじゃないのこれ!?


 助けてェェェ!」


感心した矢先に取り乱すゾルカ。


隠れていたのがどうやら二人だったことを知り怖じ気づいた。


仕方なくムトーが対処しようとすると、


二人の内の一人を青い雷が撃ち抜き気絶させた。


「やるなフィラちゃん!


 さっすが天才!」


フィラミラという存在、魔導士というものの頼もしさを、


心底実感していた。


一瞬で立ち直り、ゾルカはもう一人の敵と対する。


彼の取り得のひとつが、この立ち直りの早さだと言えた。


手にしたレビブレイドを強く握り、振りかぶって斬りかかった。


手応えはない。


「くそっ!」


目は大分闇に慣れてきた。


敵は右手の方にかわしていた。


とっさに、右足を蹴り出す。


かすめるように、相手に触れた。


「俺は剣術を習ったわけじゃないからな!


 お行儀良くは戦えないぜ!」


だが相手は、バランスを崩してはいない。


逆に斬りつけられ、上半身をそらして何とかかわしたが


刃が髪をかすめ、ちっ、と嫌な音がした。


ほんのわずか、反応が遅れれば顔面を割られていたであろう恐怖。


次の瞬間には死体となって地に転がることになるかもしれない。


暗い世界の中迫り来る敵に、ゾルカは戦慄した。


そして、痛感した。


「(弱い…何て弱いんだ俺は!


 心も、腕も!何もかも!)」


一対一で戦えば、間違いなく敵の方が実力は上。


相手は青い目ではない。


それより数段落ちるだろう。


それでも、自分より強い。今は。


「(けど…俺には仲間がいるんだ!)」


五人もの敵を引き受け、


ゾルカが一対一で戦える状況を


作り出してくれているジュナイルとムトー。


そして…


「グッ!」


敵が低く呻き声を上げた。


ゾルカの真後ろから、彼を迂回するような軌道で


カーブを描き飛来した赤い雷が左腕に命中したのである。


もちろん、フィラミラの援護だった。


「うおおおおおっ!」


よろめく敵の頭に、ゾルカは思い切り振りかぶり


柄頭を叩きつけた。


鈍い音がして、相手はゆっくりと地に伏した。


「…みんな…俺、強くなるよ。


 ちゃんと自分で戦って、勝てるように。


 俺も、みんなを守れるように」


息を切らしながら、ゾルカは言う。


特別な血筋ではない。


天才でもない。


そんな彼が、世の名立たる豪傑たちに肩を並べるために必要なもの。


それは今、彼の胸にたぎる情熱だった。





ゾルカがようやく一人倒した頃、ジュナイルとムトーが残る敵を倒し


フィラミラも合流してきた。


敵はまだ息があるので縛ることにしたが、


フィラミラの魔導の明かりで照らし出された敵の姿に、


四人は息を飲んだ。


「…何だ…これ」


その異様さに、ゾルカは顔をしかめる。


一見すると、獣が横たわっているように映った。


赤茶けた毛皮に身を包んだ身体。


しかし、それは獣ではない。


毛皮の下から伸びる四肢。


間違いなく、人間のものであった。


頭部には、鹿や山犬の顔をかぶっている。


「…動物の皮を着ているのか…」


「狩人が昔こんな格好をすることもあったようだが…


 そういう雰囲気でもないな」


興味深そうに覗き込みながら、ジュナイルが言った。


今足元に倒れている者が狩人らしくないという意味ではなく、


この奇妙な身なりがなじみすぎている、と言えばよいのか。


こうして光を当てて姿をはっきりと目の当たりにしても、


敵の正体はわからなかった。


手早く彼らを縛り上げ、四人は行動を再開する。


「青い目はどこだ…!」


「…おそらく、オレたちがいることに気づいたんだろう。


 それでこいつらに足止めをさせた」


ゾルカに、ジュナイルは言った。


そのとおりなら、青い目はまだ目的を達成すべく動いている。


「村長さん…かな」


フィラミラがつぶやいた。


第一に考えられるのは、その線だろう。


村長の家がどこなのかはわからないが、一行は動いた。


とりあえず目指すのは、一番大きな建物。


走っていると、いくつもの村人の亡骸を目にする。


その度に、四人の怒りは高まっていった。


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