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補欠勇者  作者: 吉良 善
2 仲間がほしい
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メレーベル邸

ジュナイルの先導でやって来たのは、緑の植物に覆われかけた


屋敷であった。


周りを囲う塀は薄汚れ、門の向こうに見える庭は明らかに


手入れが行き届いていない。


建物自体は大きいがかろうじて窓とわずかに外壁がのぞく程度で、


伸びるに任されたツタは地面にまで達しようとしている。


様子をうかがってみても人気はなく、もう誰も住んでいないと


言われても納得してしまいそうな雰囲気がある。


「本当にここなの」


「そうだ」


ゾルカにうなずくジュナイル。


貴族の屋敷と聞いて来てみるとずいぶん印象が違う。


「没落貴族ってやつ?」


「こらこら、ゾルカ君。


 当のお宅の前で言う言葉ではありませんよ」


「そうは言ってもムトー…


 とても優雅に暮らしていらっしゃるようには…」


「わたしは嫌いじゃないなあ。


 廃墟とか好きだし」


「…おい、ここに俺より失礼なお嬢さんがいるぞ」


「二人とも、仕方ないですねえ…


 おや、どなたかいらっしゃいましたな」


門の前でわいわい騒いでいる連中がいるのに気づいてか、


屋敷の扉が開いて誰かが出て来た。


勢い良く走って来る。


「メイドさんですかな」


「…あんな全力疾走してお客様をお出迎えするメイドさん、


 俺なら雇わないな。


 いやその前に男の人じゃないかあれ」


近づいて来るにつれわかってきた。


背が低くて遠目には判断しづらかったが、男性である。


二十代半ばだろうか。


やがて四人の近くまでたどり着くと、彼は息を切らしながら


門を開いて歩み寄って来た。


「どうも初めまして、ブラム・メレーベルと申します。


 先々代の話が聞きたいとか…


 もしやグレムドをお探しですか」


「ええ、まあ…」


ゾルカがうなずくと、ブラムは表情を輝かせた。


「あのような剣をお探しとは、勇者様かそれに近いお立場の


 御一行では!?


 ようこそいらっしゃいました、勇者様!」


声を大きくしながらブラムが手を取ったのは、ジュナイルであった。


それを見たゾルカは、激しく反応する。


「ほーらこうなった、ほーらこうなった!」


「あはは、何よデス君、何におかんむりなの?」


妙に怒りを露わにするゾルカにフィラミラは笑ったが、


本人はそれどころではないのである。


常々抱いてきた不安が的中したからだ。


「そうでしょうね、ジュナイルの方が美形ですもんね!


 シュッとしてるもの!ぱっと見、彼の方がそうっぽいよね!」


「興奮しすぎだろ、ゾルカ。


 勇者でございって印があるわけでもないんだから


 そりゃ間違われることもあるさ…


 という前にお前はまだ勇者じゃないだろ」


「へいへい、そうでござんした」





ヘソを曲げるゾルカは放っておいて、ジュナイルは話を進める。


自己紹介を終えると、一行は屋敷内の広間に通された。


外に比べると内部は比較的手入れされているように見えたが、


聞けば現在ここで働いているのは昨日ジュナイルに応対した


メイド一人で、ブラムの家族も年老いた母のみだという。


「経緯はわかりませんが先々代、つまり私の祖父である


 マナオン・メレーベルはある日グレムドを携えて


 旅から戻ったそうです。


 それからすぐ街で暴れ、城に乗り込んだ。


 城に向かった後のことは、街の人々は知らないことですが」


視線をテーブルの上に落としたまま、ブラムはそう話した。


ゾルカはなるほど、とうなずいた。


「だからグレムドの情報が全然出て来なかったのか」


「祖父が城へ行ったのは王を狙うためだったようです。


 いかに強力な剣を持つとはいえ多勢に無勢、


 ニーベルムの“青の騎士団”に追い詰められ、


 祖父はその場を脱し姿を消した…


 以降、本人もグレムドも発見されていません。


 残された父は相当苦労しました、事件後は全てではないにしろ


 多くの人から当家は冷たい目で見られるようになりましたからね。


 それでも蓄えもありましたし何とかやってきたのですが…」


「お前さんの代になってそれも底を尽きかけていると」


「…はい」


ジュナイルに、ブラムはがっくりとうなだれるようにして答えた。


身内がそのような事件を起こせば世間から


白い目で見られるようになるのは聞かない話ではなく、


これまで多くの苦難があっただろう…とゾルカらは思い、


そのいたわりの気持ちはブラムにも伝わったところであったが、


そんなことは一切気にしない声が場の空気を打ち破る。


「お父さんとブラム君が今までやってみて


 こんな状況になっちゃったならさあ、


 この家か街を出ちゃえば良かったんじゃない?


