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補欠勇者  作者: 吉良 善
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ユラウ

数日後、一行はオズリッドの東、


エルトフィア大陸南岸の砂浜を歩いていた。


東に位置するファンフラン王国の王都ヴィルレーを


目指すためである。


グレムドと縁が深い地の内、オズリッドでは手がかりを


得られなかったのでもうひとつの場所へ行くのだ。


断崖絶壁の続く北岸と違い、南岸はニーベルムの山地を抜ければ


ファンフランまで大部分が砂浜になっている。


付近には珊瑚礁があるため浜に堆積する砂は白く、


魔物が現れることも少ないことから沿岸に点在する


港町や漁村周辺は保養地として人気が高まっていた。


「青い海、白い砂浜…


 と来れば後は水着美女なのだが…」


太陽の光に輝く海を眺めながら歩を進めていたゾルカは、


誰に言うでもなくつぶやいた。


現在地は近くに町も村もないため、観光客の姿は見えない。


美女ということでいくと辺りをきょろきょろと


せわしなく見回して最後尾を歩くフィラミラの端麗さは


世に稀に見るほどで、それが一行にいるのは


非常に幸運なことであるはずなのだが…


「…フィラちゃん、キミ水着とか持ってる?」


「持ってないしお家にもないよ。


 だっていらないもん」


「…」


中身はあまり女の子を感じさせない娘である。


きょろきょろしているのも景色を見ているわけではなく、


珍しい生物や植物を探しているだけだった。


「美人だしスタイルもいいのにもったいない…」


「そんなことよりお前」


うなだれるゾルカに、ジュナイルはやや強い調子で声をかけた。


「夕飯前にでもちょいとオレと打ち合ってみろ。


 これまでのような体たらくでは命がいくらあっても足りないぞ」


「俺、人に習うのは向いてないと思うんだよね…」


「うるせえ。


 死んでからじゃ遅えんだ、問答無用」


ゾルカは、まともに剣の訓練をしたことがない。


父も剣の扱いは下手だった。


自己流のつもりで振り回していた程度である。


その結果、ここまで魔物に遭遇した時は


ジュナイルとムトーでほとんどを退けるということになっている。


「どうせ教わるなら奥義とかさあ…」


「剣を指南してほしいのか、少年!」


「え?」


波の音を掻き消すほどの猛々しい声が響いた。


しかし、砂浜に四人以外の人影はない。


「俺はここだっ!!」


再び聞こえた声のする方に目を向けると、


海面から顔だけを見せている男がいた。


年の頃は三十を二つ三つ過ぎたくらいだろうか。


彫りが深く、迫力のある顔つきをしている。


「何やってるんだ、あの人…」


「むむう…何やら苛烈な鍛錬を行っているのでは…」


ゾルカに続いてムトーが言ったが、


首から下は海の中なので何をしているのかはわからない。


「鍛錬たって、海につかっているだけじゃ…」


「ふんッッッ!!!」


男は突然後ろを向き、裂帛の気合の声を発した。


かなりの距離があったが、四人が立っている場所まで


びりびりと空気が震えるのが伝わって来る。


そして、男がいる所から沖に向かって海が真っ二つに割れていった。


「えええええ!」


その漫画のような光景に、ゾルカは大声を上げ、


ジュナイルとムトーは目を丸くし、フィラミラは拍手をした。


「おじさん、すごーい!」


「おじさんというのは不本意だが、


 お褒めの言葉をいただいておこう…!」


いつの間にか抜いていた剣を納め、


男はこちらを振り返りゆっくりと歩いて来た。


その歩みに合わせるように、割れた海は元に戻っていく。


海水から出て露わになった男の体躯は


ムトーにも劣らぬほどで、ボロきれのような服の下からは


日に焼けた筋肉が覗いている。


伸び放題の髪と無精髭も相まってまるで野人のような風体だったが、


単純に巨体を由来とするだけでない、底知れぬ威圧感を放っていた。


敵ではないようだがとんでもない男にでくわしたと、


ジュナイルは感じた。


彼は剣術の心得があるから、膂力や体格の差などではなく、


剣士としての位の違いを真っ先に感じ取った。





「あのー、海の中で何をしていたんですか?」


砂浜に上がり、全身から雫をぼたぼたと垂らす男に、ゾルカが尋ねる。


