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補欠勇者  作者: 吉良 善
2 仲間がほしい
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望まぬ出会い

五大国時代以前の遺跡であるアウトリルは、


高度な技術によって築かれた石造りの建物が並ぶ都市だった。


グラック山の中腹より高い位置にあるため体を順応させつつ進む。


到着するまで、誰とも会うことはなかった。


足を踏み入れた古代都市は動く物の気配が感じられず、


駆け抜ける風の他に物音を立てるものはない。


時が止まったかのような光景の中、


日々の暮らしで刻まれたとおぼしき家屋や塀の傷、


道の窪みといった痕跡が遠い昔の人々の息吹を伝えている。


この街が滅びてから幾年、他の地に国は生まれ栄えたが


アウトリルは変わらずここにあり、長らく何人も訪れなかった間も


同じ眺めが存在していたのだ。


今でも数少ない見物人が入り込む時以外は


時代の流れから外れたような静けさに包まれているが、


その静寂は先程から破られている。


「腹減ったな~。


 あれ、ジュナイル先生どうしたの?へろへろじゃないですかあ」


「うるせえ!


 お前は剣も頭もいまいちのクセに


 体力だけはバカみてえにありやがる」


「やだなあ、若いからですよ若いから!」


「どうなってんだうちのパーティーは…


 ムトーは見てくれのとおりだが、このスタミナバカに…」


言いながらジュナイルが巡らせた視線の先では、


フィラミラがちょこまかと動き回っている。


「…あの好奇心の塊か…」


ゾルカはどういうわけか体力だけはあり、


ムトーはあの見た目で体力がなかったら何なんだという肉体を持っている。


フィラミラは文句を言いながら山道を歩いて来て


さすがに疲労していた様子であったが、


アウトリルに着いた途端これまでの道程がなかったかのように


遺跡内を見て回り始めた。


旅慣れていて人並み以上の体力はあるジュナイルであったが、


一人近くにあった手頃な大きさの石の上に腰を下ろす。


「あ~、この先しんどいわ」


「この先って何だよ。


 もう着いたじゃないか」


「これからの旅って意味だよ」


「嫌なら無理について来なくてもいいんだぞっ」


「…お前、今のところ宿代とか食費とかの大部分をオレが出してたり、


 宿の手配とか情報収集の大部分をオレがやってることを


 忘れてるだろ…」


「…」


それは事実であった。


ゾルカとフィラミラがそういったことに向いていないのは


明らかであり、所持金もジュナイルが最も多い。


彼が抜ければどういうことになるか。


「…弱音を吐くなよジュナイル!


