再会
妙な人物だな、と思いながらもゾルカは
この男を知っているような気がした。
無精髭も邪魔してやや時間がかかったが、
記憶をたどっていくと少年の頃のある時に行き着いた。
「…あっ!?
あなたはもしや、スムース・メイヤーさん!?」
「何?」
名を呼ばれ、男は不思議そうな表情を浮かべた。
その様子を見るに、彼の正体はゾルカが
思い出したとおりであるらしい。
「いかにも私は神出鬼没のトレジャーハンター、
スムース・メイヤーだが」
「…俺が覚えている限りでは旅の剣士だったような気がするけど…」
幼い頃、ゾルカがアルトリアの森で魔物に襲われているところを
助けてくれたスムース・メイヤー。
流浪の剣士だと思っていたが、いつの間にか宝探しを始めていたようである。
「むっ、私の過去を知っているとは…
君は何者だ?」
眉をひそめるスムース。
覚えていないのは単純に忘れただけか、
それとも成長によってゾルカの顔が変わったからなのか。
「あのー、六年くらい前にアルトリアの…」
「少年よ、すまないな。
私は過去を振り返らない主義だ。
男は前だけを見て生きるものだ」
「…何か俺も前にそんなこと言ったような…
でも、俺が何者か説明するには昔を振り返らないと…」
「そうか。
たまには過ぎし日々に想いを馳せるのも悪くないかもしれん」
「面倒くさいなこの人…」
「何か言ったか、少年?」
「いやいや!
とにかく、アルトリアの森で熊みたいな魔物にやられそうだった時、
スムースさんに助けてもらったわけです」
「…アルトリアの森…」
その言葉を聞くと、飄々とした雰囲気のあったスムースの表情が
真剣なものになった。
やや離れた場所から突然現れた彼の様子を見ていたレイファスは、
「(かなり遣うようだな…)」
スムースをそう評価していた。
それでいくと、ゾルカは話にならないがその仲間の二人は
なかなかの力量であると見ている。
「思い出したよ」
己を値踏みするかのような視線に気づきながらも受け流し、
スムースは言った。
アルトリアの森、当時の記憶は彼にとっても特別なものである。
だから、思い出したというのはゾルカのことだけを指す。
「あの時の子供が君か、大きくなったな。
他に二人いたと思うが、息災か」
「…」
問われて、ゾルカは瞳を伏せた。
初めて見る彼の様子に、仲間たちはこれまでに聞いていない、
未だ解決に至らぬ過去があることを知った。
スムースもまた事情を悟り、しばし目を閉じる。そして、
「深くは聞くまい。
だが、これだけは言おう。
少年、君と再び会うことができて良かった」
そう言って、スムースは微笑んだ。
三人の子供と出会った後、アルトリアで大きな事件があった。
それを考えれば、再会した少年が先程の問いに答えない理由は、
友人たちはすでにこの世にいないか消息がわからないかの
どちらかであろう。
だとすれば、少年は心に深く傷を負っているに違いない。
しかし、彼は生きている。
辛い出来事に負けず、今こうしているのだ。
一人の立派な男である。
「名を教えてくれるか」
「デスゾルカ・レビです!」
「む?
すまん、聞き違えたようだ」
「…いえ、聞き間違いじゃありません。
デスゾルカです」
「そうかそうか。
なかなか大胆なご両親だな」
「…ゾルカって呼んでください」
「取り込み中すまないが」
二人の間に、レイファスが進み入って来た。
その視線は、スムースの腰にある剣に注がれている。
多くの宝石で飾り立てられた、非常に派手な物であった。
「その剣はグレムド…ではないな」
「グレムド?
あの神話に出てくる剣か?」
実在するのか架空の神器なのか、曖昧な存在である。
実際に目にした者でもなければ、あるかないか半々というくらいが
世間の認識だろう。
スムースは左逆手に柄を握り、わずかに鞘から刀身を抜いた。
外界に顔を覗かせた黄金に輝く刃は、鏡のように磨かれている。
「見てのとおり、違う。
血の色をしていないだろう」
「何だよォォォ!
アウトリルに出る怪しい剣士って
スムースさんのことかァァァ!」
思い出したように叫ぶと、ゾルカは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
予定では、遺跡から帰る時には伝説の剣を携えている予定だったのだが
あっさりと夢が砕かれたのである。
「怪しい剣士とは失敬だな。
私はここに泊まり込んで財宝を探していただけだぞ」
「十分怪しいよ!それに紛らわしいよ!」
またゾルカがつむじを曲げたので代わりにジュナイルが説明すると、
スムースは爽やかに笑った。
「ははは、グレムドの剣士だと思われていたのか。
唯一の収穫だったこの剣がよほど目立っていたのだな」
「宝石を並べた柄に黄金の刀身だからな。
言葉を選んで言っても悪趣味だな」
「うむ、実用性も乏しい。
装飾品か儀礼用だろう」
一体何日間彼はアウトリルにいたのか。
そんな疑問を皆が抱いた頃、レイファスは一同に背を向けた。
「グレムドはここにはなかったということだな。
私は先に失礼させてもらう」
「お前一人なの?仲間とかは?」
ゾルカが尋ねたがレイファスは振り返らない。
だが足は止めて、答えた。
「必要ない…と言いたいところだが私はそこまで傲慢ではない。
いずれ見つける。
正規勇者のパーティーにも劣らぬ猛者たちを」
「ふぅ~ん。オズリッドまで一緒に帰るか?」
「私が、君と?
フッ、冗談はやめてもらおう。
女神だけなら話は別だが」
「…お前ちょくちょくそれ言ってるけど
女神は遺跡に夢中だから。
さっきから話に加わってすらいないから」
「勘違いする前に言っておく。
君は間違っても私のライバルなどではない、
勇者ごっこをしたがる愚か者にすぎない。
もう会うこともないだろうが、万が一
私の邪魔をするようなら容赦はしない。
早死にしたくなければ故郷へ帰ることだ」
「なん…」
飛びかからんばかりのゾルカを、ムトーが後ろから
がっしりとつかんだ。
振りほどこうとしてもビクともしない。
じたばたしている間に、レイファスは去って行った。
彼の姿が見えなくなり解放されると、ゾルカはムトーに詰め寄った。
「ちょっとムトー!
人にあんなこと言うヤツ放っておいていいの!?
俺の両親悲しむよ!」
「そうですね、ぜひあなたの胸に納めておいてください」
「ああ~何って嫌なヤツだ!
俺があいつに何かしたかね?
あそこまで言われる筋合いはないよね!」
「ああ、だから相手にするな。
言い返したって仕方ないし、実力で言えば
奴はお前の十段二十段上にいる」
ジュナイルに言われ、ゾルカの頭に上った血は
みるみる下っていった。
「…さっきも言ってたけど、そんな?」
「それがわからないということは勝負にならないということさ。
さて、依頼は達成したし帰ろうぜ。
おい、女神様はどうなすった」
その後、いつの間にか奥の方へ進みかけていたフィラミラを連れ、
スムースとともに一行はアウトリルを後にした。