 ブラム君とお母さんだけならおっきすぎるじゃない、ここ」


つぎはぎのあるソファーに、両手を頭の後ろで組んでもたれかかりながら


フィラミラが言った。


縛られることを嫌う彼女にしてみればそうだろう。


屋敷や土地への頓着に意味を見出さない性格である。


「お父上やご先祖が守ってきたものを、ブラムさんは受け継いだのです。


 それにはお屋敷や家柄だけではなく、この地で人々のために


 尽くしてきたという誇りも含まれているのでしょう。


 ですから、ここを離れればいいということではないのだと思いますよ」


「ふーん、そっか」


柔らかな口調でムトーが言うと、フィラミラはこくりとうなずいた。


生来素直な娘だ。


「がんばって、ブラム君!」


「は、はい…ありがとうございます。


 そのためにも皆さんのお力を貸していただきたいのですが」


「さっきも言ったが、」


頼られて身を乗り出そうとするゾルカを手で押さえ、


ジュナイルが口を開いた。


「オレたちはまだ勇者様御一行にはなっていないんでね、


 事情はわかったがお前さんの問題が解決して


 めでたしめでたしというわけにはいかない。


 依頼内容を聞いて受けるかどうかを決めるが、


 遂行する場合の条件が二つある」


「ど、どのような…」


「一つ、成否に関わらず経費は負担してもらう。


 二つ、グレムドを発見、入手できた際には


 オレたちがいただく。


 どうだい、飲めるか」


「わかりました、私もグレムドとは縁を切りたい心境ですので…」


「でも、失敗しても経費をもらうって、大丈夫なのかなぁ」


申し訳なさげなゾルカ。


メレーベル家の現状を見ればわからなくもないが、


彼の様子を見てジュナイルは鼻を鳴らした。


「ボランティアじゃねえんだ、滞在してるだけでも


 金がかかるんだぞ。


 ゾルカさんが稼いでくれるっていうなら話は別だが」


「ブラムさん!宿代からティッシュ一枚まできっちりいただきますよ」


「はあ…まだいくらかは手元に蓄えが残っていますからお支払いしますが、


 宿はこの屋敷を使ってはいかがでしょうか」


「それはありがたいな。


 しかし見知らぬ者がうろうろしていればお母上に迷惑になる、


 離れがあっただろう。


 あそこを使わせてもらっていいかな」


ジュナイルの言うとおり、この屋敷には離れがあった。


三階建ての建物で、本館に比べると小さいが、


それでも一般的な宿屋くらいの規模はあった。


「かまいませんが、あそこは長いこと使っていませんでしたから…


 モニータさんに頼んでひととおり掃除してもらいます」


モニータというのはたった一人のメイドのことらしい。


先程、茶を運んで来た時に見た印象では三十代半ば、


ブラムより体格のいい女性であった。


「助かります」


「わたし三階がいいなー!」


「…フィラミラは三階を全部使わせてもらえ、


 男どもは一階で世話になる。


 ブラムさん、依頼を聞こう」


「はい」


ブラムは居住まいを正し、再び話し始める。


ゾルカも、姿勢を直した。


困った人のために働く、初の機会である。


緊張した。





「西のグラック山にアウトリルという古代都市の遺跡があるのです。


 かなり上の方になりますので一部の物好きな旅人が


 行くというくらいなのですが、少し前から


 そこで輝く剣を持った剣士が目撃されているらしいのです。


 その噂が広まって、アウトリル遺跡にグレムドの剣士が


 出没するという話になってきていまして…」


「真偽を確かめて、悪い奴なら倒せってことですね?」


「そうですね、今のところ被害は出ていませんが…


 噂を絶ちたいのはもちろんですが、


 私自身もこれで区切りをつけたいのです。


 祖父は罪を犯しました、しかしいかに息子や孫とはいえ


 我々まで人生の全てをその贖罪に


 捧げる必要はないのではないかと…」


ブラムの父は、己の運命が暗転しメレーベル家が


転がり落ちてゆく失意の中生涯を終えた。


そんな父を間近で見てきたブラムにとっては、


家の再興よりも生まれた時から自分に絡みついていた


因縁を断ち切りたいという想いの方が強いのかもしれない。


ゾルカは、仲間たちの顔を見た。


フィラミラは何か考えている風でもなかったが、


残る二人は答えを任せてくれる意思が見て取れた。


「任せてください、引き受けましょう!


 その輝く剣とやらを手に入れて、ズバっと解決してみせますよ!」


「ありがとうございます!


 …ただ、その剣がグレムドで、もし自分の物とするのならば…


 くれぐれもお気をつけください。剣に己を支配されないように…


 常々、人々を守りたいと願い、鍛錬を重ねていた祖父が


 魔人のように成り果ててしまったのですから…」


語り継がれていることが真実であるならば、聖魔どちらにも傾く神剣。


人の身で魔王を打ち倒そうとするのなら、たとえ物語に登場する


神器であろうと使いこなさなければなるまい。


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