 仲間だろ俺たち」


「…仲間に嫌ならついて来るなと簡単に言うのかお前は」


「本気で言ったんじゃないって!わかるでしょそれくらい」


「静かにしてくれないか」


石造りの家々の間に、鋭い声が響いた。


「何だと!言い過ぎだろジュナイル!」


「オレが言ったんじゃない。わかるだろそれくらい」


明らかに違う方向から聞こえてきた。


誰もいないと思っていたこの遺跡に、何者かがいたのだ。


あるいは、ブラムの言っていた剣士なのか。


視線を巡らせると、石畳の道をこちらへ向かって歩いて来る


人影がひとつ。





「誰だ!」


ゾルカが誰何の声を上げると、人影は足を止めることなく


ため息をついた。


「歴史あるこの静謐な空間で騒ぐなど無神経にも程がある。


 その上自ら先に名乗りもしないとは、


 礼儀も弁えていないとみえる」


「何をコノヤロ…」


噛み付こうとするゾルカの口を立ち上がって右手で塞ぎ、


ジュナイルは人影の方へ一歩踏み出した。


「失敬した、お前さんの言うとおりだ。


 オレはオードラン・ジュナイル、訳あってこの場所へ来た」


「フン…少しは話のできる人間が一人でもいて幸いだった」


徐々に人影の姿形がわかってきた。


長身で美形、そしてどことなく育ちの良さを感じさせる…


「…あれ?何かどこかで見たような…」


現れた若い男の人相を見て、ゾルカがつぶやく。


男の顔に見覚えがあった。


「あの~、前にお会いしました?」


「生憎、私には君のような知性も品性も感じられない


 男と出会った記憶はないな」


「はあ!?」


「冗談だ」


「なあんだ、びっくりしちゃったよ。


 そうだよね、初対面の相手にそんな…」


「ということにしておこう」


「確信した。この人とはお近づきになれない俺」


「そう願いたいな」


「…」


ジュナイルは、男を無言で見た。


ゾルカは忘れかけているようだが、彼は覚えていた。


この男の正体を。


「!」


その男は、ジュナイルとムトーを一瞥した後、


フィラミラに顔を向けて固まった。


目を大きく見開いている。


フィラミラの方は男を全く見ない。


彼女の興味は未だ遺跡にあった。


男がすたすたと歩いて来て片膝をついたところで


ようやく目を向けた。


「何という僥倖…


 私はこれほどまでに美しい女性を、いや存在を他に知らない。


 ここで出逢うことができたのは、運命か必然か…」


「いや、偶然だと思うけど。あなた誰?」


きょとんとするフィラミラ。


彼女が目の前の男を覚えていない理由はゾルカとは異なる。


一行で最も記憶力がいいのは彼女だ。


「おい、先に名乗らなかったぞ。


 何で怒らないんだ」


ゾルカの抗議は右から左、男はフィラミラに恭しく頭を垂れた。


「失礼、私はレイファス・リリーシアと申します。


 以後ご別懇の程を」


「ナニーーーーーッ!?」





大声を上げて顔を向けてきたゾルカに、ジュナイルは


そうだ、とうなずいた。


顔だけでは思い出せなかったようだが、名も聞いて


ようやく記憶が呼び起こされたらしい。


「候補勇者様だろう」


「アイツかー!


 テレビでは好青年を装っていたクセにとんだイヤミ野郎だな、


 二番煎じ男だし」


それまで聞き流していたが、最後の言葉には


すでにフィラミラからは相手にされていなかったレイファスが


ぴくりと反応した。


「二番煎じとはどういう意味かな?」


彼はゾルカが何者か知らない。


当然の疑問ではあった。


ゾルカは、彼に人差し指を向けながら答える。


「お前、候補勇者なんだろ。


 聞いて驚け!俺はデスゾルカ・レビ、補欠勇者だ!」


「…」


妙な間があった後、レイファスは驚くどころか鼻で笑った。


その瞳には、冷たい光が浮かぶ。


「驚きはしないが、聞いたことはある。


 誰からも期待されぬ道化者…」


「何っっ」


「だが、君には感謝しよう。


 実力も才能も持ち合わせない補欠勇者などという存在に


 人々は希望を抱けず、結果として私が候補勇者となる機会が生まれた。


 君はゆっくりと遺跡巡りの旅でも続けるといい。


 私は実績を重ね、いずれ正規勇者となる」


「黙って聞いてりゃ言いたい放題言ってくれるじゃねえか!


 ここで勝負…」


剣の柄を握るゾルカの手を、ジュナイルが押さえた。


そして、


「よせ、ゾルカ。


 やられるぞ、…今のお前ではな」


声を低くして言うと、レイファスに顔を向ける。


「よう、このくらいにしておこうぜ大将。


 ところで、お前さんはここへ何しに来たんだ」


問われて、レイファスは辺りを見回した。


「わざわざここまで来たのだ、君たちも目的は同じだろう。


 グレムドだ」


やはりそうか、とジュナイルとムトーは思った。


たまたま時期が重なったのは奇蹟的ではあるが、


彼の大望を考えればゾルカと同じように


グレムドを欲してもおかしくはない。


「しかしこのような所にまで来なくとも、


 貴方の兄上ならばご自身の佩刀以外にも


 名剣の一つや二つお持ちなのではありませんかな」


にこやかに、ムトーが尋ねた。


レイファスの兄とは、エルトフィア四騎士の一人


エデン・リリーシアのことである。


「確かにそうだが、赤騎士の愛剣として世に名の轟く


 焔剣エンドリオンに並ぶほどの物はない。


 私は己の力で神殺しの剣を手に入れる…


 もしこの場所にグレムドがあるのなら、


 必要であれば君たちを退けてでも目的を達するぞ。


 ただしそちらの女神は除く」


「上等だァ、やってやらァ~!」


「静かにしてくれないか!」


レイファスにゾルカが拳を振り上げて言った時、


またも鋭い声が響いた。


見ると、左手の方に並ぶ家屋の一つから男性が姿を現した。


整った顔立ちだが、ところどころ跳ねたぼさぼさの髪のおかげで


印象を損ねている。


「おちおち寝ていられないじゃないか」


「いや何で遺跡で寝てるの。


 人様の家でしょ一応」


呆れたようにゾルカは言った。


髪が跳ねているのは寝癖だったようだ。



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