すると、彼はフッ、と笑った。


「七日ほど風呂に入っていなかったのでな…!」


「…何だ水浴びか。


 もっとかっこいい理由があるのかと思ったよ」


「このような所においでとは、どちらへ行かれるのですかな」


ムトーがきいた。


確かに、男は観光や海水浴をしそうな印象はない。


が、この場所にそれ以外の目的で訪れることがあるのだろうか。


「俺は、アルトリアへゆくところだ」


「アルトリア?」


意外な答えに、ゾルカは怪訝そうな顔をした。


「どこからですか」


「ジェストール北部の村に立ち寄り、出発した」


「ちょっとそれ、東西も南北も逆ですよ。


 見当違いにも程がありますって」


「何っ!?


 ここはエルトフィア大陸東岸ではないのか?」


「…違います…」


「そうか…少々行き過ぎたかと思っていたが、


 方角が違い過ぎていたというわけか、ハッハッハ」


「アルトリアへは、何をしに行く?」


豪快に笑う男に、ジュナイルが問う。


今の時代、アルトリアへ行く者など限られている。


「決まっている。魔王退治よ」


にやりと笑む男。先程の技といい、彼にはそれを


目的とするだけの力があるのかもしれない。


「一人でか?」


「いかにも…!


 このユラウには一人で十分…!」


「…ユラウ…あんた、ユグレシア・ユラウか」


「俺を知っているのか」


「…ああ」


「どなた?」


ユラウの名にピンと来なかったゾルカは、


ジュナイルに顔を近づけてこっそり尋ねた。


「赤騎士と引き分けた男…と言えばわかりやすいか」


「何ぃぃぃぃ!?」


赤騎士エデン・リリーシアと互角となれば、


天下一を争える豪傑ということになる。


「それでも世にあまり知られていないのは


 正式な試合ではなかったことと、彼が浪人だからだろう。


 知る人ぞ知る人物だ」


「スゲー!ユラウさん!


 もしかして俺に剣を教えてくれるんですか!」


「ハッハッハ、俺は先を急いでいるのだが


 わずかな時間でよいのならやぶさかではないぞ。


 まずは筋を見てやろう、少年!


 とりあえず俺がやったように海を割ってみろ!」


「とりあえずって、準備運動じゃないんだから!


 できませんよ!」


「何と!


 あれしきのことができぬのか」


「あんなことができたら教わる必要ないでしょ大体…」


話を聞く限り、ユラウは色々と欠落したところのある人物のようである。


求道者として生きるあまり、他の枝葉末節は全て切り落としてきたのか。


何にせよ、ゾルカが彼に師事するには大分早すぎたらしい。


とても基礎から教えてくれそうな人物とは思えなかった。


これまでは、あえて言うならゾルカの師匠は林の木であった。


幹や枝を打ち、落ちて来る葉を狙って木剣を振り回した。


現在に至るまでそれが功を奏した場面はないが、


夢中になると日が落ちるまで没頭するタチだったため


体力と手首の強さは備わった。


「よくよく見れば、ろくに剣を扱えぬようだな」


改めてゾルカを見たユラウは、その実力の程を計って言った。


だがこの少年にいかほどの才能、伸びしろがあるのかは


ここで決めつけることはできない。


誰にも、化ける可能性は秘められている。


強い者は、世界に多いほどいい。


「出会えるかどうかは運次第だが、もし会うことができたなら


 ロト・ロウに教えを請うといい」


「すごい人なんですか!?


 どこにいるんです」


「わからん。


 俺は昔ジェストール内で会ったが、


 次に訪ねた時にはいなかったからな」


「…それ、もしかして


 訪ねた場所が違ったんじゃ…」


アルトリアを目指してこんな所に来てしまうのだから、


考えられると思う。


「では、俺はゆく。


 縁があればまた会おう」


「あのー、せめて案内役くらいは


 付いてもらった方がいいのでは…」


「ハッハッハ、不要不要!


 俺は自らの道は自らで切り拓く!


 魔王は俺が倒してくれよう、案ずることはない!


 さらばだ!」


巨体を翻し、ユラウは去ってゆく。


その大きな背中を見送りながら、ゾルカは思う。


「…多分…アルトリアにはたどり着けないんだろうな…」


大陸屈指の猛者。


しかし魔王の元に到着できなければ戦うことはできない。


実に惜しいことである。



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